数あるテレビショッピングの中でも、ゲットナビウェブ読者が気になる家電製品を扱うジャパネット。そのジャパネットグループが、2022年3月、BSJapanext(ビーエスジャパネクスト) を開局した。果たして、BS放送ではどのような戦略を取るのか。株式会社ジャパネットブロードキャスティング代表取締役社長・田道祐樹氏に真意を聞いた。
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(構成・撮影:丸山剛史/執筆:松本祐貴)
世の中に埋もれている「モノ・サービス・地域の魅力」などを広げていくことがBSJapanextのコンセプト
ーー日本のテレビショッピングの代名詞といえるほどのジャパネットですが、2022年3月、BS放送の263chで『BSJapanext』を開局することになりました。開局の経緯を教えてください。
田道 祐樹(以下田道) 総務省から開局を承認されたのが2019年でした。その時期、私たちは、スポーツ・地域創生事業を始めていました。例えば、プロサッカークラブのV・ファーレン長崎、プロバスケットボールクラブの長崎ヴェルカの運営などです。2024年には長崎スタジアムシティというサッカースタジアムを中心とした複合施設も建設予定です。
このようにいろいろな地域と関わることが多くなり、ジャパネットグループは良いモノを「見つけて、磨いて、伝える」という考え方を大切にしているのですが、まだまだ知られていない地域の魅力を伝えていきたいと考えるようになりました。そこで、BS局という新しい挑戦を選んだのです。これまでのジャパネットのお客様とBS放送の視聴者を地域創生で元気づけ、ハッピーにしたいと考えています。
ーーBSJapanextで一番大切にしている軸は、いま出てきた「地域創生」でいいのでしょうか?
田道 はい。開局以前からジャパネットグループは地域創生を考えていました。生半可な気持ちではなく、本気で地域創生をやりたいんです。
私自身は長崎市出身です。長崎市は、2020年、2021年と2年連続で全国で2番目に転出超過、つまり人口流出が多かったんです。私は実際長崎に住んでいたので、思い入れもありますし、好きな都市です。遊ぶところもあって、いい街なんです。それでも知らない人には魅力が伝わっていない部分もあるんですよね。もちろん長崎市以外にも、全国に魅力のある自治体はたくさんあります。そんな街の観光地、特産品をBSJapanextの番組で伝えて、特産品が売れたり、旅行してもらえたら本当にうれしいです。
ーーそれらを実現する具体的な番組は旅番組ですか?
田道 夜7時から9時の旅番組はBSJapanextの目玉です。毎日出演者が違います。月曜『徳永ゆうきの一期一会はなうた旅』火曜『林家三平のおきらく旅』水曜『宮川一朗太のおっ!さんぽ』木曜『石丸謙二郎/中澤裕子のよかたび』となっています。
ーー地域創生のための商品もあるんですか?
田道 実際にタレントさんが旅をして出会った商品や地域の特産品、工芸品などがあります。それを視聴者が、アプリで気軽に買える世界を実現したくて、少しだけスタートさせています。商品も売れて、観光客も増えていけばベストです。
『アタック25』の復活に加え、オリジナルの旅番組も強力なコンテンツ
ーー現在放映されている番組で「これを見てほしい」という注目番組はありますか?
田道 繰り返しになりますがやっぱり地域創生をテーマにしている夜7時からの「旅番組」ですね。毎日放送しているので、視聴者の方も「自分の住んでる街に来るかもしれない」と楽しみにしてもらえるかと思います。
それ以外では、夜9時からの出演者がやりたい企画を一緒に実現する番組です。この枠はタレントさん自らの「こういうコンセプトの番組をやりたい!」という想いを実現したものなんです。何度も本人とスタッフが打ち合わせをして作りました。国分太一さんは手作り、ものづくりが好きな方ですので、金曜夜9時からの『国分太一のTHE CRAFTSMEN』では、国分さんと同い年という車を購入し、組み立てています。
月曜夜9時の『西川貴教のバーチャル知事』では、さまざまな地域の課題について、解決へのディスカッションをしています。この番組も反響は大きいです。
もちろん『パネルクイズ アタック25 Next』もビックコンテンツです。アプリ連動企画で、出演の応募を受け付けたところ、1600人以上もの応募がありました。現在、予選会、面接へと進んでいるところです。これまでどうやって応募すればいいかわからなかった方にも、アプリひとつで簡単に応募できるのが、人気に火をつけているかもしれません。
ーーBSJapanextのコンセプトのひとつは地域創生、もうひとつは、「出演者のやりたい企画を一緒に実現する」でしたから、まさにやりきっていますね。
田道 一番は地域創生。もう一歩引いたとこでは「リアルを伝える」ことも大事にしています。タレントさんが本気でやりたいこと。旅番組なら実際にその場所に行き、その場所の良さをリアルに伝えたいんですね。脚色しないリアルの良さを、タレントさんと作っていきたいですね。
ーー地方はどこも過疎化傾向にあります。そういった地域からの売り込みも受け付けますか?
