2023年2月時点でチャンネル登録者数26万人以上を誇るYouTubeチャンネル『石井東吾 Togo Ishii ワンインチチャンネル』をご存知だろうか。石井東吾は、ブルース・リーが開祖の武術・ジークンドーの使い手である。武術界でブレイクし、多くのメディアやテレビの地上波にも出演、人気はますます広まっている。その石井東吾の初の著書『陰と陽 歩み続けるジークンドー』(Gakken・刊)が発売され、出版記念イベントが行われた。その様子と本人のコメントを紹介する。
(構成・撮影:丸山剛史/執筆:松本祐貴)
ワンインチパンチで脚光を浴びた武術界の新星
武術家・石井東吾が世に知られたのは2020年3月に格闘家・矢地祐介のYouTubeに出演し、ワンインチパンチを披露したことだ。ワンインチパンチとは1インチ(2.5センチ)開けた状態からテイクバックなしに放つパンチだが、その威力は人が吹っ飛ぶほどである。その後も石井は、那須川天心・朝倉海・岡田遼・朝倉未来などとコラボを行った。
2021年5月には『石井東吾 Togo Ishii ワンインチチャンネル』をYouTubeで開設し、約1か月で登録者数10万人を突破、現在は26万人以上の登録者を誇る。チャンネルには、デニス・植野行雄もレギュラー出演をしている。
今回の出版記念イベントは、スペシャルゲストにミュージシャンのハマ・オカモト(OKAMOTO’S)、石井の師匠にあたるヒロ渡邉が登場。当初予定していた100席はまたたく間に完売。追加販売を行い、150人以上が会場を埋めた。いよいよ武術界の新星が観衆の前に現れる。その会場の様子をお届けしよう。
ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)も認めた石井東吾のこだわり
「本日司会進行を務めるデニス・植野行雄です。いや〜、みなさんの拍手が鳴り止みません。純度が高い!!」と、芸人であるデニス植野が会場を盛り上げたところで、今日の主役である石井東吾が姿を現した。
「とても緊張してます」と話すように、会場を埋めた生の観衆たちに圧倒されていたようだ。続いてミュージシャンのハマ・オカモト(OKAMOTO’S)とのトークが始まる。二人の出会いはハマ・オカモト(OKAMOTO’S)がMCを務める『プレスク』(BSフジ)だったのだとか。
石井「最初は番組でゲストに呼んでもらったんだよね」
ハマ「そう、もともと武術のYouTubeは見ていましたが、東吾先生と出会えたのは、たまたまオススメ動画に出てきたからです。YouTubeのアルゴリズムのおかげで東吾先生に会うことができたんですね。『プレスク』ではひとつのことにこだわる人を探していて、僕がスタッフに東吾先生を推薦しました。最初から東吾先生は所作が普通ではなかったですよ」
お互いの仲の良さがわかるような軽妙なトークが続き、最後に石井が「ハマ・オカモトくんは目指している道は違いますが、求道者として似ている部分があります」と最大限のリスペクトを送っていた。
石井東吾の第一印象は「モンチッチ」だった!?
次なるトークゲストは、石井東吾の師匠・ヒロ渡邉だ。ブルース・リーの直弟子テッド・ウォンからジークンドーを学び、ジークンドー・エイジア・ジャパンの統括代表を務めている。そんなヒロ渡邉が、石井の第一印象を語った。
ヒロ「テッド・ウォン先生のセミナーを開いたときに、やたらニコニコとしている子がいるなと思ってたんです。東吾の第一印象は、はっきりいうとモンチッチでした(笑)。だけど、実際は真面目で、どんどん頭角を現してくる、本当にいい弟子です」
石井「いや、当時は運動音痴で劣等感の塊でした。ヒロ先生は、そんな僕をジークンドーの修行でどんどん褒めてくれました。だから僕も『もっと認められたい』とがんばったんです」
ヒロ「テッド先生のプライベートレッスンは鬼でしたね。ロサンゼルスで昼の気温は40度近くになるんです。そこでスパーリングなんてしたらね。東吾はホテルのベッドで大の字になって動けなくなってましたね」
石井「ヒロ先生はそんなときでも日程に余裕があれば、ディズニーランドやユニバーサルスタジオ・ハリウッドに行きたがるんですよ。お供させていただきましたが、本当は寝ていたかったです(笑)」
厳しさとともに微笑ましさもあった師匠と弟子のトーク。さらに、ヒロ渡邉によるジークンドーの実演もあり、会場は大いに盛り上がった。石井は「今でもヒロ先生が進化するので、僕は食らいついていきたいです。僕はずっとヒロ先生の弟子でいます」と師への敬愛は変わらないのであった。
