ゴールデンウィークにアニメ映画をテレビで見たり、実際に映画館に行ったりした、という方も多いのではないでしょうか。海外の人に日本のイメージを聞くと、よく「アニメ」と「忍者」が挙がるといいます。忍者は令和時代にはほとんど見かけないので、アニメが名実ともに日本を代表する文化といえそうです。
では、私たちはどのくらい日本アニメについて知っているでしょうか。日本で最初のアニメーションは? テレビアニメがお茶の間に浸透したきっかけは? あのアニメがブームになった背景は? 教養として一から日本のアニメを勉強してみるのもいいかもしれません。
日本のアニメ史を一気に把握
今回紹介する新書は『日本アニメ史 手塚治虫、宮崎駿、庵野秀明、新海誠らの100年』(津堅 信之・著/中公新書)。著者の津堅 信之さんは、アニメーション研究者で日本大学藝術学部映画学科講師。アニメを映画史や大衆文化など広い領域から研究してきました。『日本のアニメは何がすごいのか』(祥伝社新書)、『新海誠の世界を旅する 光と色彩の魔術』(平凡社新書)、『京アニ事件』(平凡社新書)など、アニメに関する著書も多数です。
第1章は、1917年(大正6年)に上映された日本初の国産アニメーションのひとつ『猿蟹合戦』の話から始まります。海外アニメーション映画を見よう見まねで研究し、作られた作品。最初は動くキャラも動かない背景もすべて一枚絵に描き、それを何枚も連ねていく、非常に手間がかかる「ペーパーアニメーション」的な手法だったそうです。
日本アニメのターニングポイントとなったのは1963年。テレビアニメ『鉄腕アトム』の放送が始まります(第4章)。「アニメを作るために漫画を描いた」と公言していた手塚治虫さん。そんな手塚さんが率いたスタジオ「虫プロダクション」による『鉄腕アトム』は、「毎週1回・1話30分・連続放送」という、今でも引き継がれているテレビアニメの枠組を確立しました。
その一方で、1話の制作費が250万円かかるところを、55万円という採算度外視で引き受けて……。賛否はあるものの、津堅さんは「商品としてのアニメを形成した虫プロは産業的モダニズムをもたらしたと言い換えることもできるだろう」と評しています。
アニメ史上の重要年をピックアップし、カギを握る名作を解説していくメリハリある構成が本書の良さ。しっかりとした堅い内容ながら読みやすく、それぞれの時代背景のなかで、各アニメが果たした役割や意義も見えてきます。
第6章に入ってくると、懐かしいと思う読者も増えてくるのではないでしょうか。1979年は、富野由悠季監督の『機動戦士ガンダム』、宮崎駿監督の『ルパン三世 カリオストロの城』、りんたろう監督の劇場版『銀河鉄道999』と名作が数多く輩出された年。
しかし、『カリオストロの城』は興行成績が振るわず、視聴率が一桁だった前年のテレビアニメ『未来少年コナン』(同じく宮崎駿監督作品)とともに当時は失敗作とみなされていたそうです。実は、このつまづきがのちのアニメ史に大きな影響を及ぼすことに……。単体の作品だけを見ていてはわからない、歴史のつながりを感じるエピソードも豊富です。
現在は、アニメスタジオが配信する動画チャンネルやサブスクの動画サービスで、古い名作を手軽に楽しめる環境になってきました。東京国立近代美術館フィルムセンターが運営するサイト「日本アニメーション映画クラシックス」には、戦前の国産アニメーション映画も公開されています。本書に挙げられたアニメ史に残る作品をじっくり鑑賞すれば、日本文化の深層に触れられるかもしれません。
【書籍紹介】
『日本アニメ史 手塚治虫、宮崎駿、庵野秀明、新海誠らの100年』
著者:津堅 信之
発行:中央公論新社
初の国産アニメが作られてから、一〇〇年余り。現在、海外でも人気が高く、関連産業も好調だ。本書は、今や日本を代表するポップカルチャーとなったアニメの通史である。一九一七年の国産第一作に始まり、テレビでの毎週放送を定着させた『鉄腕アトム』、監督の作家性を知らしめた『風の谷のナウシカ』、深夜枠作品を増大させた『新世紀エヴァンゲリオン』など、画期となった名作の数々を取り上げ、その歴史と現在を描く。
【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。