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2023/3/22 20:45

映画監督・足立紳、バレンタインのチョコがもらえないと嘆く息子に「パパは19歳で初チョコだ」と諭す2月

「足立 紳 後ろ向きで進む」第35回

 

結婚20年。妻には殴られ罵られ、ふたりの子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々——それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!

 

『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。2023年のNHKの連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本も担当。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。

 

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1日(水)

朝8時からいつもの喫茶店で仕事。14時に近所の銭湯に行く。年配のヤクザの方に「よう会いますねえ」とサウナで声をかけられ、少し会話。「○○組は今、ウクライナに義援金送ってるんですわ。日本はどっこも受け取ってくれへんからねえ」とのこと。私は曖昧な笑みだけをお返しした。

 

「ヤクザの方」とか「お返しした」と書いたが、文章を書く人がヤクザや暴力団の人が文章内に出てくると、特に軽めのエッセイなんかだと「その筋の方」とか私の書いたような「お返しした」とか変にへりくだったというのか、なんというのかよくわからないけど、そういう書き方がほとんどであるように思う。

 

実は少しだけ違和感があった。ヤクザや暴力団からひどい目にあわされた人からすると、そういう書き方をしている人を嫌いにもなるだろう。これがサラリーマンとか自衛官とか八百屋さんとか本屋さんとか高校生とか大学生とか無職の人とかであればそういう書き方はしないはずで、あの人たちをこう書くのはどういう気持ちの構造なのか。悪い人じゃない人もいるよということなのか、扱い方がわからないのか、つまらないギャグみたいなものかよくわからないが、なにか違う表現はないものかと思ってしまう。私はきっと今まで通りのような書き方をしていくのだろうが。

 

夜、後輩のシナリオライターのY君、Kさん、Mさん、N君が家に来る。彼らはちょくちょく家に来てくれる。というか私が呼ぶのだが、もしかしたらこれはハラスメントなのかもしれない。先輩が後輩を飯に誘ってはいけないと聞くし、その場に一緒にいる妻によると「あんた、なに先輩面してんの? 寒い、恥ずかしい、醜い」とのことであるし。

 

だが、若手の話を聞けることは滅多にないし、昨今の日本の映画やドラマに対して人間関係を無視して本音で感想を語り合えたりもするので、その時間はとても貴重で楽しい。あと、自分の作った飯を人に食べてもらうのも楽しいが、これは押し付けかもしれない。

 

2日(木)

朝起きると息子が学校に行きたくないオーラを全開にさせている。まあ、ほぼ毎朝こうなので珍しいことではないが、やっぱり慣れない。消耗してしまう。一応「なんだよ、どうしたんだよ」と聞くと「国語の教科書がないから」とのこと。それは新学期に入ってからずっと言っている。まだ見つかってなかったのか……。話を聞いていると、他にも理科の実験で火を扱ったらしいのだが、そのとき火が消えなくなってしまい友達に強く注意されて頭をぶたれて傷ついたとのこと。目に浮かぶが、きっとはしゃいだのだろう。息子ははしゃぎだすと止まらないところもある。親世代から見ると、そこがかわいいと言ってくれる人もたくさんいるし、実際私も息子のそんなところがとてもかわいくあるのだが、同世代からは「うぜー……」と思われてしまうかもしれない。

 

とりあえず、学校を休んだらゲーム、YouTubeは2週間取り上げとしているのだが、それでも休むというので休んだ。私は仕事に出たが、午後に戻ってくると、息子が退屈そうにフィギュアで遊んでいたので、そんなことをしているよりはと映画を観せてしまった。『ビースト』(監督:バルタザール・コルマウクル)という少し前に映画館でやっていたライオンと戦う映画なのだが息子は面白かったとのこと。

 

休むとこうして家で映画を観たりマンガを読んだりできると思われるのもイヤなので、そうしていなかったのだが、やはり無駄な時間を過ごしているとしか思えない光景を目の当たりにすると、「まだ映画でも観ているほうがマシか……」と思ってしまい、それで夫婦ゲンカにもなってしまう。