世に出るキッカケは「ウチの師匠なら刃牙(バキ)の技ができます」
まだまだイベントは続く。シークレットゲストとして格闘家・矢地祐介、また、ワンインチチャンネルメンバーのデニス・植野行雄、神戸勇輝、平良が登壇。
RIZINなどで活躍する矢地は、石井を有名にした人物でもある。そもそもは矢地が、自身のYouTube『ヤッチくんチャンネル』で、漫画『グラップラー刃牙』の技の再現を取り上げていた。その中に烈海王の無寸勁(ノーインチパンチ)があり、矢地とデニス植野で取り組むが、結果は「できません」だった。その映像を見た石井東吾の弟子・平良が「ウチの師匠なら刃牙の技ができます」と連絡し、動画出演につながった。これが、石井東吾のブレイクのキッカケになるとは、このときは誰も知らなかった。
『ヤッチくんチャンネル』の「総合格闘技 VS ジークンドー!ブルース・リー直伝のワンインチパンチ、衝撃の被弾・・!」の回では、石井東吾と矢地祐介が初めて対面し、石井のワンインチパンチの威力、さらには矢地がワンインチパンチを学ぶ姿が見られる。この動画は500万回以上再生され、武術ファンに石井東吾の名を知らしめた。ジークンドーがまた注目を浴びる時代が来たのだ。
石井は「矢地くんがいなかったら、僕は今、この場にはいなかったと思います」と、矢地に感謝の言葉を述べた。ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)、ヒロ渡邉と緊張の表情が続いていたが、いつもの収録メンバーに囲まれ、石井もリラックスの表情を浮かべていた。
トークショーの後、会場を埋めたファンのためにプレゼント抽選会が行われた。プレゼントには本日の登壇者のサインが入った色紙、ワンインチチャンネル特製のエコバックとTシャツが用意され、当選者は石井との撮影も楽しんでいた。最後にサイン会も開かれ、出版記念イベントは大盛況のうちに幕を閉じた。
「大事なのは諦めずに続けること」
イベント後の石井東吾を直撃。まずは『陰と陽 歩み続けるジークンドー』を出版した経緯を聞いてみた。
「2020年にいろいろな方々のYouTubeや雑誌などに出始めて、半年ほどたったころ、多くの出版社から書籍のオファーをいただき、今回の出版につながりました。こだわりとしては、僕は自分の言葉で思いを届けたかったので、すべてを自分の文章で綴りましたね」
本書には、石井の会社員時代のエピソードも書かれている。厳しいジークンドーの修行と会社員という二足のわらじ生活は苦しくなかったのだろうか。
「会社員をがんばれたのもジークンドーのおかげです。もちろん修行も仕事もつらいときがあります。続けられた理由の一つは、ヒロ渡邉先生が向上していく背中を見ていたことですね。僕は先生を追いかけていて、気づいたら10年、20年経っていました」
そして石井は会社に辞表を提出する。
「さまざまなメディアに出ていくと、両立が厳しくなってきました。その時点で来た映画(※1)のオファーが決定的で、撮影のための数か月の拘束をこなすには有給がもう足りなかったんです(笑)。両方中途半端はイヤでしたし、武術の道で生きることを決意しました」
(※1)2023年公開予定『1%er』(山口雄大:監督/坂口拓:主演)
最後にファンの方、読者にメッセージをもらった。
「僕が歩んできた道でしか語れませんが、大事なのは諦めずに続けること。運動神経も悪くて、なんの才能もありませんでしたが頑張って続けた先に今の自分に辿り着くことが出来ました。この本ではそんな劣等感を抱えた自分が、武術の修行とサラリーマン生活、様々な出会いを通し少しずつ成長しながら歩んできた道のりが書かれています。今を生きる皆さんにとって、少しでもより良く生きるヒントになれば嬉しく思います」
まだまだ石井東吾の武術家としての道は開かれたばかりだ。これからジークンドーがどのように日本で受け入れられていくのかはこの男にかかっている。気になる方は、まずは石井東吾のYouTubeチャンネル、そして、石井の半生が描かれた『陰と陽 歩み続けるジークンドー』を手にとって見てはどうだろう。少年野球ではベンチを温めていた小さく平凡な少年が、ブルース・リーの『燃えよドラゴン』と出会い、武術に惹かれていくーー。“不断の努力”を続ける人・石井の凄みを気付かされるはずである。
『陰と陽 歩み続けるジークンドー』
武術界で一躍脚光を浴びたジークンドーの使い手・石井東吾。その半生とジークンドーの技術、哲学を詰め込んだ一冊!!