夏は、虫が元気になる季節です。昆虫採集が楽しめるがゆえに子どもたちは盛り上がりますが、一方で、虫刺されや街灯に群がる虫に悩まされる人も多いのも事実。そんな虫たちについて、照明技術を活かしたソリューションや研究が進んでいます。
この記事では、照明などの電気設備を開発している、パナソニック エレクトリックワークス社(以下、EW社)が手がけている、虫と照明を絡めた、様々な研究についてご紹介します。
昆虫と人間が見ている世界は大きく異なる
昆虫と光の関係について、初めに知っておくべきは、昆虫と人間がそれぞれ見えている光の波長が大きく異なる点。人間が見えている光、いわゆる可視光の波長は、390〜720nm程度の範囲内といわれています。それ以下、あるいはそれ以上の波長の光は、人の目から見えません。紫外線や赤外線などがそれに該当します。
一方で昆虫の目が捉えている光の波長は、たとえばハエなら300nm未満〜630nmくらい。300nm未満の波長の光は、紫外線にあたるため、人間が見ることはできません。この違いにより、昆虫は人とは違う世界を見ているのです。
一方で、紫外線領域の光は、昆虫を誘因するという特徴も持っています。多くの昆虫が街灯に群がるのは、その街灯が紫外線を出しているからです。
かつて多く使われていた蛍光灯による照明は、紫外線領域の光を出すため、夏の夜には多くの虫を集めてしまうことがありました。近年普及が進んでいるLED照明はあまり紫外線を発しませんが、ゼロにはなっていないため、スタジアムなどの大きな照明では虫を集めてしまうこともあります。
そこで同社は、“あえて虫を狙った場所に集める”ことで虫害を減らす製品を開発しました。それが、LEDによる昆虫誘引器「ムシキーパー」です。
虫害を減らすだけなら殺してしまえばよいと思うかもしれませんが、大量の昆虫を殺してしまうと、生態系への影響が懸念されます。ムシキーパーはそれを防ぎながら、虫害も防いでくれる、一石二鳥の存在なのです。
ムシキーパーが設置されている場所の例は、大型照明を搭載したスタジアムの投光器の下部。メイン照明消灯後にムシキーパーだけを点灯しておくことで、照明使用中に集まった虫が、照明消灯と同時に周囲の市街地に飛散するのを防ぐ、といった使い方がなされています。
人にもホタルにもやさしい照明で、生態系を守る
EW社は、人に対する害を防ぐだけでなく、昆虫を守るための照明も開発しています。それが、夏の風物詩であるホタルを守る光です。
近年、日本国内に生息するホタルの数は減少傾向にあります。その要因のひとつが、市街地の開発が進んだために、ホタルの繁殖地が明るくなりすぎたこと、なのです。
ホタルといえば、成虫がお尻から放つ眩い光。これはオスとメスが結びつくためのサインです。しかし、彼らの繁殖地が明るくなったことにより、ホタル同士がこのサインを認識できず、結びつく機会を奪われてしまっています。
EW社は研究の末、照明の明るさだけでなく、光の波長がホタルに大きな影響を与えていることを突き止めました。そして、住宅街などに必要な一定の明るさを維持しながらも、ホタルへの影響を抑えた照明を開発。
入念な現地調査のうえ神奈川県逗子市に導入された事例では、照明導入翌年にホタルの数を前年比で大きく増やすことに成功しました。この成功例には、多くの自治体が興味を示しており、すでに導入の依頼も入っているとのことです。
照明で害虫の成長を阻害して、減農薬に貢献
照明による昆虫へのアプローチは、農業分野にも及んでいます。そのターゲットは、植物の葉の裏に大量に寄生し、農作物の成長を阻害する小さな昆虫「ハダニ」です。このダニは、肉眼で見えないほどの小ささであることから駆除が難しく、多くの農家を悩ませてきました。
そこでEW社では、いちごの免疫機能を促進するために発売している「UV-B電球形蛍光灯」に、ハダニの生育を阻害する機能を持たせる効果検証を進めています。
ハダニへの対抗策としては農薬も有効ですが、何度も薬を使っているとハダニが薬物耐性を持ってしまい、次第に効かなくなってしまう可能性があります。照明による成長阻害であればそれがなく、また、無農薬栽培も可能になるため、生産者・消費者の両者にメリットがあるというわけです。
照明を通した、虫との新しい付き合い方を提案しているEW社。同社の試みは、虫を安易に殺すことを防ぎながら、人と虫が共生できる社会が近づいていることを予感させます。