フジテレビと電通、どちらも知名度が非常に高い大企業を退社して新たな企業を立ち上げたのが明松(かがり)功と中尾孝年の両氏。大学時代の先輩、後輩の関係でもあり、明松氏はフジテレビで高い人気を誇ったバラエティー番組『めちゃ×2イケてるッ!』(以下、『めちゃイケ』)の元プロデューサー。中尾氏はコマーシャル業界で数々の賞を受賞するなど二人とも、業界では知らない人がいないほどの有名人です。そんな両氏が組んで設立した新会社で今後、どのような活動を行うかうかがいました。
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:手束毅)
自分一人でどんなことができるのか勝負したい
──お二人はそれぞれ会社を辞めて『KAZA2NA(カザアナ)』という会社を立ち上げました。元々、会社を辞める予定はあったのでしょうか?
中尾「実は会社を辞めるというのは、僕が先に言いはじめたんですよ。フジテレビの早期退職制度が話題となる前に電通は早期退職を何回も募集しているのですが、最初の早期退職制度の話があったときに、明松先輩に『次に早期退職があったら僕辞めちゃうと思うので一緒になって何かやりましょう』みたいな話をしていたんです」
明松「僕は昨年、早期退職制度を利用して退社したのですが、30代半ばくらいから、いつかフジテレビを辞めようと思っていました。僕の周りには、自分で人生を切り開いていく自営業や飲食業の友人が多くいて、その人たちに比べたら、サラリーマンの僕の生き方はあんまり格好良くないなとどこかで思っていて、いつか自分で勝負したいなという気持ちがあったのです。『めちゃイケ』とフジテレビという大きな看板で仕事させてもらっていたこともあるので、その二つがなくなって自分一人でどんなことができるのか、どこかで勝負したいな、というのを昔から考えていました」
──とはいえ、お互いフジテレビ、電通と誰もが知る大企業で働いていましたよね。辞めることに躊躇はしなかったのですか?
中尾「先輩とそこは似ていて、お互いにめちゃくちゃ有名で知名度がある会社で働いていて、凄いなって言われる会社にいて……実際良い会社なんですよ。電通では普通じゃできない経験もできて、最高に良い場所だったなって思っているんですけど、それが何て言うのかな…、自分が0から作った場所じゃなくて、先人の積み重ねも含めてすさまじい最高のステージが用意されているところに、さあ、頑張りなさいって言われてるだけなのかなと」
──有名企業で働くことの大変さですね。
中尾「明松さんが言ってことがすごくわかるんですけど、会社の看板が強力で強すぎる分、それを取っ払った時に中尾っていう名前だけでどれだけの人がついてきてくれるのか。僕を支持して来てくれているのか、電通だから来ているのかどっちなのかと思いながら働いていたんです。電通という看板を取っ払って、ほんとうに自分一人、自分の名前だけでどれだけできるのかということを死ぬまでには試したいな、というのは思っていました」
──明松さんは大きな話題を集めたフジテレビの早期退職募集で退社されましたが、すぐに辞めることを決断できたのでしょうか。
明松「早期退職制度について会社から説明があったとき、それまでに何の前フリもなかったですし、社員全員が『え?』という反応でした。そういう噂も別に立っていなかったですし。前から辞めたいとは思っていたものの、制度を利用して辞めるかどうかは1か月考えました。
でも、あるタイミングで気づくんですよ『辞めたらこんなことができなくなる』と考えていたのが『辞めたらこんなことができるのでは!』と考えている時間が増えていき、そっちを考えているときのほうが楽しくなっている。これは驚きだなと思う瞬間でしたね。それで退社を決断しました」
──新しく立ち上げる会社のコンセプトは「ボーダレス・クリエイティブ・カンパニー」。テレビ業界の第一線で活躍されていた明松さんですが、新会社が多ジャンルでの活躍を念頭にしているのは別のジャンルで活躍していた中尾さんと組むことができたから、ともいえますね。
明松「ああ、そうですね、ほんとそう思います。中尾と一緒じゃなくて、僕一人で会社を立ち上げたら、たぶんテレビという業界にまだしがみついていたと思いますよ」
中尾「僕も全く同じで、先輩がいてくれなかったら絶対、いままでの延長線上で広告の仕事ばかりして飯食っていたと思うから。それだと、会社を辞める意味がなくて面白くなかっただろうなとは思います。
先輩と一緒にやるから全然違うジャンルに飛び出してやっていけるので。それは電通ではできなかったことだし、会社を辞める意味があると思ったんです」
違う方向から同じ問題に直面してできたアドフュージョンドラマ
──お二人はフジテレビと電通にいた時、ドラマ本編に広告を組み込む斬新な演出(※1)を一緒に組んで展開されていますよね。アドフュージョンドラマとして話題を集めましたが、きっかけはなんだったのですか?
