大人のためのエンタテインメントゲーム作品として不動の地位を確立している『龍が如く』シリーズ。そのなかでも幕末を舞台にしたスピンオフの人気作『龍が如く 維新!』(2014)が、9年ぶりに現行機向けにリメイクされ、『龍が如く 維新! 極』として蘇りました。「維新の英雄である坂本龍馬が、幕末最強の剣客集団・新選組に入隊していたら?」というIFを描いた物語。「Unreal Engine」で表現されたグラフィックは美麗のひと言。爽快感の増したバトルシステム、物語をより深くする新規サブストーリーなども加わっています。
今回はこの『龍が如く 維新! 極』を歴史小説家の谷津矢車さんにプレイしてもらい、その魅力を語っていただきました。
※ゲーム内容のネタバレも含まれますのでご注意ください。
■谷津矢車(やつ・やぐるま)
1986年東京都生まれ。2013年『洛中洛外画狂伝 狩野永徳』(徳間時代小説文庫)でデビュー。2018年『おもちゃ絵芳藤』(文春文庫)にて歴史時代作家クラブ賞作品賞受賞。幕末を舞台にした作品としては、晩年の土方歳三を主人公に箱館戦争を描いた『北斗の邦へ翔べ』(角川春樹事務所)や、関西・東海で起きた「ええじゃないか」騒動を描いた『ええじゃないか』(中央公論新社)がある。
龍が如く維新! 極
生まれ変わった『龍が如く 維新! 極』
まずは『龍が如く 維新! 極』をプレイしてみての率直な感想はいかがでしょう?
谷津「最近は少しゲームから離れていたんですが、直感的にプレイできますし、武器の切り替えも面白くて気が付けば没頭してました。小説との違いで言うなら、サブストーリーの存在が非常に大きくて、シリアスなメインストーリーに比べて思わず笑ってしまうサブストーリーが多く、やればやるほど『龍が如く 維新! 極』が描く幕末に愛着が湧いてきました」
歴史小説家も感心したストーリーの工夫とは?
『龍が如く 維新!』『龍が如く 維新! 極』で特に高く評価されているポイントがシナリオです。史実と離れた大胆なアレンジにより、歴史エンタメとしてプレイヤーをワクワクさせてくれます。谷津さんは「坂本龍馬が斎藤一を名乗り、新選組に入隊していた」という主人公の設定にいたく感心したとか。
谷津「坂本龍馬と斎藤一が同一人物という点が、この作品を体現してるんじゃないかな。幕末は幕府側と倒幕側の勢力が入り乱れて、わかりづらい時代。坂本龍馬を主人公にしたところで幕府側の動きは見えない。でも、坂本龍馬を斎藤一と同一人物という設定にすることで、両方の陣営が描けるという構図を作ったのがすごい工夫だなと思いました。センス・オブ・ワンダーと言ってもいいでしょうね。これはゲームだからこそできるし、『龍が如く』という信頼あるブランドだからできる遊びだと思いました」
オープニングムービーでミステリアスに示される「坂本龍馬がもう1人の龍馬に殺される、龍馬が実は2人いた!?」という設定も衝撃的です。
谷津「途中で、主人公ではない2人目の坂本龍馬がどういう経緯で現れたのかが判明していくわけですが、これも面白い設定ですよね。それに、勝麟太郎の使い方も良かった。勝麟太郎は史実ベースで見ても底が読めない人物じゃないですか。西郷吉之助との会話シーンで勝麟太郎が醸し出す不穏さ。幕府を中から壊すって言ってるのも、勝麟太郎っぽさが出ていました。本作に合わせてしっかりチューニングされている感じがありますね」
ほかにも作中の事件としては、芹沢鴨暗殺の描かれ方が印象に残ったという谷津さん。
谷津「芹沢暗殺が新選組の中でタブーになっているというのが永倉新八の口から語られるわけですが、その永倉新八が実は……みたいな話の作り方が上手いですよね。主人公が2つの名前を持っているということは他の人物だって……という伏線でもあったわけです」
予想を超えるキャスティングの妙!
本作は主人公の桐生一馬を始め、『龍が如く』シリーズでおなじみのキャラクターが歴史上の人物を演じるという形式です。手塚治虫作品などに見られる「スターシステム」というスタイルに近いでしょう。すでに固まっている幕末の英雄像を、個性的な『龍が如く』キャラがいい意味で塗り替えているのです。
たとえば、シリーズ名物キャラの真島吾朗が演じるのは新選組の天才剣士・沖田総司。美少年として有名な沖田総司が眼帯をつけているおっさんに!?
