「ナルコス」は、1970〜80年代のコロンビア。コカインで莫大な富を築いた実在の「麻薬王」パブロ・エスコバルが率いていた巨大麻薬密売組織メデジン・カルテルと、アメリカ麻薬取締局(DEA)の戦いの日々を描いたNetflixオリジナルのノンフィクションドラマ。パブロの敵で熱血捜査官・スティーブの回顧ナレーションでサクサク進行するので、この時代の中南米事情を知らなくても「あるカリスマの栄枯盛衰の物語」として十分楽しめます。
米ソ冷戦下の1973年、アメリカのバックアップでチリ大統領になったピノチェト。軍事政権を率い「独裁者」と呼ばれた彼が唯一やった良い事といえば、麻薬組織の撲滅だったとか。当時のチリは、密輸が見つかりにくい長大な海岸線など、その恵まれた(?)地形のおかげでコカインの製造と貿易の一大拠点となりつつありました。どんどん増える密売人を捕まえては、有無を言わさず処刑していた描写は「フィリピンでも今こんな感じなのかなぁ?」と思わずドゥテルテ大統領を連想してしまいます。
強運にも生還できた売人・コックローチは、コロンビアの天才的密輸商人で「将来は大統領になる」と豪語するパブロ・エスコバルを相棒にして、世界最大の麻薬消費地・アメリカのマイアミに進出、大成功を収めます。
80年代初頭のアメリカでは「麻薬」といえばまだ大麻が主流で、コカインには無警戒だったため、ボゴタ-マイアミ間の航空機には必ず運び屋が乗っていたというほどガバガバ密輸入されてしまっていました。飛行機の乗務員はもちろん、入国審査ではチェックされない妊婦が「飲み込んで体内に隠す」方法で持ち込み、多額の報酬を得ていましたが、袋が破れ胎児もろとも中毒死してしまうという悲劇も。ほどなく、コーヒーや魚などのコロンビアからの輸入品のほとんどにコカインが仕込まれるまでになるのですが、それでもマイアミでの需要は増すばかりで、80年初頭にはコカイン製造は週に1万キロを生産するメジャー産業になっていたとか。
売人たちは世界屈指の資産家となり、豪遊に溺れます。大邸宅やプライベートジェットはもちろん、島をまるごと買って、おネエちゃんをはべらせてのパーティーなど、文字どおりの「酒池肉林」!
その有り余る金の一部を、パブロは貧困層の救済などの社会事業に向けることで庶民の信頼を得、政界をめざすことにするのですが、莫大な資産に目をつけた共産ゲリラM-19が、1981年、密売人の家族を誘拐。人質を取り戻すべくパブロはさらに血なまぐさい世界にはまっていくのでした。そこで誘拐の再発防止などを名目に密売人たちを束ね組織化、それが「メデジン・カルテル」なんですね。ただの小悪党が知恵と行動力で成功、どんどん社会性を帯びてくる様子はまるで「黒い大河ドラマ」を見ているようで目が離せなくなってしまいます。
一方、当然ですがマイアミは荒廃し、犯罪も多発。とうとう看過できない事態になり、当時のレーガン大統領は「ドラッグとの戦争」を宣言。DEAの捜査官・スティーブは、やはり、麻薬中毒で死亡した患者を看取ったことで危機感を抱いた妻で医師のコニーと、義侠心だけでコロンビアに渡り、麻薬戦争の主戦場に身を投じるのですが……。
個人的には、1話の真ん中あたりに出てくるコカインの「ケーキのような」精製方法が興味深かったです。原料であるコカノキの葉を子供の足(大人より小さいのでまんべんなく潰せるそうです)で踏んで潰し、希硫酸を加えて抽出した成分をガソリンと混ぜ、固体だけを取り出して乾かし、アンモニアを使ってペースト状態にしたものをトレーに広げてオーブンに入れて乾かすとあの白い粉になるんだとか。希硫酸とかガソリンとか、それだけで体に悪そうですが(笑)
それにしても、フィリピンでドゥテルテ大統領がピノチェトばりに麻薬密売人を粛清しまくり、2016年のノーベル平和賞をコロンビアのサントス大統領が受賞したいま、まさにタイムリーな1本かもしれません。Netflixでは現在シーズン2も配信中ですので、これを機にぜひ一気見することをオススメします。