(※注1)フジテレビで2018年に放映された『名探偵コジン〜突然コマーシャルドラマ〜』。ドラマ本編の中に「広告」=「CM部分」を組み込んでしまう演出でストーリーを作成し、CMもドラマの一部として楽しめることで話題を集めた。
明松「僕は人事異動で営業に行った時、バラエティーから来た人間が営業で活躍できる、その礎というかベースとなる何かを結果として残さないといけないと思ってました。その時、僕はテレビ屋なのでコンテンツとそんなに相性が良いと思われてない広告とテレビ番組を、何かいい感じでwin-winにできないかなと考えていました」
中尾「先輩が営業に異動した時に、時間作れるようになったからと定例会をやろうかという話になったんです。週1とかで会うようになり作戦会議をするようになったんですね。そのときに、先輩が営業担当という立場で考えていた番組企画があって…」
明松「僕が営業に来てから作った企画書を自信満々中尾に見せたんですよ。こんなに面白い企画なのに電通の人が企業に売ってくれないんだけど、彼らはセンスがないのかなあと言いながら企画書を見てもらったら……」
中尾「企画書を見せてもらったのですが、先輩に対して『僭越ながら……』と苦言を呈してしてしまいました(笑)。たしかに面白いんですけど、その企画にはクライアント視点が1ミリも入っていない(苦笑)。先輩、もうちょっとクライアント視点を入れたほうが……さすがにこれだと買ってくれないです、みたいなことを言いました」
明松「なんだよそれ、という新たな気づきですよね。バラエティー時代には全く考えたこともなかった(笑)」
中尾「そんなとき、僕は僕で一生懸命コマーシャルを作っても番組の視聴者にとって邪魔者扱い。CMってなるべくチャンネルを変えられないようにエンターテインメントをする、というちょっと悲しい側面を背負わせてくれる存在なんですとお話ししました。先輩は先輩で、せっかく番組を作ってもコマーシャルの時、視聴者が離脱してしまうことを制限したいと考えていたようです。
僕の立場でいうと引き続きどうしても見たくなるコマーシャルを作りたい。番組側の立場からすると番組の邪魔をするというよりは、むしろ番組をもっと魅力的にしてその間も視聴者を釘付けにするようなコマーシャルとの関係性ができないかなと。それってお互いが思っていること一緒ですよね、みたいな話で」
──それぞれの作り手として、違う方向から同じ問題を抱えていたと。
中尾「実はその課題について、僕こんなこと考えているんですよと言っていたら、先輩も同じようなことを考えていて。僕は広告のパートがドラマの中でポジティブに機能するというふうにと。でも、先輩はやっぱバラエティー出身の人だから、広告の存在によりドラマが本来と違う筋になっていって『なんでやねん!』ってつっこむみたいな、と若干味付けは逆だったんですけどね」
明松「僕が考えていたのは、スポンサーに忖度しすぎて、ストーリーが面白くない方にどんどん歪んでいくみたいなことでした」
中尾「でも、お互いに考えている基本構造は一緒ですよね、みたいな話で。それでスポンサーにもうちょっと持っていける形にしようと、先輩と一緒に詰めて作ったのがアドフュージョンドラマだったんです」
──お互いの得意分野を活かし、それぞれが上手くまとめたことで実現した案件だったと。
中尾「絶対そうだと思います。スポンサーのニーズを汲み取りながら、うまくフレキシブルにやるのは僕が得意な領域。でもああいう新しい企画をテレビ局の中でこじ開けていくのなんて、ちょっとやそっとではできることじゃないんです。
明松さんはフジテレビのなかでも超有名だったし、先輩に憧れて入社してきている下の人がいっぱいいるから、彼らが頑張って企画を通してくれて。先輩がいなければ絶対実現しなかった企画です」
YouTubeで『ガリタチャンンネル』がスタート!
──話をちょっと戻しますが、明松さんがフジテレビを辞めたきっかけのひとつって世の中でよく言われる「テレビの衰退、凋落」みたいなことも影響にあるのでしょうか。ここ10〜20年くらいよく聞くワードですよね。
明松「いや、それは関係ないかもですね。『めちゃイケ』にいたとき、自分的にも最高に楽しかったし、何の悔いもないし、やりたいことをやれていた。その『めちゃイケ』でやりたいことができなくなったりしていたら、なんか時代変わったなとか、いろいろ思ったのかもしれないですけれども、少なくともやりたいことをやらせてもらっていたし。だからテレビの凋落とかいうのは、ほんとうに現場の時は感じてなかったです」
──凋落、というのは違う感じですか?