 

学校ってなんのために行くのか否が応でも考えてしまうが、今のところ「将来、仕事についたときに、行きたくねえなあと思っても、頻繁に休むわけにはいかないからその訓練として。あと、苦手な人や物事にぶち当たったときにどうすればいいのかトライ&エラーのため」と考えている。我ながら後ろ向きで行きたくなる理由ゼロだなあとは思うが、「友達と遊びに行くところ!」とか「先生と話しに行くところ!」なんてのは息子にとってはウソでしかない。行かないのはそれはそれで息子も不安なようだが、どこか一つ楽しい場所が見つかって欲しい。それを見つけるのは親だが。

 

3日(金)

朝、妻がブットい恵方巻を作ってくれたので、息子と娘と願い事をしながら黙って3人で食った。3人ともかなり真剣だ。娘は受験のこと、息子はゲームがたくさんできますように、私はいろんなことを願った。

 

その後、妻は「雑魚どもよ、大志を抱け!」のバリアフリー試写へ。今回の映画は、音声ガイドも、字幕も無料のアプリで見られるので、この機会に是非そちらも体験していただけると嬉しいです。

 

4日(土)

夜、シナリオ作家協会のYouTubeチャンネル「BAN’S BAR」に出演。脚本家の伴一彦さんがホストになり毎週土曜日に脚本家を中心としたゲストを招いて2時間お話するという番組。自分の動画はのちのち見返すと、自分の醜い見てくれ、傲慢な話しぶり、その話の浅はかな内容、すべてにおいてショックを受けるから見返さないことにしている。でも、少しでも自分の顔を売りたいのと映画の宣伝をしたいので、お誘いがあれば出ることにしている。

 

5日(日)

受験間近な娘は日曜日も午前中から塾、私は仕事。夕方、妻と2人で中野の「味楽来(ミラクル)」に行く。息子も誘ったが、「今日は外に出たくない」とのことで、(漫画『はだしのゲン』に没頭している)、夫婦だけで行った。ここはとにかく安くて美味い。焼き肉のときはウチはたいていここだ。2人で大学生のカップルのようにバカ食いした。

 

6日(月)

インプットDAYと決めて、映画を2本観る。『FALL/フォール』(監督:スコット・マン)−−初めて眠気ではなく、恐怖で気絶しそうになった、高所恐怖症なもので。『離ればなれになっても』(監督:ガブリエレ・ムッチーノ)−−特別じゃない人の、特別じゃない日常だからこそ面白い。両作ともにとても見ごたえがあった。

 

7日(火)

息子、本日も休むとのことなので、今日は漫画という漫画、フィギュアというフィギュアをすべて隠した。すると息子はそんな私と妻にむかって「『カラダ探し』の2巻がそこにあるけどいいの?」とか言ってくる。そういうときの心境はどんな感じなのだろうか? 結局この日はすでに8回目くらいになる『ターミネーター3』(監督:ジョナサン・モストウ)を観ていた。

 

9日(木)

息子、大いに渋りまくりながらも今日は行った。なので私の仕事もいつもより捗った。夜、鶯谷の「信濃路」にて武正晴監督と俳優の清水伸さん、坂田聡さんと飲む。

 

「信濃路」は昨年の2月5日に亡くなった西村賢太さんの行きつけの安居酒屋だ。4人ともに西村作品を愛読しているので、そこで飲もうと清水さんが企画してくださった。下ネタ、病気ネタ、ハゲネタ、不満、愚痴、ロクでもないことばかり話している大変楽しい会だった。

 

私は西村作品というのは、文章として傑出して面白いと思うと同時に、映像にしてもものすごく面白いと思っている。これを両立している小説はそうはないと思う。そもそも両立させる必要なんかないし、昨今はなんだか映像化されることが小説の評価の一つになっているような気もするが、たいていの小説やマンガを映像化した作品は元の文字作品よりもつまらない。理由としては小説家やマンガ家は映像化されることを前提で書いて(描いて)いないから(書いている人もいるかもしれないが)。そこに我々のようなシナリオライターが登場して、映像向きに脚本として書いていくのだが、そもそも映像化を前提にしていない書き物を、映像用に書くのは至難の業なので、そこに追いつける脚本家がものすごく少ない。

