人が近づくと自動で点灯する照明や、自動で人を検知して動作するエアコンなど、ユーザーの動きに応じて稼働する家電が近年多く登場しています。それらの製品を支えている技術が「焦電型赤外線センサー」です。一般的には「人感センサー」の名で呼ばれるこのセンサーは、人の体温を赤外線として検知することで、その存在や動作を家電へと伝えています。
今回は、家電のみならず多くの製品に搭載されている焦電型赤外線センサー・パナソニックのPaPIRsを取材。私たちの生活の裏で日々進歩している技術についてお届けします。
焦電型赤外線センサーが人を感知する仕組み
まずは、焦電型赤外線センサーとは何なのか、簡単に説明しましょう。自然界に存在する物体は、その温度に応じて、大なり小なり赤外線を放っています。それは人間も例外ではなく、体温による赤外線を常に放出しているのです。
体温を持った人間が空間に現れたり、動いたりすると、場の赤外線に揺らぎが生じます。焦電型赤外線センサーはその揺らぎを検知し、人の存在や動きを認識します。
焦電型赤外線センサーの内部には、赤外線の入射によって温度が変化する「焦電素子」を内蔵。その焦電素子は、表面温度が上がると微細な電気(電荷)を帯びる性質を持っています。焦電型赤外線センサーは、電荷の変動を電気信号として取り出すことで、人の存在や動作を外部へ伝達するのです。
近年広がる、PaPIRsの活躍の場
焦電型赤外線センサーは、赤外線を捉えるレンズ、心臓部となる焦電素子、焦電素子が帯びる電荷を検知・伝達する集積回路によって構成されています。センサーやレンズのタイプは様々で、ものによって検知する距離や敏感さが異なります。形状も、その目的に合わせて多種多様です。パナソニックが製造するPaPIRsの場合、8種類のセンサーと、14種類のレンズがラインナップされています。
多種多様なタイプをラインナップしているPaPIRsは、活躍の場を多岐に広げています。屋内では、自動ドアや照明のほか、空調やオフィスの在室検知システム、アルコール消毒器。屋外でも街路灯や監視カメラなど、多彩な用途・シーンで、PaPIRsはこっそりと私たちの生活を支えています。近年はコロナ禍で”非接触”のニーズが高まっており、パナソニックの担当者によれば、PaPIRsの売上も右肩上がりだそうです。
多くのメーカーが支持するPaPIRs。その”2つの武器”とは
PaPIRsは、パナソニックの製品はもちろん、他社の製品にも導入されるほど、広い支持を集めています。その理由は2つあり、まずは自社開発の焦電素子による高い検知性能。そして、レンズから焦電素子、センサーそして集積回路までが一体化した”オールインワン”であることがあります。
PaPIRsの焦電素子の形状は、独自のコの字型をしています。その大きさは、コの字4つで約2mm四方。焦電素子のプレートの厚みは、わずか50μ(ミクロン)です。1ミクロンは、1mmの1000分の1なので、とてつもない薄さといえます。この焦電素子は従来品よりも小型化されているうえ、高い検知機能を誇っており、PaPIRsの信頼性の土台となっています。
焦電素子の信頼性を活かしているのが、それと一体化されたレンズとセンサー、集積回路です。一般的な焦電型赤外線センサーではこれらの部品が一体化されておらず、部品を別途用意する必要があります。ですがパナソニックは、レンズ・焦電素子・集積回路をすべて自社開発し、PaPIRsにオールインワンで組み込みました。これは業界唯一の特性であり、他社メーカーが、PaPIRsを自社製品に内蔵する大きな理由になっています。
日々進歩してきた、日常を支える技術
実は、パナソニックは1998年から焦電型赤外線センサーを開発しています。当時は、同社の社名がナショナルであったことから、製品名はその頭文字を取ったNaPiOnというものでした。そこから20年以上の時を経て進化した形が、いまのPaPIRsです。
私たちが何気なく利用している人感センサー。昔、トイレに入っても人感センサーによる照明が上手く点灯せず、悩まされた方もいるかもしれません。しかし現在、そういった不具合はかなり減っています。その裏には、長い年月で培われた、技術の進歩があることを忘れてはなりません。