明松「実際、時代の変化とともにいろいろなメディアが出てきていて、テレビの独占というのがなくなったのは事実ですが、別にテレビ自体が衰退しているわけではない。テレビの凋落って何を基準にするかなんですけれども、営業売上減少や制作費の削減という数字だけを評価して『テレビは衰退・凋落した』という人がいますが、テレビ以外のメディアが台頭するスピード感の割には、テレビはまだ踏ん張れていると思います」
──いろいろなメディアが出てきたというお話をいただいたのでうかがいますが、テレビ局やテレビコマーシャルを手掛けている人たちにとってYouTubeがガッと広まってきた時、どういう心境だったのですか。テレビにとってYouTubeは敵だとか?
明松「YouTubeは敵か? う〜ん…。YouTubeが出始めたころ、その映像を面白いかウケるかで観た場合、興味としての“interesting”じゃなくて、“laugh(笑う)”を基準に面白いかどうかと言われたら、『これのどこが面白いの?』というのは、正直ありました。
テレビから見たら敵だと思う人もいるでしょうが、YouTubeは別に面白いこと“laugh”を取るためのものではなく、“interesting”が主のコンテンツだから、別に同じ土俵では戦っていないじゃないかと理解してからは、お互い交わらない戦いだと自分の中では早い段階で解決しました。もちろん、YouTubeの中にも江頭2:50さんがやっている『エガちゃんねる』みたいに“laugh”で勝負しているのもあるんですが」
──明松さんや中尾さんが、ご自身でYouTubeのコンテンツを制作するとしたら、テレビ番組とはどのような違いを出すのでしょうか。
明松「テレビはマスメディアとしての役割があるので、できるだけ多くの人に観てもらおうと制作しています。だから説明がわりと丁寧というか、取りこぼしのないように、視聴者の皆さんについてきていただけるように、ちゃんとフリをつくって、説明して、面白いこと、オチを作って、余韻で感想を入れる、というような構成にテレビはなっていますけど、YouTubeは自分のファンの方に見てもらうメディアなので、そこまで丁寧にしなくていいのかなという気がします」
中尾「これ、ぜひ書いてほしいんですけど、実は新会社で『ガリタちゃんねる』というYouTubeの番組を7月1日から配信するんですよ! 僕、いますごくワクワクしてて(笑)」
──さりげなくお話されましたが、新会社で明松さんと中尾さんが手掛けるYouTube番組をスタートするんですか!? ヤラセっぽいと思われるかもですが、正直、驚きです! どんな番組になるんですか?
中尾「実は明日、1発目の撮りです(笑)」
明松「しばらくは僕がゴハンを食べます。『めちゃイケ』の『ガリタ食堂』みたいに大食いはしませんが、令和4年の今現在の僕の行きつけの店を、皆さんのためになる切り口で紹介していきます」
中尾「YouTubeのコンテンツを作るにあたり、先輩と僕は意地でもなんか新しくて全然違うことをやろう、新しいオリジナルティをだしましょうってなってたんですけど、いざ制作しようと動き始めたらYouTubeはそういう文化圏ではないということを痛いほど学びました。
明松さん扮するガリタは、美味しい店を知っている人ということは皆が知っている。そこをあえてなぞることの大切さを『ガリタちゃんねる』で学び、単なる仕事じゃなくて、あえて最初はそれをやる。それがわかりやすいし、ガリタが、新会社のKAZA2NA(カザアナ)がYouTubeを始めたってことを皆さんに知ってもらう。そこからオリジナリティーのあることも発信していくみたいな、そんなことを考えています」
明松「YouTubeでガリタの名店巡りを制作するのは新会社の助走期間みたいな捉え方ですね。まずはお試しみたいな。グルメで『ガリタちゃんねる』を認識してもらってから、新たな展開を行いましょうよと」
──YouTubeの番組で新会社のコンセプトの一環を体現するみたいなことですね。
中尾「そうです。このチャンネルを見てもらえれば、我々が何をしたいのか、が分かるようにしたいです。『KAZA2NA(カザアナ)と一緒に作りませんか』というテーマで、“エンタメ”“広告”“地方創生”に携わる方たちと一緒にプロジェクトを推進していく様子を、『ガリタちゃんねる』で配信します。
ただ広告を作るとかいった形だけではなくて、新会社の柱のひとつとして考えている地方創生に繋がる観光ルートを作りましょうとか。それとはまったく違う何か歌を作っちゃいましょうかもしれないし、何か名物メニューを作っちゃいましょうかもしれない」
『めちゃイケ』は真摯にコンプライアンスと向き合っていた
──YouTubeでのコンテンツ制作を行うのなら、テレビ番組の制作にも絡む可能性があるってことですよね。そのテレビですが、先程話した業界凋落とともにコンプライアンスが年々、厳しくなったことで番組制作に影響が出ることや、面白いバラエティー番組が作りづらくなったと言われます。番組制作やコマーシャル制作の現場にいたお二人にとって、コンプライアンスについてはどのようにお考えですか?