 

だが、西村作品は登場人物に血が通っているので、そのまま映像に置き換えらえると思うのだ。あんなに文章も面白く、同時に映像がくっきり浮かんでくる小説はそうそうないと思う。

 

そんなふうに西村作品について語っていたら、妻からメール。帰りにコンパスを買って来てくれとのこと。明日、娘が受験する私立高校の受験票の当日の持ち物のところにコンパスと書いてあったらしいのだが、娘はコンパスを学校に忘れたことに今気が付いたとのこと。

 

「はぁ?」と思うが、私は「忘れたお前が悪いから持って行かなくていい!」と一喝できるタイプの人間ではない。時間は22時をすぎていたし、文房具屋さんがあいているはずもない。妻は「多分100円ショップか、コンビニか、大型の薬局にある」と書いているが、私はコンビニでコンパスを見たことがない。

 

清水さんがすかさず近くに100円ショップがあるか検索してくださったがない。ドン・キホーテならあるのではないか、と皆さんこの時間ならどこで手に入りそうか考えてくださる。

 

ドン・キホーテなら池袋にあるから途中下車して買えばいいかと思い、それからまた少し飲んで解散となったのだが、どうにも途中下車するのが面倒だし、「コンビニにある」と妻のメールに書いてあったし、仮になくても、「なーにコンパスを使う問題が解けないくらいだ、併願だし受かるだろ」なんて思いつつ、家の最寄りの駅で降りて、いくつかコンビニを回るもどこにもコンパスは置いてない。

 

するとさっきはへっちゃらだろなんて思っていたのに急に不安になってくる。この極寒の深夜、1時間以上もかけて10店舗以上のコンビニを回り、東の空も明るくなりなってきて精も根も尽き果てかけたとき、ふと目にはいった24時間営業のドラッグストアに足を踏み入れ、小さな小さな文房具コーナーを目指した。コンビニレベルの文具コーナーだったので、きっとコンパスなんか置いてないだろうと9割がた諦めていたが、売り場の片隅にキラキラと輝くコンパスが目に飛び込んできた。本当にキラキラと輝いていた。私はどえらい宝物を見つけたかのような興奮を覚えて、コンパスを購入して家に戻った。当然誰も起きてはいなかったので、一人大きな仕事を果たした気分を噛みしめながら、ビールを一本だけ飲んだ。

 

10日(金)

朝、娘にコンパスを差し出すと「ありがとう」の一言だけだった。

 

雪がシンシンと降っていてとても寒い中、娘とともに受験する高校へ向かう。本番当日ということもありピリピリしている娘が、面接の練習をしたいと高校へ向かって歩いている道中に言い出す。

 

『これだけは聞かれる7つの質問』というのを中学からもらって来ていて、「高校に入学したら何に頑張りたいですか?」とか「将来の夢は?」みたいなことを聞くなかで、「最近気になっているニュースは?」という質問に、「なんて言えばいい? スシローの動画でいい?」と言ってくるので、「いやもう少し社会問題に関心あるっぽいやつにしろ」と私は言った。スシローの事件だって掘っていけばいろいろ見えてくるものはあるだろうに、中学生が中学生のイタズラ動画のことを言ってもなあ……と思い、「ウクライナかオリンピックにしろ」と私が言うと、「パパもロクに知らないじゃん、ウソつきたくない」と娘が言い、そこからやや口論に。

 

「じゃあもういいよ、オリンピックがヤバイやつで」と娘は最終的に言ったので、ヤバいのはオリンピックじゃなくてその周辺のことだぞ! と言おうとしたが、高校についてしまい、娘はさっさと行ってしまった。

 

私は近くのファミレスに入り、娘の試験が終わるまで仕事をした。学科試験が終わり、面接が始まったなあくらいの時間に娘の高校に行ったのだが、待つこと1時間半。いつまで待つんだとイライラしはじめたくらいで娘が出て来た。面接の順番が最後のほうだったとのこと。

