本・書籍
2022/7/31 21:00

ダムの上を駆け抜けるバス!? 人が誘導しないと危険なバス!? 全国の個性派“路線バス”大集合~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月 鮎です。コロナ前は地元の路線バスが乗り放題になる1日乗車券を使って、予定も立てずフラフラと乗り継ぐ小旅行をたまにやっていました。なんといっても路線バスの魅力は車窓からの景色。普段見慣れない住宅街を抜け、緑豊かな道を通ったかと思えば、駅前に差し掛かって新しいビルを見つける……。自動車のドライブとは違う、バスの少し高い視点も楽しいですよね。

秘境をゆく路線バスの魅力

 

今回紹介する新書はニッポン秘境路線バスの旅』(風来堂・著/交通新聞社新書)。手がけている「風来堂」は、国内外の旅行・観光情報をはじめ、歴史、サブカルチャーなど幅広いジャンル&テーマの本やWeb記事を制作する編集プロダクション。『鉄道廃止転換バスをゆく』(イカロス出版)、『四大空港&ローカル空港の謎』(イースト新書Q)、『全国高速バスの不思議と謎』(じっぴコンパクト新書)など、交通関連の著書多数です。

地域に根ざしたバスのあり方

地域に密着しているため、全国各地で独自の運行スタイルを取っていることが多い路線バス。停留所や経路の変更も珍しくなく、「この『つかみどころのなさ』もまた、路線バスの面白さのひとつ」と「はじめに」で述べられています。

 

第1章「鉄道転換バス」、第2章「狭隘」、第3章「悪路」 、第4章「長大」……とカテゴリー分けされ、ひとつ4~6ページほどで40路線以上が紹介されていくスタイル。難所の碓氷峠越えをしていた鉄道を引き継いだ群馬~長野間の碓氷線、断崖絶壁と川の合間をすり抜けるスリリングな岡山・堤田線、人の気配がまったくしない砂利道をひたすら走る北海道・銀泉台線など、タイトル通り“秘境”感たっぷりの路線も多いですが、他にない変わった特徴を持っている路線も取り上げられています。

 

東京都内で唯一紹介されているのが杉並区の川南線。この川南線は、全国的に主流となっているワンマンバスではなく、いまだにツーマン運行というレアなバス。といっても、同乗しているのは交通の誘導員。荻窪駅から「シャレール荻窪」という団地へ向かうバスなのですが、このあたりは非常に道が狭くて対向車とすれ違うことが困難。そのため交差点で誘導員が降りて安全確保してからバスが曲がるという路線だそうです。この川南線が自動運転の無人バスになる未来もやってくるのでしょうか!?

 

本書のなかで、私が一番乗りたいと思ったのは、第5章「変わり種」に登場する埼玉・三峯神社線。パワースポットとして知られる秩父・三峯神社へ向かうためのバス路線です。見どころは二瀬ダムの堰堤上を渡る絶景。荒川本流をせき止める秩父湖の二瀬ダムの上、高さ95m、長さ288.5mの堰堤を大型バスが駆け抜けます。巻頭に見開きで写真が掲載されていますが、自分が実際に乗っていたらと想像しただけでワクワクしますね。狛犬の代わりに狼が鎮座する三峯神社。一度行って名物のわらじかつ丼を食べてみたいものです。

 

ほかにも、戦時中のレール供出で廃線となった鉄道跡をバス専用道に転用した福島・白棚線、バス停数168で片道6時間半の日本最長路線である奈良~和歌山・八木新宮線、前半は近江商人が建てた古民家の狭い路地を進み、後半は自然のS字ヘアピンカーブが連続する滋賀の平子・西明寺線……と、旅情漂う路線多数。

 

本書の良さは、各線の歴史的背景や驚くべきポイントがわかりやすくまとまっていて、バスオタクでなくても興味をそそるように作られているところ。新書にしては地図やデータ、写真も豊富で、パラパラとめくって手軽に楽しむのにピッタリです。

 

本書にもすでに廃線になっている路線がいくつか紹介されているように、路線バスという仕組み自体が苦境に立たされています。いつ幻になってしまうかもわからない、そんなノスタルジーも漂う一冊でした。

 

【書籍紹介】

ニッポン秘境路線バスの旅

著:風来堂
発行:交通新聞社

「こんなところを!?」走る、驚愕の路線の数々……。
国内屈指の“個性派路線バス”を40以上掲載!

日本全国をすみずみまで網羅している路線バス。その中には、まさに「秘境」と呼べるような驚きのバス路線も多々ある。車体が擦れそうなとんでもない細い道を入り込む路線、急勾配のアップダウンやヘアピンカーブなど悪路が連続する路線、転回場がないためバックで終点に到着する路線……。もちろん秘境だからこその絶景も見られる路線も。そんなマニアックだけどどこか気になる、個性的な路線バスをテーマ別に全国から紹介する。

楽天koboで詳しく見る
楽天ブックスで詳しく見る
Amazonで詳しく見る

 

【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。