明松「僕がやっていた『めちゃイケ』について一般的には“キワキワ”のところで制作していた番組だと思われがちなんですけど、現場では意外かもしれませんが、真摯にコンプライアンスに向き合っていたんですよ。問題視されそうなシーンがあれば、コレはいける、コレはいけない、を散々会議で議論して、こういうふうにリスクヘッジすれば大丈夫、みたいなことを我々なりにものすごく真剣に考えていました。
編集段階の映像を編成担当に見せたときに、『いや、ダメダメ』とか言われて、どこがどうダメなの?という議論をすると、圧倒的に我々のほうがコンプライアンスについて考えているわけなんですよね。俺より考えてないやつが、コンプライアンスがコンプライアンスがってうるさく言ってくるってことがよくありました」
──テレビ番組だけでなく、コマーシャルもコンプライアンスは当然厳しいですよね。
中尾「めちゃくちゃ厳しいですね。テレビの番組側が注目されているんですけど、番組は自分たちが作って、自分たちで責任を負うことができることについてのコンプライアンス。
コマーシャルは、何かあった時のクレームが制作側に来るならいいんですけど、自分たちに仕事を依頼してくれているクライアントに来るから絶対に問題があってはならない。ほんの少しでも疑わしきは絶対にやらない、という文化ですね」
明松「『子どもが真似するでしょ』ってクレーム、大昔からあるじゃないですか。あれって僕はこの年になってもほんまかいなと思うところがあるんです。『赤信号みんなで渡れば怖くない』ってビートたけしさんが昔言ったけどみんな渡ってないじゃないですか。テレビの影響力と、親の影響力、どっちが大きいのってことなんですよ。
一緒にテレビを観ている親が『これはテレビの世界のことで間違いなんだからね』と言ったほうが圧倒的に影響力があるっていまだに思っていて。『子どもが真似するでしょ』を盲目的に正論だと思い込むようになると、コンプライアンスがもっとしんどくなると思います」
──確かにそうなりますよね。
明松「『めちゃイケ』で昔、油谷さんっていうキャラクターがいて、極楽とんぼの山本圭壱さんが油まみれのAV男優に扮したキャラなんですけど。その油谷さんを頻繁に出演させていた時期に、『油谷いう名前が原因でいじめられています』という内容の投書が思春期のお子さんから来たんですよ。
子どもが真似するというレベルではなく、油谷という姓名でいじめられるのは問題だと会議をした結果、その子の思春期が終わるまで番組での出演を止めておこう、油谷さんを4年に一回の登場にしようと決めたんです。
『オリンピックが来るたびに私はやってきます』と油谷さんが言っていたのには、実はそういう背景があるんですよ。『めちゃイケ』は意外にちゃんとやっていました(笑)」
──素敵な話ですね。その話は初めて聞きました!
明松「油谷さんのあのキャラクターを子どもが真似たらどうするんですか、だったらそんな対応はしませんでした。いや、油谷さんを真似るその子は素敵なお子さんですよ、と思うわけですよ。油を全身に塗って友達とじゃれ合うなんて、それ最高じゃないか、クラスの人気者でしょ、って俺は思うんです。あとで洗剤を使って油を落とすのが大変ですけど(笑)」
──コンプライアンス以外にも、予算をかけられなくなったことは番組制作、とくにバラエティー番組にとって影響ありませんか?
