Vol.123-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはソニー・ホンダモビリティがCES 2023で披露したEVの話題。今のEVの立ち位置をとらえ直す。
自動車の中身を知らない人には意外なことかもしれないが、現代の自動車はすでにコンピューターなしでは成り立たない。バックモニターやナビなどにコンピューターが必要なのはわかりやすいところで、省エネ性能や排ガス規制をカバーするためには、エンジンでの微細な燃焼コントロールは不可欠。ドアの鍵制御にだってコンピューターは必須で、すでに自動車内にはネットワークが張り巡らされている。
とはいうものの、ここから電気自動車(EV)の普及によって起きる「ソフトウェア制御」は、もっと高度なものになる。モーターをベースとしたEVでは、効率的かつ快適に走るには、ほとんどの部分をコンピューター制御で動かす必要があるからだ。また、現在のモーター+バッテリーは、単純な馬力や燃費では、ガソリンエンジンに敵わない。そのため、加速性能の快適さや高度安全運転など、ソフトウェアの力で制御できる部分で差別化し、ガソリンエンジン車に負けない車を作らねばならない。
ただ、冒頭で述べたように、自動車の電気制御はすでに当たり前になっている。特にハイブリッド車が登場して以降、その重要性は高まるばかりだ。だとするなら、それがEVになっても本質的な変化ではない……と考えることもできる。
だから「EV」といっても、その設計思想によって、実際の自動車としてのあり方は大きく変わる。シンプルなEVとテスラのようなEVでは、考え方がまったく異なるのだ。
結局のところ、走るための“パワートレーン”を電気にしても、それは“自動車からのCO2排出量が下がる”だけに過ぎない。発電所の稼働量などを考えると、それだけで良いことがある、というわけでもないのだ。
自動車は高価で、本質的には危険な乗り物である。パワートレーンの大幅な変更は、“自動車がより安全で快適な乗り物にすること”とセットでなければ進まない。だから、自動運転や高度安全支援の話がセットで語られる。自動車の乗り方・使われ方からエネルギー供給の仕組みまで、全体が変化して初めて“ガソリンから電気へ”の変化が価値を持ってくることになり、そこでは「ソフトウェアでの処理」が重要である……ということなのだ。
ただ、走ることに特化したソフトウェア処理の場合、実は個人向けより、企業向けの方が大きなインパクトを持つ。メンテナンスの簡素化や自動運転・高度運転支援などの効果により、輸送管理のコストが下がることに大きな価値がある。
とはいうものの、ソニー・ホンダモビリティの「AFEELA」も、テスラも、個人向けのEVである。
個人向けのEVでは、また別の形でソフトによる進化が期待されているのだが、それはどういう部分になるのだろうか? その点は次回解説する。
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