山中の広大なキャンプ場や、どこまでも砂浜が続くビーチ。もしそんなところで待ち合わせをするとしたら……。もしそこに出前を頼むとしたら……。住所も割り当てられておらず、目印もない場所ならそれは不可能でしょう。しかし、不可能を可能にする“現在地革命”とも呼べる位置情報サービスが、イギリス発の「what3words(ワット・スリー・ワーズ)」です。
同名の企業・what3wordsが運営するこのサービスは、全世界を3m×3mの区域に分け、そこに3つの単語を付与。それによって、位置を特定するというものです。例えば、東京駅丸の内駅前広場だったら「めげない。みえる。さすが」、幕張メッセの入口中央なら「みせる。おおきな。きこう」といった形で位置を表示(詳細は本文で紹介していきます)。
この12月1日には、来年発売が予定されているスバルの新型「クロストレック」の車載ナビゲーションシステムに、what3wordsが搭載されることが発表されました。自動車メーカーでは世界で初めて日本語音声入力に対応します。今後、what3wordsが日本で定着していくことでどのような変化が起こるのか。そしてwhat3wordsは何を目指しているのか。CEOのクリス・シェルドリックさんに話を伺いました。
what3wordsとは何か?
――GetNavi/GetNavi webはガジェットや家電の新商品を紹介するメディアで、新しいテクノロジーに興味を持つ読者も数多くいます。what3wordsはその最たる例だと思います。まずはwhat3wordsの詳細を教えて下さい。
クリス ありがとうございます。今、画面のマップでご覧いただいている3m×3mのグリッドが1つの区域になっています。そこをクリックすると、その区域に割り当てられた3つの単語が出てきます。どの場所でも3つの単語だけで特定できるというのが、what3wordsの根幹です。緯度と経度の情報でも特定できますが、細かい数字の羅列よりも3つの単語で表したほうが、人間が扱いやすい形でアクセスできるのです。日本語の単語がひらがなだけになっているのは、漢字の読み方などで迷わないようにするためです。
――一般的な住所と異なり、具体的にどのようなメリットがあるのでしょう?
クリス これまでの住所では場所がはっきりと特定できないような場合です。3m×3mの区域で細かく特定できることがメリットとなります。たとえば私が住んでいるのは農場のような場所なので、住所だけでは私が今どこにいるかは特定できません。これが3つの単語を使うことによって、どの3m×3mの区域にいるのかはっきりとわかります。
――この度、スバルの新型クロストレックの車載カーナビにwhat3wordsが採用されると発表されました。すでに海外では他の自動車メーカーでも採用が進んでいるそうですね。
クリス 全車の車載カーナビにwhat3wordsを搭載すると決めた最初の自動車メーカーがメルセデス・ベンツでした。ランボルギーニやロータスの車種、三菱自動車も日本以外ではwhat3wordsを搭載しています。スバルもすでにアメリカではwhat3wordsを採用しているのですが、今回日本市場でも使われ、しかも初めて日本語での音声入力が可能になったという点が画期的です。日本の企業としてはソニー、スバル、アルパインが投資をしてくださっています。
――what3wordsの日本語での音声入力というのは画期的なことなのでしょうか?
クリス おそらく技術革新か否かと言われたらノーですけれども、機能面では革新的だと思います。先ほど申し上げたようにwhat3wordsはひらがなのみを使っているため、音声認識上の曖昧さがかなり排除できているんですね。100パーセントに近い正確さを担保できるという意味で、非常に精度が高くなっている。これは画期的だと思います。
――今、カーナビに音声入力を行っている動画を見させていただきましたが、本当に素晴らしいですね。ボタンを押して選んでいく作業が一切なく、とてもスマートに感じました。
クリス おっしゃる通りで、音声入力になるとwhat3wordsのスマートさやスッキリさが、さらに際立つというのが一番の売りだと思います。
精度の高い位置情報を確立
――これまで現在地というのは緯度・経度だったり、住所の番地であったり、無味乾燥な数字が並ぶものでした。what3wordsはそれを3つの単語に変えました。先ほどと似た質問になりますが、そうしたことでどのような価値が生まれたとお考えでしょうか?
