2017年から22年にかけて監督した、3本の短編をまとめた連作集『ippo』が1月7日(土)より公開される柄本 佑さん。加瀬 亮さん、高良健吾さんなどを起用して撮った個性的な作品の制作秘話のほか、自身の映画監督へ思いについても熱く語ってくれました。
【柄本 佑さん撮り下ろし写真】
黒木監督とフェデリコ・フェリーニ監督の『道』について話したことを覚えています
──柄本さんが小学校の卒業文集に書いた「将来の夢」。それは俳優ではなく、映画監督だったそうですね?
柄本 小学3年のとき、家にたまたまあったVHSのビデオテープで勝 新太郎さんの『座頭市』を一人で観たんです。どの作品かは覚えていないんですが、とにかく勝新さんがかっこよくて、「こんなかっこいい人を撮る映画監督は、もっとかっこいいに違いない」と思ったのが映画監督になろうと思ったきっかけですね。
──その後、高校生のときに『美しい夏キリシマ』のオーディションを受けたことをきっかけに役者の道に進まれますよね?
柄本 ウチの母ちゃんの当時のマネージャーが勝手に応募して、1次の写真審査が通って、2次の面接オーディションになったんです。そんなとき、母ちゃんから「どうせ落ちるとは思うけど、オーディション受けたら、生で映画監督を見れるよ!」と言われたんですよね。黒木和雄監督と言えば、僕にとって『竜馬暗殺』『祭りの準備』の監督でしたから、「どんな人なんだろう?」って、ミーハーな気分で会場に行きました(笑)。オーディションでは黒木監督と僕の大好きなフェデリコ・フェリーニ監督の『道』について話したことを覚えています。
本格的に撮るようになったのは、専門学校の卒業制作から
──ちなみに、学生時代には映画を撮っていたんですか?
柄本 小・中学生の頃は、よくビデオカメラで、弟と一緒に自分の部屋の中でできること、例えばコントみたいなものだったり、フィギュアを動かしたりして撮っていました。そのときは「編集する」というなんてことは頭にないので、一回止めて、その続きを撮るみたいな感じでした。それで本格的に撮るようになったのは、専門学校(早稲田大学芸術学校空間映像科)の卒業制作から。僕の幼なじみと劇団「東京乾電池」の役者さんに出てもらった『記念日』という9分の短編でしたが、撮影は『グミ・チョコレート・パイン』の現場で知り合った俳優の森岡 龍にお願いしました。
──それが、今回公開される『ippo』へと繋がっていくわけですね。
柄本 「あきた十文字映画祭」のために、『帰郷★プレスリー』(09年)という短編を上野俊哉監督のピンク映画『白衣と人妻 したがる兄嫁』のイメージで撮ったりしていました。それで「東京乾電池」にも所属している劇作家・演出家の加藤一浩さんと出会って、彼と一緒に長編映画を作ろうという話になったんです。でも、脚本を作っていくうちに、いろいろあって、加藤さんの戯曲の中で何かできないかな、と思ったときに、「4人あるいは 10人の男たちによる断続的な何か」という4本の連作戯曲に出会ったんです。それで、その中の3本を映画化する流れになりました。
「この脚本、難しいけど、面白いよね」と言ってくれたのも勇気になった
──それで17年に、1本目となる『ムーンライト下落合』を撮影されます。
柄本 久々に再会した友人という役を、加瀬 亮さんと宇野祥平さんが演じている姿が一番最初に思い浮かんだんです。月明かりに照らされている加瀬さんの姿と、宇野さんの背中にかかる嘘みたいにでっかい月のヴィジュアル。そこに向かっていけば、ちゃんと映画になるだろうと思ったんですね。ちょうど、その頃クランクイン直前だった『きみの鳥はうたえる』の撮影の延期が決まって、三宅唱監督に相談してたら、助監督として参加してくれることになったり、『きみの鳥~』の四宮秀俊さんが撮影してくれることになったり、偶然が重なりましたね。皆さん、「この脚本、難しいけど、面白いよね」と言ってくれたのも作品作りをしていくうえでの勇気になりました。それで出来上がったら、すぐに上映したくなっちゃって(笑)、3本撮る前にこれだけ1週間限定で上映しました。
──その2年後、18年に2本目の『フランスにいる』を撮られます。
柄本 今回の上映順通りに『約束』を撮りたかったんですが、2人とも忙しくスケジュールがなかなか合わなかったので、先に『フランスにいる』を撮ることになったんです。場所は「東京乾電池」の倉庫で撮るイメージがあったんですが、ちょっと狭いので、カメラの位置関係で悩んでいたんです。そのとき、現場で出会った巨匠カメラマンである柳島克巳さんのことを思い出して。「iPhoneで撮る」というヒントをいただきました。モデル役の高良健吾さんのスケジュールもタイミング良く合うなか、画家役はあえて加藤さんにお願いしました。だから、モデルと画家の関係性は、どこか僕と加藤さんの関係性に似ているといえますね。
のんびりゆっくりと楽しんでもらえると嬉しいです
──そして、また2年後となる20年に『約束』を撮られます。
柄本 コロナ禍で延期になった後、撮影を予定していた団地で撮れなくなってしまったんです。それで新たなロケ地が見つかったところで、渋川清彦さんと弟(柄本時生)のスケジュールが決まり、撮影しました。そういった偶然とか思いつきとか、いろんなものが重なって、ようやく5年がかりで3本まとめて公開できるようになりました。6人の男たちが出てくるので、どこか共感するところもあるかと思います。決して深刻な映画ではないので、皆さんには気負いなく、ふらっと観に来ていただいて、のんびりゆっくりと楽しんでもらえると嬉しいですね。
──ちなみに、柄本さんが現場に必ず持っていくモノなど、モノに対するこだわりがあれば教えてください。
柄本 僕、パソコンが苦手なので、ネタ帳みたいに思いついたものをすぐに書きとめる鉛筆と自由帳です。筆圧が強いのかシャープペンだと折れるし、ボールペンだと破れるので、断然鉛筆なんです。それに鉛筆削りが付いているキャップをはめて、かなり短くなるまで使い続けますね(笑)。自由帳に関しては、線が引いてない方がいいですね。失くしては見つかり、かれこれ十年近く使っているものといえば、皮でできた筆箱があります。あと、映画館でのこだわりとしては、観る前に必ずコーヒーと水を買いますね。
Ippo
2023年1月7日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次公開
(STAFF&CAST)
監督・脚色・編集:柄本 佑
脚本:加藤一浩
出演:加瀬 亮、宇野祥平「ムーンライト下落合」/渋川清彦、柄本時生、西村順乃介、西村廉乃介「約束」/高良健吾、加藤一浩「フランスにいる」
【映画「Ippo」よりシーン写真】
(C) がらにぽん
撮影/映美 取材・文/くれい響 ヘアメイク/星野加奈子 スタイリスト/林 道雄 衣装協力/ジョルジオ アルマーニ