明松「それは影響あります。残念ですよ。お金をかけたら面白くなるかという問題はもちろんあるんですけれども、少なくともスケール感が出て、痛快感が出て、ケラケラ笑える装置に豪華なセットがなったりもしますから。確かに今のディレクターというのはその選択肢を奪われているのでかわいそうな気がしますよね。
『めちゃイケ』で中居正広さんをドッキリにかけるため、温泉にウォータースライダーを設置し落下していくみたいなシーンのセット、あれ3000万円くらいかかっていますからね。ワンシーンに3000万かけることができるバラエティー番組はもうないですね」
クリエイティビティで飯を食う
──お二人にはテレビ業界やコマーシャルについての話をうかがってきましたが、新会社について具体的にどのようなことを展開してくのかを教えてください。
中尾「コミュニケーションコンサルみたいな感じで、企業さんとの付き合いとかをいろいろ始めたりしていきたいんですよ。当然、しかるべきタイミングで僕が得意なコマーシャルを作ったりするんですけれども、YouTubeの発信や企画のお手伝いもするし、そもそもの全体のブランディングのお手伝いもする」
明松「改めて新会社の柱を言語化すると“エンタメ”“広告”“地方創生”というジャンルにおいて、面白いものを作って、お客さまに喜んでもらう会社。その手段として、コミュニケーションコンサルだったり、映像制作だったりという武器を我々は持っているということですかね。あれ、説明がややこしいですか(笑)」
中尾「僕らはクリエイティビティ(想像力)で飯を食う会社になろうと思っています。クリエイティビティとは、別にアーティスティックなアウトプットとかエンターテインメントのアウトプットをするだけに必要とされているものではなくて、社会問題を解決する時にも求められているし。何て言うのかな、もっと全然違う様々な領域でも求められていて、本当にいろいろなものに対して効果効能を発揮できるのがクリエイティビティだと思っているので、そんなクリエイティビティを提供することでお金をもらって飯を食う会社っていう感じなんです。より概念になりましたけれど(笑)」
──会社を立ち上げ間もない現在は、希望いっぱいで楽しい時期ですね。
明松「昨日なんか、ある仕事をご一緒することになるかどうかみたいな方々と我々二人で話をして、向こうがやりたいことと条件面みたいなことを提案されたので、僕と中尾は目配せしながら『すみません、ちょっと20分時間もらっていいですか』と中座して、喫茶店でコーヒー飲みながら相談したんです。この案件どうする?受ける、受けない、みたいなことを話している時とかは楽しかった(笑)」
中尾「先方とのタイミングを図るため、もうちょっと時間経ってから戻りましょうかとか(笑)」
明松「そういうことがあると、スモールマーケットが重視される時代って、多分、スピード感が大事なんだろうなって理解できるんですよ。これが会社だといちいち企画書を書いて、印鑑もらって、社内を這いずり回して、来週結果出ますとかいうスピード感なので…。俺らって20分のコーヒータイムで結論出せるぞ、と何かワクワクしながらお茶を飲んでました」
──この記事を読んで、お二人が組んだ新会社発信のバラエティー番組を作ってもらいたいし観たい!と思う方が少なくないと思います。その可能性は多いにありますよね。
明松「全然あります」
中尾「でもやるからにはね、何かちょっと、ちょっと新しかったり、こんな手があったかみたいなことはやりたいですけどね」
──最後にうかがいたいのですが、明松さんが今後、新会社で作っていきたいバラエティー番組はありますか?
明松「お笑い芸人の次のスターが生まれる番組はやりたいなあと考えています。というか、テレビ業界で生きてきた人間の使命としてやらないとダメなんだろうなという気がします。
それは、ネタ見せ番組なのか、密着番組なのか、全く見たこともないタイプの番組なのか、はわからないですけれども、何かしらテレビという文化のなかで、次世代を担うスターを作りたいです。第7世代とか一瞬、わっと盛り上がりましたけど、意外に短命でしたよね。ザ・ドリフターズ、萩本欽一さん、たけしさん、明石家さんまさん、とんねるず、ダウンタウン、ナインティナイン、その後、有吉弘行さん、マツコ・デラックスさんときて、それ以降は国民的なお笑いスターっていないと思っているんですよ、個人的に。
それは僕に限らず、各局のテレビマンの使命だと思うんですけど、本当にスターを作らないとテレビという文化って衰退していくような気がしていて…。だから『M1グランプリ』とか『キングオブコント』って好きなんです。少なくともスターを生み出す装置になっているから。
ただ僕がグランプリをやりたいというよりは、スターを作り上げる番組に関われたらいいなと思っています。テレビ業界に対する恩返しという意味で。
正直いうと、僕はもう『めちゃイケ』を超えるバラエティー番組を作れる気がしないです。そこから逃げているだけなのかもしれないですが…(苦笑)」