おもしろローカル線の旅102〜〜錦川鉄道・錦川清流線(山口県)〜〜
本州最西端、山口県を走る第三セクター鉄道の錦川鉄道(にしきがわてつどう)錦川清流線。澄んだ錦川沿いを走るローカル線である。この錦川は岩国市の名勝、錦帯橋(きんたいきょう)が架かる川でもある。清流を望む路線を往復乗車し、史跡探訪と錦川の美景を存分に楽しんだ。
*2014(平成26)年8月31日、2017(平成29)年9月29日、2022(令和4)年11月26日の現地取材でまとめました。一部写真は現在と異なっています。
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【清流線の旅①】全通して60周年となる錦川清流線
まずは錦川清流線の概要を見ておこう。
路線と距離 | 錦川鉄道・錦川清流線:川西駅〜錦町駅(にしきちょうえき)間32.7km 全線非電化単線 |
開業 | 1960(昭和35)年11月1日、日本国有鉄道・岩日線(がんにちせん)川西駅〜河山駅(かわやまえき)間が開業。 1963(昭和38)年10月1日、錦町駅まで延伸開業し、岩日線(現・錦川清流線)が全通 |
駅数 | 13駅(起終点駅を含む) |
元となった国鉄岩日線は、岩国駅と山口線の日原駅(にちはらえき)を結ぶ陰陽連絡鉄道として計画された。錦町駅までは路線が開業されたものの、錦町駅から先の工事はその後に凍結されている。
その後の国鉄民営化に伴いJR西日本の路線となり、1987(昭和62)年7月25日に第三セクター経営の錦川鉄道へ移管、錦川清流線として開業した。今年は、岩日線の川西駅〜錦町駅が全通開業してから60周年という節目の年にあたる。
全線32.7kmとそれなりの距離のある路線だが、全線が岩国市内を走る路線ということもあり、岩国市が株の半数近くを所有する主要株主となっている。これは全国を走る第三セクター鉄道としては珍しい。それだけ地元の人たちの〝マイレール〟への思いが強い。
さらに沿線を路線バスが走らないこともあり、住民の大切な足として活用されている。同社が鉄道事業以外にも市内の公共事業に関わっているという事情もあり、廃止問題とは無縁のローカル線となっている。
【清流線の旅②】清流ラッピング車両とキハ40系が走る
次に錦川清流線を走る車両を紹介しよう。2形式の車両が導入されている。
◇NT3000形気動車
2007(平成19)年から2008(平成20)年にかけて、新潟トランシス社で4両が新製され導入された。錦川清流線の主力車両で4両ともに色と愛称が異なる。NT3001はブルーの車体「せせらぎ号」、NT3002はピンクの車体「ひだまり号」、NT3003はグリーンの車体「こもれび号」、NT3004はイエローの車体「きらめき号」といった具合だ。4両ともラッピング車両で、錦川にちなんだ草花や、魚や動物たちのイラストが車体に描かれている。
車内は転換クロスシートと一部ロングシートの組み合わせで、トイレも付く。運転席の周りには運賃箱と整理券発行機に加えて、消毒液が出る足踏み式の装置が取り付けられていて手が消毒できる。筆者も初めて見る珍しい装置だった。
◇キハ40形
2017(平成29)年に1両のみJR東日本から購入した車両で、元はJR烏山線を走っていた。毎月運行される「清流みはらし列車」といったイベント列車として走ることが多い。ちなみに同社の列車が乗入れる岩徳線(がんとくせん)にはJR西日本のキハ40系が走っているが、こちらは側面窓などの造りが大きく変更されている。錦川鉄道のキハ40形は、国鉄時代のデザインを残すもので、中国地方の鉄道ではレア度が高い車両とも言えるだろう。