田道 ぜひアプリで応募していただきたいです。
ーー海外在住の日本人や海外のビジネスへの旅番組の取材も今後はありますか?
田道 日本にない魅力のある商品ならありえます。ただ、まずは地域創生で成功事例を作って、その先に考えたいですね。
通販番組の編成は全体の30%、残り70%のオリジナル番組で勝負する
ーーゲットナビウェブでは、同じく22年3月に開局したBS松竹東急さん、BSよしもとさんにも取材をしました。この2社はエンターテインメントの会社です。BSJapanextは少し異業種に思えますが、参入理由も違うのでしょうか?
田道 私たちもテレビショッピングを30年以上継続しているので、そこまで異業種、別世界という感覚はありません。放送のノウハウもありますし、通販を通していろんなテレビ局様との関係もあります。
ーーBS局には、BS12トゥエルビのQVCやBS11イレブンのショップチャンネル、ほかでも通販番組はわりと編成されています。ライバルですか?
田道 そんなことはまったくありません。なぜなら、BSJapanextは通販番組の割合が30%です。70%が自社制作番組や購入番組となっていて、競合とは考えていません。むしろ、共存共栄し、BSの世界を盛り上げていきたいと思っています。
ーーその番組の比率は、オリジナルコンテンツで勝負していくという決意のあらわれですか?
田道 そうですね。自社制作をしたいですね。現状、ドラマやローカル番組の購入もありますが、自社制作番組に誇りを持って、枠を拡大していきたいです。
同時配信だけでなく、番組に参加できるアプリが最大の武器
ーー先程から話に出ているBSJapanextのアプリとはどのようなものなのでしょうか?
田道 アプリでは、自社制作の番組のサイマル(同時)配信、見逃し配信があります。(※一部番組はアプリでの配信は行っておりません)BS放送の環境がなくても、テレビの前にいなくても見ることができます。また、番組で紹介した商品は、会員登録すればすぐに買うことができます。
番組に参加する機能もあります。できれば視聴者の方に「この地域いいよ」「この特産品は美味しい」などの情報をどんどん書き込んでほしいと思っています。将来的に旅番組では、視聴者の投票で旅先を決めることもできるかもしれません。
また、リアルタイムコメント欄もあります。アプリの中でコメントしながら楽しむ世界を体験してもらいたいです。先日、『一期一会はなうた旅』の徳永ゆうきさんが、リアルタイムコメントに参加してくれたんです。すると盛り上がって1000件以上のコメントが付きました。若い世代はそういう楽しみ方を知っていますが、BSを見るシニア層にもそういう参加の仕方をしてもらいたいです。
最後に私たちがこのアプリで実現したいことをお話させていただきます。通信販売では、お客様とリアルにつながることができないので、お客様からいただくレビューの点数を重要視しています。この番組作りでも、アプリでお客様からのレビューをいただいて、評価していただきたいんです。そして、番組の点数ランキングやコメント数ランキングを作ろうと考えています。それぞれの番組が切磋琢磨し、視聴者も参加したくなる、そんな双方向性をアプリの未来にみています。
番組に出てきた美味しそうなものをアプリで買えるようにしたい
ーーBSの無料放送のビジネスモデルは、スポンサーからの広告費だと思いますが、BSJapanextでは、自社の通販番組もあるので、ビジネスモデルが違うのでしょうか?
田道 他局と同じ部分では、スポンサーからのCM収入は、私たちも柱にしています。もうひとつの柱は、おっしゃる通り通販番組の売上です。
ビジネスとして収益化する必要はあると考えていますが、収益をあげることを第一優先にしていくつもりはありません。
地域創生以外にも伝えたいことはいっぱいあるんです。政治の課題に踏み込むかは悩むところですけど、例えば子育てや知られていない地方企業や観光スポットなどですね。できれば、利益をそういう部分にフォーカスできる新しい番組に使いたいですね。
現状は、初期投資が大きいので初年度は収益化が難しいとは思っています。早い段階での収益化を考えています。
ーーマネタイズのやり方のひとつとして、ある番組で出てきたモノを、次の枠の通販番組で商品として売ることもあるんですか。
田道 あるかもしれませんが、あからさまな通販となるとよくないとは考えています。ここは絶妙なバランスが必要ですね。
2時間かけて、タレントさんが「美味しい」と紹介したものを、「今から買えます」だと、視聴者もひいてしまいますよね。また、そればかりだと旅番組自体を見てくれなくなります。ただし、地域にとっては、旅番組に出てきたモノが売れることは、いいことです。そのバランスを探しているところですね。
私自身は、地上波の旅番組や週末の夕方6時ぐらいの番組で地方の美味しそうな食品が出てきたら、ネット通販で買ってしまいます。その世界観を自社制作の番組で実現したいんですね。
でも、自分で探すことや、アクセス集中でつながらなかったりするとストレスを感じるんです。それがBSJapanextのアプリだと最短2タップ、3タップで買えるんです。
欲しいと思っても、探して、住所を登録するのが面倒な方はたくさんいると思うんです。これだと、欲しい人は買えない、生産者は買ってもらえない。ここをつなぐ橋渡しをしたいと思っています。生産者や地域の方の想いにも売上でこたえたいですね。
長期的には地域創生の新番組をもっと広げたい
ーーBSJapanextのメインターゲットはシニア層に絞っているのでしょうか。
田道 幅広い世代の方に見ていただきたいので、ターゲットを絞ってはいないです。とはいえ、番組のテンポは、シニア層の視聴者が見やすいように意識しています。
ーーBSJapanextはできたばかりですが、どういう戦略で認知度を高めていきますか。
田道 ひとつの方法で0か100かはないと思います。ひとつはタレントさんのパワーですね。SNSなどで発信していきます。また、アプリのリアルタイムコメントとツイッターの連動なども考えています。
また通販で培ってきた会員の方へは、会員様に配布しているカタログなどでのアプローチを継続的にしていきます。
ーー地上波は視聴率主義な面もありますが、BS放送ではいかがですか?
