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2022/8/26 17:00

「せんべろnet」に聞く! 1000円で楽しめる「せんべろ」の噺

「せんべろ」とは“1000円でべろべろに酔える”ような酒場の俗称ですが、今回話を聞いたのは、立ち飲みや大衆酒場など「せんべろ」飲み歩き情報を配信中の「せんべろnet」管理人のひろみんさん。年間800軒飲み歩く彼女に、大塚にある「ドラム缶大塚店」で、知っているようであまり知られていない「せんべろ」の世界を教えてもらいました。

 

 

●せんべろnet ひろみん/都内在住のせんべろ放浪人。飲むこと、食べること、一人飲みや立ち飲みが好き。運営サイト「せんべろnet」では、都内を中心とした立ち飲みや大衆酒場など気軽にちょっと一杯できる飲み歩き情報や宅飲み情報を配信中。2022年6月『せんべろnetの酔っても作れる宅飲みおつまみ』(ワン・パブリッシング・刊)を上梓。

 

原点はかつて新橋にあった立ち飲み店

せんべろnet」は、都内を中心とした立ち飲み店や大衆酒場などの飲み歩きレポートに加え、家飲みを楽しむためのおつまみやお酒情報が満載のサイトです。スタートしたのは2015年のこと。始めようと思ったきっかけは、あるお店と出合って立ち飲みにハマッたことだったとか。まずはそのいきさつなど、サイト開設に至るまでの歩みを伺いました。

 

ひろみん「もともと新橋のIT企業で働いていたのですが、終業後に一人で食事をすることも多く、となるとそこは酒場天国の新橋。ちょっと一杯飲みたいなってなるじゃないですか。そんなある日、たまたま入った立ち飲み店がめちゃめちゃ衝撃的だったんです。ジャンルは鳥皮焼きが名物の九州料理のお店でしたね。それまであまり立ち飲みには行ったことがなかったのですが、そこには見たことのないおつまみがたくさんあったり、価格帯も100円台~300円台とお財布に優しくてスゴくワクワクしたんです。味も絶品で一人飲みにピッタリな量、店員さんも笑顔で気持ちがいいし、立ち飲みだから一杯だけで帰る人もいて気軽。しかも会計は1000円ぐらい。『こんなに素敵な世界があるんだーっ!』と感激して、そこから立ち飲みにハマりました」

 

↑東京・新橋は数多くの酒場が軒を連ねる酒飲みにはたまらない街だ

 

ひろみんさんはその立ち飲み店の常連になったものの、その後、残念ながら閉店。とはいえ飲み屋が多い新橋には、立ち飲み店や安価な大衆酒場もあまた。自然と様々なせんべろの店をはしごするようになり、その記録を兼ねたレポートをグルメサイトへ投稿するようになりました。

 

ひろみん「2012年ぐらいから3年程グルメサイトに投稿していました。ただ投稿するにつれ、もっと自分の色を出せるブログみたいなものをやりたいと思うようになり、『せんべろnet』を立ち上げました。一人飲みや立ち飲みに慣れていないころ、入店してみたいけど情報がなくて不安ということもあったので、一人飲みにチャレンジしたいけど『初めてのお店はちょっと不安』という方の背中を少しでも押せたらいいなぁというコンセプトで、更新するようになりました」

 

↑「せんべろnet」の記事は現在1700本以上。お店の情報から、レシピや飲み比べなど情報が満載

 

スタートから8年ほど経った「せんべろnet」には、現在1700本以上の記事がアップされています。投稿は予算1000円ほどのせんべろのほかに1500円~や2000円~も少々あり、そういったいくつかのテーマをエリアと掛け合わせて検索できます。ジャンルもバラエティ豊かですが、お店の情報はどのように仕入れているのでしょうか?

 

ひろみん「足で探すこともよくありますし、お酒好きの知人のほか、お店の方や、そこで飲んでいる人から聞くこともあります。あとはネット検索で見つけることもありますし、はたまた読者の方から情報をいただくこともあり、まちまちですね。歩くことが好きなので、お店を探すためだけに探索をすることもよくあるんですよ」

 

家飲みに関する記事は、2020年以降より充実。レシピや飲み比べ、テイクアウト、お取り寄せ、コンビニのおすすめおつまみなど、こちらも多彩な記事が継続的にアップされ、現在に至ります。

 

「せんべろ」は金額以上に満足度が大切

 

冒頭で述べたように「せんべろ」とは“1000円でべろべろに酔える”ような酒場の俗称で、『せんべろ探偵が行く』(中島らも、小堀 純・著/集英社・刊)が発祥と言われています。同書を読むと、1980年代ごろに著者の中島らもさんらの身内言葉から全国に広まったとの記述もあります。では、ひろみんさんが考える「せんべろ」とは?