【清流線の旅③】岩国駅0番線ホームから列車は発車する
それでは錦川清流線の旅を始めよう。錦川清流線の路線の起点は川西駅からとなっているが、全列車がJR岩徳線の起点駅、岩国駅に乗入れている。この岩国駅0番線ホームから発車する。
列車の本数は1日に10往復で、全列車が岩国駅から錦川清流線の終点駅、錦町駅間を走る。岩国駅から発車する下り列車は約1時間30分おきに1本の発車だが、11時10分発の次の列車は3時間10分後の14時20分発と、かなり空く。一方、上り列車は錦町駅発が9時54分の次の列車は2時間37分後の12時31分発といった具合だ。日中は本数が少ないダイヤが組まれているので注意して旅を楽しみたい。岩国駅〜錦町駅間の所要時間は1時間5分前後となっている。
錦川清流線の川西駅〜錦町駅間の運賃は980円で、岩国駅から乗車すると190円が加算される。錦川清流線内のみ限定ながら、昼の列車の利用時のみ有効な「昼得きっぷ」が往復1200円で、また「錦川清流線1日フリーきっぷ」も2000円で販売されている。「昼得きっぷ」は終点駅の錦町駅で、「錦川清流線1日フリーきっぷ」は車内および錦町駅で購入できる。
【清流線の旅④】まず因縁ありの岩徳線区間を走る
0番線から発車した錦川清流線の列車は岩徳線の線路へ入っていく。ちなみに岩徳線のホームは1番線なので誤乗車の心配がない。間もなく最初の駅、西岩国駅へ到着する。
この西岩国駅は1929(昭和4)年に開設され、当時は岩国駅を名乗った[それまでの岩国駅は麻里布駅(まりふえき)と改名]。西岩国駅は当時の古い駅舎が残っているのだが、筆者が訪れた時はちょうど改修中で、ネットで覆われていたためにその姿を見ることができなかった。改修工事は今年の1月いっぱいで終了するそうだ。ぜひ見ていただきたい味わいのある古い駅舎である。
岩徳線の歴史がなかなか興味深いので触れておきたい。岩徳線は岩国駅の「岩」と徳山駅の「徳」(路線は櫛ケ浜駅・くしがはまえき まで)を組み合わせた路線名で、山陽本線の短絡線として計画された。距離は岩徳線経由の岩国駅〜徳山駅間の路線距離が47.1kmなのに対して、山陽本線の同区間の路線距離は68.8kmmと21.7kmも長い。
麻里布駅(現・岩国駅)〜岩国駅(現・西岩国駅)間の開業が1929(昭和4)年4月5日で、全線開通は1934(昭和9)年12月1日だった。一時は岩徳線を山陽本線にしようとしたために、岩国駅の場所を移し、改名したほどだったが、岩徳線の本線化計画は頓挫する。当時の建設技術では複線化が難しかったのが理由だった。そのため麻里布駅は1942(昭和17)年に岩国駅と再び名を変えている。要は本線になりそこねたわけである。
西岩国駅の次が川西駅で、錦川清流線の列車はここまでJR岩徳線を走る。
【清流線の旅⑤】清流線起点の川西駅は錦帯橋の最寄り駅
ホーム一つの小さな川西駅には、ホーム上に錦川清流線の起点を示す「0キロポスト」が立つ。ここが正真正銘の路線の始まりである。
錦川清流線の旅を始める前に、すこし寄り道をしておきたい。川西駅は岩国の名勝でもある錦帯橋の最寄り駅だからだ。錦帯橋まで1.3km、徒歩17分で、散策に最適な距離だが、観光客はマイカー利用以外は岩国駅からバス利用が多く川西駅をほぼ利用しない。歩いていたのは筆者ぐらいのものだった。
錦帯橋の歴史と概略を簡単に触れておこう。架けられたのは1673(延宝元)年のことで、今から350年前のことになる。当時の岩国藩主、吉川広嘉(きっかわひろよし)によって現在の橋の原型となる木造橋が架けられた。5連の構造(中央の3連はアーチ橋)で、日本三名橋や、日本三大奇橋とされる名勝だ。何度も改良を重ねた末に、錦川の氾濫に耐えうる構造の橋が築かれた。