 

「どうだった?」と私が聞くと、娘は「まあまあ」と答えた。

「コンパスは?」

「使わなかった」

「はぁ!?……最近気になっているニュースはなんて答えたの?」

「聞かれなかった」

「……」

 

解放感のある娘は帰り道にある古着屋さんで、ご機嫌な様子で服を物色してなにか買っていた。

 

夜、息子の格闘技教室にお迎えに行った妻が1人で帰って来る。「息子は?」と聞くと、「雨と雪にまみれて遊んでる。怒鳴り散らしても完無視して遊んでるから置いてきた」と不機嫌に答える。私が迎えに行くと、近くの児童公園で、雨でビチャビチャになっている雪の中、Tシャツ姿で息子が何やら言いながら1人で遊んでいたので、引きずって連れて帰った。

 

11日(土)

息子、案の定発熱。昨夜、ビチャビチャになって遊んでいたからだろう。

 

※妻より

息子は夏は必ず熱中症になるし、冬は必ず風邪ひきます。温度や自分の体調に鈍感なのでしょうか?「遊びたい!」と思った時の衝動が強すぎるのでしょうか?…そろそろ自分の取説を認識して欲しいです。

 

翌日には結果の出る私立高校の合格発表を娘がネットで1人で確認し、受かったとのこと。併願だし多分受かると思っていたが、私もホッとした。

 

12日(日)

娘、私立に合格して息つく暇もなく、この日は都立の受験直前勉強会12時間耐久レース。かわいそうだが仕方がないだろう。

 

13日(月)

今朝も息子が絶好調に学校に行きたくないと言うが、いつもの理由に上乗せがあり、「だってどうせ俺、チョコレートもらえないんだよ! わかる!? この気持ちが! 世界はⅯやY(ⅯやYも男子クラスメイト)で回ってるんだからね!」と目ん玉ひんむいて、口泡を飛ばしてまくし立てる。どこまで本気なのかと思ってしまうが、ヤツなりに本気なのだ。

 

「パパなんか19歳になって彼女ができてから初めてもらったぞ。お前もそのタイプだ」となだめると、「僕は絶対に一生もらえない!」と言う。

 

これも自己肯定感の低さの一つなのかもしれないと思うと切なくなってしまう。だが、さすがにメインがその理由で学校を休ませるわけにはいかない。「お前はかわいい! 絶対に高校以降でかわいいを売りにモテるから!」というと「僕はかわいいって言われるのは嫌なんだよ!」と言うので、「女の人は最終的にかわいい男の人を好きになるんだよ!」となんだかもうアップデートまったくできてないようなことを言うと、「もらえなかったらパパのせいだからね!」とよくわからないことを言いつつ学校に行った。

 

それにしても妻も私も一日のうちでもっとも疲れるのが、朝、息子を学校に送り出す時間だ。行きたくないがベースにあるので、なんとか気持ちを前向きに持って行くために、いろんな手を使うが、そこで疲れてしまうのだ。挙句、行かないとなると、こちらの気持ちもへこみ、仕事に支障も出るが、ちょくちょく休むことにはもう慣れた。3年生のころの不登校に比べたらまだマシだと思うからだが、こういう慣れって良いのか悪いのかよくわからない。良し悪しだけの話でもないだろうが。

 

14日(火)

バレンタイン本番の本日、なぜか息子は朝起きると、「言っとくけど絶対にもらえないからね! これだけはわかってよ!」とよくわからない宣言をしはじめる。

 

妻が「ママがとびきり美味しいケーキを作ってるから楽しみに帰っておいで!」と言うと、「僕が甘いの嫌いなの知ってるでしょ!」と言いながら、いつもより何倍もスムーズに学校に行った。

 

息子は心のどこかに「……もしかしたら貰えるかも?」という気持ちがあるのだろうなと思った。となると、これは落ち込んで帰宅するのは決まった。息子は良い言葉で言えばピュア、悪い言葉で言えばバカなところがあり、チョコを貰える貰えないで本気で喜んだり落ち込んだりするのだ。