 

ひろみん「せんべろは、1000円でべろべろに酔えるという言葉ではありますが、発祥と言われている『せんべろ探偵が行く』を読むと、気の利いたつまみとお酒2~3杯ほどという意味合いが強く、そういった酒場が多く紹介されています。そもそもせんべろには、1000円で何杯以上飲めるとか、1000円を超えてはいけないといった明確な定義はありません。ですので、私は1000円ぐらいでちょっと一杯、イイ気分になれたらせんべろ、と解釈してこの言葉を使っています。本当にべろべろになったら危ないですし、1000円を超えてしまうことも日常茶飯事です。ただ、『せんべろnet』では予算の目安で、1軒あたりお酒2杯+つまみ1品=1000円以内をせんべろとしており、自身がほろ酔いになれる量を設定しています」

 

 

では、せんべろや立ち飲みを楽しむためのマナーみたいなものはあるのでしょうか?

 

ひろみん「業態としての特徴は、特に立ち飲みではキャッシュオンのお店があったりもします。最近ではキャッシュレス決済を導入しているお店もありますが、現金のみのお店もあるので、できれば1000円札や小銭を用意しておきましょう。キャッシュオンの立ち飲みなどでの1万円札の利用は、できるだけ避けたいところです。また、小さなお店には大人数では押しかけず、1~2名がベター。なかには、3名以上のグループは入店NGと言う立ち飲みもあります。そしてダラダラと長居はせずに、混んできたらサッと次のお店へ。あとは、お店の方やお客さんに迷惑がかかるような絡み方はしない、騒がないといった一般的なマナーも当然ながら大切。セクハラ発言などは絶対にNGですし、楽しくなって、ワーキャーと声が大きくなったりするのも迷惑行為になってしまいます。とはいえ、難しく考えず、迷惑をかけずに楽しく飲めば何ら問題ないと思います。」

 

↑「ドラム缶 大塚店」はカウンターで注文と会計をするセルフサービス

 

一人飲みしやすいお店とは?

メニューの価格がわかることは、お店選びにも関わるとか。特に、せんべろ初心者が入りやすいお店、一人飲みしやすいお店には、わかりやすさが欠かせないとひろみんさん。

 

ひろみん「外から店内の様子が見えたり、入口に『お一人様歓迎』とか書いてあったり。あとは、メニューと価格が張り出されていて料金の目安がわかるお店は入りやすいですよね。カウンターがあることもポイント。座り飲みでカウンターがないお店だとハードルが上がってしまう気がします。居心地の良さも重要ですね。店員さんにある程度注文しやすい雰囲気だったり、酔って絡んでくるお客さんを取り締まってくれたり、リラックスして飲めたりとかそういったところです。さらに、一人用のおつまみがあったら最高ですね!」

 

↑「ドラム缶 大塚店」のように、外からどんなお店かわかると、一人飲み初心者にも入りやすい

『せんべろnet』流のペアリング術

では、ひろみんさんは普段どんなメニューを注文しているのでしょうか?

 

ひろみん「おつまみに関しては、基本的にお店の名物をオーダーします。でもそれを含め、自分が食べたいもの、気になるものになりますね。せんべろの場合1~2品をつまむ程度ですからそこまでの数を注文しませんし、はしごもするのでお腹がいっぱいになってしまうと回れません。ですので、メニュー選びはかなり吟味します」

 

ドリンクも同様の理由で、お腹にたまりがちなビールよりはチューハイ。加えて、甘くないタイプがお気に入り。量も飲むため、焼酎ベースのハイボールやホッピー割りなどをオーダーすることが多いと言います。

 

具体的にはどのような組み合わせになるのでしょうか。今回訪れている「立ち飲み居酒屋ドラム缶 大塚店」を例に、お酒とのペアリングを踏まえたせんべろセットを教えてもらいました。

 

ひろみん「例えば私が好きな『ぽん酢サワー』は、コクとキレのある焼酎にぽん酢の酸味がしっかり効いており、抜群の爽快感が肉や揚げ物といったこってり系のおつまみに合うんです。なので、カレー風味の『おつまみパイコー(※)』や、しっとりジューシーなお肉をハニーマスタードで味わう『ヒレ ローストポーク』がオススメ。スパイスの風味にも、すっきりとしたサワーの味がちょうど良く合うんです」

 

※パイコー(拝骨):中国語で豚などのスペアリブ。豚のあばら肉に卵と小麦粉の衣をつけて油で揚げた中華の肉料理を指す。

 

↑「ぽん酢サワー」(300円)、『おつまみパイコー』(350円)、『ヒレ ローストポーク』(400円)。この3品で1050円!