2代目の橋は276年にわたり流失をまぬがれてきたが、1950(昭和25)年9月14日に襲った台風の影響で橋が流されてしまう。その後の工事で復旧したが、2005(平成17)年9月6日〜7日の台風でも橋が流されている。いずれも複合的な要因が指摘されているが、1950(昭和25)年の流失の原因としては、特に太平洋戦争中に上流域の森林伐採が急速に進み、保水力が落ちたことが指摘されている。
山の保水力が落ち、さらに地球温暖化の影響もあるのだろう。錦川清流線は錦川沿いを走っている区間が多いが、この路線もたびたび、錦川の氾濫により影響を受けている。
【清流線の旅⑥】山中で岩徳線と分岐して錦川清流線の路線へ
川西駅が錦川清流線の起点駅となっているが、岩徳線としばらく重複して走る。川西駅から眼下に岩国の市街をながめながら山中へ入っていき、道祖峠トンネルを通り抜けて1.9kmあまり、森ヶ原信号場(もりがはらしんごうじょう)で、進行方向右手に分岐していく線路が錦川清流線となる。
森ヶ原信号場を過ぎると、間もなく一つの橋梁を渡る。こちらは御庄川(みしょうがわ)という錦川の支流にあたる河川だ。このあたりの錦川は岩国城がある山の尾根で流れを阻まれるように北へ大きく蛇行しており、錦川清流線とは離れて走る区間となっている。
御庄川橋梁を渡ると、はるか上空に山陽自動車道の高架橋がかかり、まもなく山陽新幹線の高架線も見えてくる。
【清流線の旅⑦】山陽新幹線の乗換駅ながら質素さに驚く
山陽新幹線の高架線のほぼ下にあるのが清流新岩国駅だ。新岩国駅の最寄り駅となる。JR山陽本線の岩国駅が海岸に近い市街地にあるのに対して、新岩国駅は山の中に開かれ駅だ。今は岩国駅と新岩国駅の両駅が岩国市の玄関口とされているが、駅舎を出るとだいぶ印象が異なる。
新岩国駅の駅前には路線バスやタクシーが多くとまり、また近隣の駐車場も入り切れないぐらいの車が駐停車していた。行き交う人も多く、現在は新岩国駅の方がより賑わっているように感じられた。同駅からも前述した錦帯橋行きの路線バスが走っている。
新岩国駅から錦川清流線に乗換える人も多いが、最寄り駅とはいえやや離れている。時刻表誌にも「距離300m、徒歩7分」離れているという注釈が入っている。
新岩国駅の駅舎を出ると、山陽新幹線の高架下にそって通路があり、300m進むと清流新岩国駅がある。意外に距離があり、列車に遅れまいと小走りする利用者が多く見うけられた。
清流新岩国駅はホーム一つの小さな駅で、待合室は元緩急車の車掌室を改造したものだ。錦川清流線を利用する多くの観光客はこの駅から乗車するが、初めて訪れた人はその質素さに驚かされるに違いない。
なお清流新岩国駅は2013(平成25)年までは御庄駅(みしょうえき)という名だった。待合室の上部にはペンキ書きされた古い駅名が残っていて郷愁を誘う。
【清流線の旅⑧】路線は錦川に沿ってひたすら走る
清流新岩国駅を発車して間もなく、進行方向右手に錦川が見え始める。岩徳線の西岩国駅〜川西駅間で錦川を渡るが、ここから錦川清流線は錦川沿いを走る区間に入る。守内かさ神駅(しゅうちかさがみ)駅、南河内駅(みなみごうちえき)にかけては、錦川をはさんで対岸に国道2号が走り、南河内駅近くで錦川清流線とクロスする。国道2号をさらに先へ行くと、岩徳線の路線と出会い並行して走り徳山方面へ向かう。
国道2号(旧山陽道)がこの地を通るように、錦川清流線および岩徳線が通るルートは、古くから重要な陸路として開かれ活用されてきた。大正昭和期の人たちが岩徳線を山陽本線としようとした理由もここにあった。