 

息子は姉のことが大好きだから(というか姉が一番怖いし認められたい)、姉である娘が「ほらよ」とチョコの一つでもやれば「いいの!? 僕にくれるの!?」と目を爛々と輝かせる姿は容易に浮かぶのだが、娘は絶対にそういうことをしてくれない。

 

案の定、息子は意気消沈で帰宅。妻が「ママが焼いたチョコケーキ美味しいよ!」と出したが食べない。「Yはもらっていた!」だの「ほんとはチョコを学校に持って来ちゃダメなんだよ!」などとグズグズ言うのみ。せっかく作ったものを食べてもらえない妻は、これも大人げないと私は思うのだが本気で怒る。「だからお前、もらえないんだよ」と子どものケンカのような言葉を息子に言うので、これはヤバいと思い「俺が食べるからいいじゃん!」と妻に言うと、「お前は食うな」と言いながら部屋から出て行った。

 

「ね、僕、やっぱりもらえなかったでしょ! でしょ! なんでパパはウソをつくの!?」と別にウソなんかついていないのに息子はしつこい。いつまで続くんだとそろそろイライラしてきたところに娘が帰宅し、中学のバレンタイン事情を話しはじめ、息子が興味津々で聞いているので、私が「中学になったらもらえるぞ」と再度言うと、「いや、無理だな」と娘が冷たく言い捨てた。「ほら、やっぱり僕なんか無理だよ!」とまた息子がギャンギャン半泣きでまくしたてはじめ、ついつい私は「うるさい、もう黙れ!!!」と怒鳴ってしまい、結局はいつもの光景に……。

 

15日(水)

連続ドラマのプレゼンのために海外の方に会う。妻と一緒に行く。私は確信をもってやりたい2本の企画しか出したくないと言ったのだが、妻が4本出せと言うので無理矢理4本出した。が、やはりどうにも頭の中でかたまっていないものについては熱を持って話せない。で、イライラしてしまって、「これはこの人がやりたい企画なので」と途中で妻に振ってしまった。先方は苦笑していた。プレゼンとしては多分最悪の形なのだろうなと思った。

 

16日(木)

疲れがたまり風邪気味。トマトと豚肉とショウガがたっぷり入った落合鍋をしこたま食べ、早く眠る。娘の受験が間近なのでうつしでもしたらきっと一生恨まれる。

 

17日(金)

落合鍋がガン効きして体調がずいぶん回復した。が、仕事をするような体調ではなかったのでインプットDAYとして。『ベネデッタ』(監督:ポール・バーホーベン)『シャドウ・プレイ完全版』(監督:ロウ・イエ)『別れる決心』(監督:パク・チャヌク)をハシゴ。今年から高校教師の日のランチがなくなったので、1か月に1回、ご褒美食事会をしようと妻と決めていて、練馬にある「あわび亭」に行く。めちゃくちゃ美味しかったが、まだなにも見えぬ将来のことで(互いの老両親の介護問題、息子の中学校選び、息子が満員電車に乗れないためそれに伴う引っ越し、2拠点生活の可能性など)激しい口論……と言うのか妻が一方的に怒り狂いだし、最悪のディナーとなる。お店の方も若干引き気味だった。

 

すっごく軽く、すっごく簡単に、9割9分私に任せた! のような発言をしたので、さすがの私も怒髪天でした。なんでそんなに人任せの思考回路なのか……。料理の味、一切覚えてません(by妻)

 

18日(土)

朝8時から夜の7時までぶっ通しで仕事をした。誰も褒めてくれないから自分で自分を褒めて、行く予定のない風俗店のサイトをご褒美代わりに見て回った。

 

21時から初めてのclubhouse参戦。『嘘八百』シリーズをご一緒している脚本家の今井雅子さんがルームを開いてくださった。『雑魚どもよ、大志を抱け!』の原作小説『弱虫日記』を、大阪在住のナレーターでありラジオのパーソナリティであり、私の映画にも『14の夜』と今回の『雑魚ども~』に声で出演してくださっている藤本幸利さんが朗読してくれた。自作が朗読されるとうのは、まるで脚本の本読みのときのように欠点が次々に露わになるようで、聞いていて発狂しそうになりつつも、藤本さんの優しいお声にいつしか聞き入っていた。隣で息子が嬉しそうに聞きながら、本をめくっていた。