田道 私たちは、アプリのサイマル(同時)視聴もあるので、視聴率だけではなく、サイマル視聴の指標も持っています。視聴率は大事ですが、それだけを求めるものではありません。
ーー開局して、約1か月ほど経ちました。タレント、スタッフ、社員などの意気込みはどうですか?
田道 タレントさんには楽しんで番組に参加していただいています。開局時はバタバタしていましたが、スタッフは番組をずっと作り続けることにようやく慣れてきたぐらいじゃないでしょうか。
ーー今年の目標、長期の目標を教えてください。
田道 今年はベースをしっかり作り上げてしまうことです。数年後には収益化したいです。そのためにも今年は学びの年です。そして長期的には、地域創生のための新しい番組作りを広げていきたいです。
バイヤー担当出身の社長だからこそ、生産者の苦労を知っている
ーー今回の取材では、地域創生への思いが強いのですが、これは会社としての方針ですか?
田道 実は私は2018年から2021年まで、通販の担当役員で食品バイヤーの担当をしていました。そのとき、コロナ禍で生産者の困った姿をたくさん見て、行政の方ともたくさん話をしました。
そこで「世の中にある地域の特産品や魅力をまだまだ伝えきれていない」と感じたんです。ただ、今まではモノを売ることでしか伝えられませんでした。
BSJapanextでは、旅番組を作ることでリアルに伝えていけます。これこそ本気で地域創生に貢献できる手段と考えています。ぜひとも最後までやりきりたいと思います。
ーーバイヤーを実際にされていた田道社長の個人的な思いも強いんですね。
田道 その想いの強さも乗っていますね。もちろんジャパネットグループも地域創生を通販に並ぶもう一つの事業の柱としています。
ーーBS局を作るというのは大規模な新事業だったと思います。課題の解決はどうしましたか?
田道 地域創生、リアルを伝えるというコンセプトのもとに、どのような番組作りをするかが大きな課題でした。通販番組のスタッフたちは、旅番組やバラエティ番組の制作はほぼ初めてです。
そこで、2019年に総務省からBS局の認定をいただいてから、中途社員の採用をしました。さらに、BSの放送枠でいろいろなジャンルの番組づくりに挑戦し、試行錯誤を繰り返してきました。
ーーオリジナル番組を自社で制作するという心意気が素晴らしいですね。世の中には制作会社に丸投げする局もありますよ。
田道 それはジャパネットグループが自前主義だからかもしれません。メリットは、圧倒的なスピード感、社内でのノウハウの蓄積、改善の早さなどが挙げられます。どの事業もトライアンドエラー、トライアンドランで進めています。自前主義はジャパネットグループの特徴ですね。
ーーしかし、大事業だけにリスクもあったと思います。そのあたりは考えましたか?
田道 想定した条件を実現していけば、理屈上、大丈夫と考えていました。後は、それを信じてどこまでやりきれるかです。リスクはもちろん感じましたが、軌道修正し、やってみることでしたね。
通販事業もそうでした。いきなり成功したり、100点をとれることはありません。会社としても過去の経験があったので、リスクよりはその先のワクワクした世界を信じました。「行けるんじゃないか」とGOを出すのは会社の文化ですね。
ーー最後にBSJapanextの今後の展望をお聞かせください。
田道 BS放送では、私たちの強みならではの部分はどれだけアプリを活用し、お客様と双方向でつながっていけるかです。アプリのダウンロード数をどんどん増やしたいです。アプリから「自分の地域を紹介してほしい」というお客様からの声が渋滞するような世界を作れたときが、私たちの番組作りが認められたときだと思います。そんな魅力的なテレビ局になりたいですね。そのために今は地道に番組を作り、発信し続けていきます。
BSJapanextの番組表を見るとテレビショッピングの時間はたしかに少ない。もっと番組編成で楽をすることもできただろうが、社長の「本気の地域創生」のためにはその選択肢はなかったに違いない。BSJapanextが目指す独自のアプリ戦略、その先にある地域創生。その本気度を感じるために、一度チャンネルを合わせてみてはどうだろう。今まで知らなかった地方の名産品や意欲的なオリジナルコンテンツとの出会いがあるかもしれない。
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