錦川清流線は行波駅(ゆかばえき)、北河内駅(きたごうちえき)、椋野駅(むくのえき)、南桑駅(なぐわえき)と進むにつれて、蛇行する錦川にぴったりと寄り添うように走る。進行方向の右下は川岸ぎりぎりという区間も多くなる。
盛土された上や、コンクリートの壁面を作りその上を列車が走るため川面よりもだいぶ上を走る。錦川ははるか下に見下ろす箇所が大半だが、数年ごとに豪雨災害の影響も受けている。
錦川清流線は、2018(平成30)年7月にこの地方を襲った「平成30年7月豪雨」により全線不通となり、8月27日に復旧した。昨年の9月18日には台風14号の影響で路線に並走する市道が崩れ落ちたために岩国駅〜北河内駅間が運休、11月14日にようやく復旧を終えたばかりである。
【清流線の旅⑨】観光列車でしか行けない錦川沿いの秘境駅
川が近くを流れるということは、列車からの景色が美しいということにもなる。それが錦川清流線の魅力にもなっている。
錦川側の風景ばかりではない。北河内駅〜椋野駅間には「錦川みはらしの滝」、椋野駅〜南桑駅間には「かじかの滝」と2本の滝が山から流れ出している。両スポットでは列車がスピードダウンして、それぞれの滝の解説が車内に流れる。観光客が多く乗車することを意識してのことだろう。
さらに南桑駅〜根笠駅(ねがさえき)間にはとっておきの駅がある。清流みはらし駅と名付けられた臨時駅だ。清流みはらし駅は川沿いにホームのみがある臨時駅で、道は通じていない。錦川のパノラマ風景を楽しむために造られた駅で、キハ40形で運行される観光列車「清流みはらし列車」のみこの駅へ行くことができる。
同列車は昨年秋、災害により路線が不通となり運転されなかったが、次回は2月4日(土曜日)に走る予定だ。往復運賃+昼食お弁当を含み5000円で1日30名のみ限定だが、機会があればぜひとも乗ってみたい、そして訪れてみたい川の上の臨時駅である。
【清流線の旅⑩】終点・錦川駅の先には未成線の路線が延びる
河山駅(かわやまえき)、柳瀬駅(やなぜえき)と錦川を見下ろす駅を通り、錦川橋梁を越えれば終点の錦川駅に到着、三角屋根の駅舎が旅人を出迎える。
錦川鉄道が発行する「鉄印」はこの駅のみの取り扱いで、スタンプ+キャラクター「ニシキー」(岩国市特産品を食べる絵)や書き置き印といったバラエティに富んだ「鉄印」を用意している。
錦町駅の構内には車庫があり、乗車したNT3000形以外のカラー車両とキハ40形が停車している姿を見ることができる。戻る列車の発車時間まで余裕がある場合には、ぐるりと駅を一回りするのも良いだろう。車庫や検修庫を裏側から見ることができる。
錦町駅から先には岩日線の未成線区間を利用した観光用トロッコ遊覧車両が運転されている。「とことこトレイン」と名付けられた列車で錦町駅と、そうづ峡温泉駅間の約6kmを走る。
てんとう虫を見立てたデザインの「ゴトくん」、「ガタくん」というかわいらしいネーミングの車両を利用し、路線内には蛍光石で装飾された「きらら夢トンネル」という装飾トンネルを走るなど、親子連れにぴったりな乗り物だ。片道40〜50分で、基本は週末と特定日の運行、往復1200円だが、錦川清流線の利用者は割引となる。そうづ峡温泉には日帰り温泉施設「SOZU温泉」もある。「とことこトレイン」は冬期(12月〜翌3月下旬)運休で、4月以降に運転が再開される予定だ。
乗車した錦川清流線では錦川の清涼感が感じられ、錦帯橋を含め爽やかな気持ちになった。次回に訪れた時には、観光列車に乗車しなければ下車できない「清流みはらし駅」や、改修された「西岩国駅」にも訪れてみたいものである。