クリス 3つの単語ではありますが、そこに意味はないんですね。完全にランダムに生成された単語です。何か意味をもたらすのではなく、むしろ、3m×3mの場所を特定する精度の高い手法を確立できたと考えています。
――とはいえ、与えられる単語が場所と関連性はないにしろ、言葉である以上、愛着が湧くと思います。そのあたりはどうでしょうか?
クリス 確かに面白い効果はあると思っています。3つの単語によって、場所と関連して連想が進むこともありますよね。この写真は、あるお店が所在地の3ワーズを窓に載せているところです。ランダムな3ワーズに愛着のようなものが確かに生まれている場面だと思います。
――今回スバルの新型クロストレックに日本語での音声入力が導入され、what3wordsの旅やドライブとの相性の良さがますます発揮されると思います。what3wordsは旅やモビリティをどのように変えてくれるのでしょうか?
クリス ドライバーの方たちに関しては、今まで行ったことのない場所に向かうことができるという、冒険心をそそるものになるのではないかと考えています。ですので、特にスバルのブランディングともマッチしていて、アクティブな体験を好む方たちにも使っていただきやすいと思います。また、what3wordsはオフラインでの使用が可能なので、電波が通じない山の頂上のような場所でも使えます。これも特に冒険したいと望んでいる方には利用価値が高いと思います。
――なるほど、場所が特定できることで、未知の冒険地図を手に入れたという感じですね。では、スバルのブランドイメージをお聞かせ下さい。どのような点でビジョンが共有できると思われたのでしょうか?
クリス スバルはとても冒険志向のある乗り物を作っていると思っていました。私自身が住んでいる場所も田舎で、一般の住所だけをあてにしているとなかなか正確な場所にたどり着けない。スバルのような冒険心と探索心のあるメーカーとチームアップすることをとても楽しみにしていました。
――今後はwhat3wordsを多くの車種に広げていくという戦略でしょうか?
クリス 日本国内に関しては、一般に公開できる情報としては、まだお伝えできるものはないのですが、実はEV車としては初めてベトナムのビンファストとチームアップすることが決まっております。
what3wordsはどこを目指すのか?
――B2Cの領域では、車載カーナビでの導入で私たちドライバーにとってはさらに身近になりそうです。では、B2Bの分野ではいかがでしょうか? 物流や配車サービスの分野でもかなり革新的なサービスにつながると思うのですが。
クリス たとえばイギリス国内では、物流大手のDHLの配達で使っていただいています。世界にも今後展開していきたいと考えていまして、日本もそのひとつです。
――what3wordsは2023年で創立10周年を迎えます。「昨年8月から今年8月までの1年間で日本での月間ユーザー数が338%増」という資料をいただきました。日本でも飛躍的な成長を続けていますが、この先の展望や戦略をお聞かせ下さい。
クリス はい、現在イギリス国内ではwhat3wordsはクリティカル・マスに到達でき、一般に認知される会社となりました。これを英国内の事象で終わらせるのではなく、地球規模で展開したいと我々は考えています。その上で、日本は私たちが重点的にフォーカスしている市場です。今後ますます、マーケティング活動や、ビジネスパートナーシップを築く活動を強化していきたいですね。
――日本にはお花見という文化があって、花見の時にピザを配達してほしいと思ったことが何回もあります(笑)。そんな時に、what3wordsが定着すれば確実に届けてもらえそうですよね。こういった身近なところでの利便性というのが、what3wordsがさらに普及していくカギを握っていると思います。
クリス おっしゃってくださったように、私も食べ物を今いる場所まで配達してほしいと思ったことが過去にありまして(笑)。ちなみにロンドンでは、現在、ちょうどいい場所を特定して食べ物を配達してもらえる状況ができています。ですので、ぜひ日本でも実現したいと考えていて、パートナー提携に向けて動いています。
――手ぶらでお花見に行って、料理やお酒は出前してもらう時代も来るかもしれないですね。観光でも、京都の住所はなかなかに複雑ですが、what3wordsが普及することで場所へのアクセスの方法論も変わるかもしれない。今回のカーナビの音声入力の搭載を契機にもっと多くの人に使ってもらえれば面白いなと思います。
クリス おっしゃる通りですね! もう、私たちの営業のチームに入っていただきたいぐらい、私も同じビジョンを共有しています。
まとめ/卯月 鮎