 

ひろみん「本格焼酎なら、ソーダ割りとロックで味の装いが変わる全量芋焼酎『ISAINA(イサイナ)』がお気に入りで、りんごのような風味のソーダ割りには酸味の効いた『油淋鶏』や『チキン南蛮』、あとは『よだれ豆腐』や『えびまよ』もオススメです。

↑ひろみんさんオススメの『ISAINAのソーダ割り』セット。『ISAINAのソーダ割り』(350円)、『よだれ豆腐』(300円)、『チキン南蛮』(350円)と合わせた3品で、1000円

 

ひろみん「『ISAINA』はロックで飲むと、焼き芋のような甘い香りがキリッとした味とともに華やぎ、『お刺身5点盛』(500円)がよく合うと思います」

 

メニューを見てワクワクできるお店が好き

今回訪れた「立ち飲み居酒屋ドラム缶 大塚店」は、2022年6月30日に上梓した『せんべろnetの酔っても作れる宅飲みおつまみ』(ワン・パブリッシング・刊)でも紹介されるほど、ひろみんさんお気に入りの一軒。同書には同店を含めた珠玉の12軒が紹介(大好きな酒場に教わるおつまみレシピとして)されていますが、ひろみんさんが考える“良い酒場”とはどんなお店なのでしょうか?

↑『せんべろnetの酔っても作れる宅飲みおつまみ』には、ひろみんさんオススメの店のレシピが掲載されている

 

ひろみん「ひとつは、メニューを見てワクワクするお店です。例えば種類の豊富さだったり、リーズナブルな価格とか。そのうえで、注文した料理がスゴくおいしそうだったりしたら、ワクワク感はMAXですね。あとは、私は基本的に1軒で2杯までと決めているんですけど、つい3杯目を注文しちゃうようなお店は、あとから振り返って『いいお店だなぁ』って実感します」

 

もちろん、著書で紹介しているお店はすべてがワクワクするところばかり。つい長居してしまったり、なかには立ち飲みではないお店もあります。例えば篠崎の「大林」や、八王子の「独楽寿司」などはインパクト抜群のつまみが豊富な名店。

↑本サイトの連載【東京・大衆酒場の名店】シリーズでも登場した「大林」。料理メニューは全部で約160もあり、北陸の旬の馳走や絶品創作メニューが満載

 

ひろみん「せんべろということで、毎日通えるようなお財布に優しいプライスが大前提ではあります。でも、ただ安いだけではなく、そこに驚きや感動がないとワクワクはしないですね。逆に、少しぐらい値が張ってもビックリするぐらいおいしいとか、お店の方が素敵だったり、雰囲気に引き込まれたりとか、そこにしかない特別な価値がある場合はいいお店だなと思いますし、行きたくなります」

 

せんべろ飲みから得たお店レシピ紹介本の発刊へ

『せんべろnetの酔っても作れる宅飲みおつまみ』(ワン・パブリッシング・刊/税込価格:1210円)

 

あらためて、『せんべろnetの酔っても作れる宅飲みおつまみ』の読みどころについても聞きました。

 

ひろみん「第一章の『大好きな酒場に教わるおつまみレシピ』は、何度かお邪魔している酒場から自宅でも再現できるおつまみレシピを教わって紹介しています。この本を参考に作ってみるもよし、本家の味を食べに飲みに行くもよし。二度楽しむことができて面白いかなと。コラムでは『一人飲みのススメ』といった小ネタやおすすめのお酒や宅飲みグッズなども挟んでおり、『せんべろnet』らしさのある一冊になっています」

 

6月30日に発売された同書は、なんと1週間で重版決定するほど大ヒット。のせるだけ、混ぜるだけ、漬けるだけ、などなど、ほろ酔いでも作れる簡単なレシピが70以上も掲載。ぜひ晩酌に活用してみてはいかがでしょうか。そして、ひろみんさんもおっしゃるように、本書をきっかけに実際に「せんべろ」のお店へ足を運べば、新しい発見もあるはずです。

 

楽しみ方は千差万別。無限に広がる「せんべろ」の世界に、あなたもたっぷり浸ってみませんか?

 

<取材協力>

立ち飲み居酒屋ドラム缶 大塚店

住所:東京都豊島区南大塚3-38-8 山上ビル 1F
営業時間:火~金曜日16:30~22:30(L.O22:00)、土曜、祝日15:00〜21:00(L.O20:30)
定休日:月曜日

※価格はすべて税込みです
※詳細な営業時間や定休日等に関しましては、公式インスタグラム等の営業カレンダーを確認ください(取材日:2022年7月28日)

 

撮影/我妻慶一

 

記事に登場した商品の紹介はこちら▼

・ISAINA
https://www.takarashuzo.co.jp/products/shochu/isaina/