こんにちは、書評家の卯月 鮎です。今年の始めごろ、弥生人に一番似ている顔を決める鳥取県主催の「青谷弥生人そっくりさんグランプリ」が話題になりました。青谷上寺地遺跡で見つかった弥生時代の頭蓋骨から復元された男性に、そっくりな顔の人を投票で選ぶという一風変わったコンテストでした。
弥生顔と縄文顔、自分はどっちだろうと気になる人も多いかもしれません。弥生顔は眉が細くて目は一重で切れ長、唇は薄め。縄文顔は眉が太くて目は二重、唇が厚いというのがよく言われる特徴。
また、ネットには「縄文人と弥生人、あなたはどちらのタイプ?」という性格診断サイトも複数あって、縄文か、弥生かは、「きのこvsたけのこ」に匹敵する人気のマッチアップかもしれません(笑)。
縄文・弥生、新たな発見で見えてくるもの
今回紹介する新書は『ここまで解けた 縄文・弥生という時代』(山岸良二・著/KAWADE夢新書)。著者の山岸良二さんは、東邦大学付属東邦中高等学校の教壇に44年間立ちながら、日本考古学協会全国理事も長年務めてきました。『新版 入門者のための考古学教室』(同成社)、『古代史の謎はどこまで解けたのか』(PHP新書)など考古学関連の著作も多数で、「世界一受けたい授業」などのテレビ番組にも出演しています。
淡路島で発見された7つの銅鐸
最近の研究成果を反映した縄文時代と弥生時代の姿を解説していく本書。ひとつの事例を深掘りするというよりは、好奇心をそそるトピックスが次々と飛び出してくるスタイルで、肩に力を入れずに楽しめて、意外な驚きもたっぷりでした。
個人的になるほどと納得したのは、第3章「弥生の文化・技術から鮮明になった大陸との交流」で紹介されていた銅鐸の発見。お寺の鐘のような形をした青銅器である銅鐸は、弥生時代を代表する遺物ですが、その具体的な使用法はこれまでわかっていませんでした。
しかし、2015年に淡路島の松帆遺跡で発掘された7個の銅鐸は、内部に鳴らすための青銅製の「舌(棒状の振り子)」を備え、しかもそれを中に吊り下げていた紐自体も腐らず残っていたそうです。これで銅鐸を揺らすことで中の振り子が当たって音が鳴る、凝った仕組みがはっきりとしました。私は落ちている枝などで銅鐸を叩いて音を出していたのでは? と単純に想像していたので、弥生人に謝りたいですね(笑)。
また、文字でご飯を食べている私にとって、日本最古の文字の話題も気になりました。2020年に島根県田和山遺跡から出土した弥生時代中後期(紀元前後)のすずり型の石に、文字のようなものが書かれていたのです。残念ながら本書には写真が載っていなかったので、ネットニュースを確認したところ、確かに「子」と読めなくもない文様が……!?
これまで日本での最古の文字例は、福岡県や三重県で出土した紀元後2~3世紀代の土器に書かれた文字とされていたそうで、田和山遺跡の「子」が文字だとしたら、一気に2~300年ほどさかのぼることになります。弥生時代には、すでに文字によるコミュニケーションがあったのでしょうか?
「多くの読者が本書を契機に、『考古学の面白さ』『遺跡の素晴らしさ』『遺物の奥深さ』を少しでも感じていただければありがたいかぎりです」と山岸さん。まだまだ神秘に包まれた縄文・弥生の世界へ空想の旅に出かけませんか?
【書籍紹介】
ここまで解けた 縄文・弥生という時代
著者:山岸 良二
発行:河出書房新社
縄文時代の男女の役割とは?土偶にはどんな意味が込められていたのか?銅鐸の使い道とは?近年の考古学の目覚ましい進展から明らかになった、縄文・弥生時代の驚くべき実相を明らかにする!
【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。