『雑魚~』を読んでいる息子

 

19日(日)

朝8時から15時まで仕事。その後、三遊亭遊喜師匠がトリをつとめる池袋演芸場に久しぶりに落語を聞きに行く。遊喜師匠とは同い年で、出会ったのはまだ20代のころだ。そのころ、私は落語映画の企画に関わっていて、監督さんの命を受けとある落語会の取材に行った。その打ち上げで二つ目だった遊喜師匠と出会い、打ち上げ後に朝まで飲んだ。その映画は実現しなかったが、そこからちょくちょくと遊喜さんの勉強会なども観に行くようになり、遊喜さんが師匠になったとき、つまり真打昇進披露も池袋演芸場に観に行った。当時私はどん底だったから真打になった遊喜さんの姿に励まされたりもした(これが同業者なら苦しいところなのだが)。

 

この日は「居残り佐平次」をたっぷりと堪能して、久しぶりに飲みに行き楽しい夜だった。

 

21日(火)

朝、娘を都立高校の受験会場まで送る。緊張しているのだろうが、私立のときと同様にピリピリしている。「落ちてもいいじゃん、私立に受かってんだから」と言うと、「落ちる」という言葉に反応してさらにピリピリモードへ。「ホントに落ちたら全部パパのせいだからっっっ」と怒り狂ってる。しかし、娘は変な受験の仕方というのか、滑り止めで受けた私立のほうが、本命の都立よりも偏差値は高い。なので私はこの都立に落ちるわけがないと思っているのだ。

 

結局、それから一言も話さず校門まで送り届けて帰って仕事をしたが、なんだかモヤモヤというのか、いやモヤモヤではないな、はっきりとイライラして(なんであんな言われ方をされなければならないのか)、あまり仕事も手につかなかった。それに私はまったく関係ないがどうもこの「モヤモヤ」という表現が苦手だ。「おかしいと思う」とはっきり言ってもいいのではないか? どうも「モヤモヤ」には、するほうも若干の逃げのようなものを感じる。一億総モヤモヤ状態もそう遠くはないだろう。昔『ぬくぬく』という妖怪の絵本があり、妖怪ぬくぬくはずーっと「ぬくぬくぬくぬくぬくぬくぬく」と言いながら歩き続けているのだが、日本人はそのうち「モヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤモヤ」と言いながら歩き続けるかもしれない。言いたいことはモヤモヤさせずに言いたい。

 

受験から戻って来た娘は理科と国語が相当な高得点が期待できるとすこぶるご機嫌だった。「だから不安がるなって言っただろ」とは言わなかった。

 

22日(水)

午前中、いつもの喫茶店で仕事。今日から妻と息子は保育園時代の友人3組とキャンプに行く。学校を休めるので息子もすこぶるご機嫌だ。

 

それにしてもウチの息子はめちゃくちゃかわいいのだが、かわいいだけで将来お金をもらえないだろうかと思う。こいつはとにかく一緒にいると親以外の大人をなごませる。鬱々とされている方がいたら、一度息子を一日貸し出してもいい。親バカで申し訳ないが、とても癒されると思う。

 

午後、活弁シネマ倶楽部の収録で『雑魚どもよ、大志を抱け!』について映画評論家の森直人さんとお話した。こちらは映画の公開にあわせてYouTubeにあがると思いますので映画とあわせて見ていただけたらとても嬉しいです。

 

夜、娘と2人で近所のイタリアンに飯を食い行った。妻と一緒だと大っぴらに注文できないので、今日は普段は食わないようなものも注文すると、娘は「おいしい! おいしい!」とものすごい量を食べた。受験も終わり解放感もあるのだろう。そして私は「3年後には大学受験だぞ」と我ながら最高につまらない一言を言った。

 

25日(土)

朝8時から15時までいつもの喫茶店にて仕事。いつも書いていなかったが、私は毎日ホットココアの生クリーム入りを飲んでいる。

 

夕方、私が脚本を書いたり監督したりした映画の音楽を何本も担当してくださっている海田庄吾さんのお宅にお邪魔する。もちろん今回の『雑魚どもよ、大志を抱け!』の音楽も海田さんだ。

 

一足先に妻、娘、息子が行っており、盛り上がっていた。海田さんとは年も同じで観て来た映画も似ているからお話していても楽しい。でも、「足立さんはケッコー頑固ですよ」と言われたのは意外だった。私は基本的には相手がワルツでくればワルツ、ジルバでくればジルバを踊っているつもりだったが、そう言えば私は日本舞踊しかできないから誰がどんなダンスできても日本舞踊で押し通しているのかもしれない。

 

音楽に明るくない私はいつも海田さんには、的確な説明ができないが、あがってくる音楽を聞かせていただくと、ワクワクする。今日は色々と励ましてもいただいた。

 

海田さんの奥様が作られたお手製のハムがめちゃくちゃ美味しくてほとんど私と息子とで食べてしまった。ついつい遅い時間までお邪魔してしまい、妻はワインをがぶ飲み。醜態がチラつきはじめたところでお暇した。

 

帰りの電車で妻は大口をあけて爆睡、息子はずっとゲームの話、娘は色々と将来の不安を吐露していた。私は海田さんに愚痴っていた仕事のやり方、進め方などについてクヨクヨと思いを巡らしながら、娘と息子に心ない相槌を打っていた。

 

26日(日)

妹家族の家に行く。毎年正月に行くのだが、妹の娘、つまり私の姪っ子も高校受験だったので今年は行かなかった。

 

行くといつもUNO! やらトランプやら人狼やらのカードゲームをする。負けることが極端に嫌でゲームのやり方なども覚えられない息子はその輪に入らずに一人でテレビゲームをしているのが常だったのだが、今回、人狼は入った。これは大きな成長だなと嬉しかった。

 

素直でちょっとお花畑な息子は人狼カードが来ると、思いっきり「俺、人狼じゃないよ! 人狼じゃないよ!」と大声で言うからなかなかゲームとしては成立しないが、それでも最後は一度だけ騙しとおした。そのときの誇らしそうな顔が嬉しくもあり切なくもあり。でも、ひたすらにかわいい。

 

27日(月)

夕方から我が家で打合せ。大量の韓国料理の差し入れを頂き、控えていた炭水化物が決壊した。すべてを無駄にするどころか、ダイエットは始めたとき以上の体重に今日一日でリバウンド確定。が、美味くて食うのを止められない。キンパ・トンソク・ジョン(タラや牛肉に卵を絡めて焼く)その他韓国総菜祭り。ひたすらに貪り食うと、私の場合はどんどん力が漲って来るのだが……やはり50歳からのダイエットは並々ならぬ意志力が必要だ。

 

毎日ジムに通っている妻も「まったく落ちない!」と嘆いているが、ジムから戻るなり駆けつけ焼酎ガブガブやってりゃ、そりゃ落ちねーだろ。「2人で頑張って落とそう! アキは35キロ痩せたらキレイになるよ!」ととても良くない言い方をしてしまったが、健康のために互いに痩せたほうがいいのは確かだ。

 

我ながらひどい顔……。それにしてもこの打合わせ? 差入れ、全てが美味しく、皆様よく食べ、よく飲みました。35キロ減は難しいけど、35キロ増ならできる気がします…(by妻)

 

 

【妻の1枚】

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【プロフィール】

足立 紳(あだち・しん)

1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作「百円の恋」が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品「佐知とマユ」(第4回「市川森一脚本賞」受賞)「嘘八百」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「こどもしょくどう」など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が東京国際映画祭最優秀脚本賞。現在、最新作『雑魚どもよ、大志を抱け!』は2023年3月24日に公開。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『したいとか、したくないとかの話じゃない』(双葉社・刊)。