谷津「『はじめちゃ~ん』っていうのが耳に残って仕方がないですね(笑)。真島の喰えない感じがいいんですよ。あんな沖田は唯一無二でしょう。沖田総司でここまで振り切れるというのは本当にすごい。しかもその違和感すらも最終的に伏線に繋がるわけですから、素晴らしいですね。スターシステムの利点や威力を制作者側がわかっていて、その上で史実とくっつけて遊んでいるわけですから」
もうひとり、人情味あふれる関西弁の任侠・冴島大河をモデルとした永倉新八も谷津さんのお気に入りだとか。
谷津「史実の永倉新八って松前藩の江戸屋敷出身なので、多分江戸っ子なんですよ。ですが、意外に関西弁がハマるんだなっていう発見がありました」
ほかにも、「軽いキャラでありながら懐も深い、大人物として描かれている」桂小五郎、「すごく虚無的な人物で、もしかすると史実でもああだったんじゃないかという気がする」藤堂平助、「ねちっこい感じがよく出ている」武田観柳斎など、絶妙にアレンジされた人物が多かったとのこと。
ここにも注目! 幕末を再現するディティール!
シナリオ、キャラクター以外にもさまざまな部分でディティールにこだわり、幕末ならではの空気感を作り出している『龍が如く 維新! 極』。歴史小説家・谷津さんの目に留まったのは刀の所作でした。
谷津「まずは納刀する仕草に、ものすごくこだわりを感じました。また、刀を抜く前に鍔をカチャッと指で押し上げる、いわゆる“鯉口を切る”動きもこだわっているなと。刀でいうと、座っている時に刀を置く位置もきちんと考えられていて、沖田と武田観柳斎と平隊士2人が麻雀をするシーンがあるんですが、沖田と武田がそれぞれ自分の右側に刀を置いてるんですよ。一般的に刀は左から抜くものなので、右側に置くってことは即座には抜けないことを意味し、武士の礼儀なんです。そうした細かい描写も手を抜いていなくて、信頼が持てます」
『龍が如く』シリーズの真骨頂である街の表現も、宿場町や中心街、色街まで当時の京の街がリアリティをもって再現されています。
谷津「風呂屋は当時の資料を参考にされたのか、デフォルメはあるんですが、基本的に江戸時代そのまんまです。男女混浴ですし、くぐって入る感じの浴室で、脱衣所も男女がほぼ一緒になっている。そこで真っ裸で殴り合うシーンがあって、あれも含めてよかったです(笑)」
また、今回採用された高性能なグラフィック機能を誇るゲームエンジン「Unreal Engine」による光の表現も見どころ。
谷津「壬生の新選組屯所でも明らかですけど、日本家屋って割と暗いんですよ。暗いが故に、中庭などを造って光を採っている。でも、部屋の中に入ると昼間でもなんとなく薄暗いという感じがよく再現されていました」
歴史ファンもそうじゃない人も楽しめるエンタメ作!
それでは最後にまとめとして、改めて谷津さんに『龍が如く 維新! 極』の魅力を伺いました。
谷津「この作品はいい意味で歴史に対して自由なんですよ。ダイナミックに歴史を扱っていて大嘘もついているのに、細かな部分での考証は外さない。だから、歴史を知っている人でも、知らない人でも安心して楽しめる。もし史実を知りたければ、今回追加されたアーネスト・サトウのサブシナリオでかなり解説されています。エンタメに徹しながらも、史実への道筋を残しているという各方面に対して気を配った作品ですね」
歴史に詳しくない人でも、主人公たちの熱いドラマとして堪能できると谷津さん。
谷津「尊王攘夷や佐幕という価値観は存在しますが、むしろ男同士の約束であったり、自分の矜持であったりを行動理念に動いてる人物が多いんですね。だから我々のような働いている世代にとっては、自分と重ね合わせることができる。自分が信じるもの、信じる人々と一緒に戦う。月並みな表現ですが、男のヒロイズムが熱いんです」
もちろん歴史好きであれば、史実とは異なるIFをより一層楽しめるのが『龍が如く 維新! 極』のいいところ。
谷津「歴史・時代小説読みにとってはこの作品のシナリオは伝奇小説なんですね。伝奇って歴史を知っている人間なら、『あ、この歴史的事実をこう扱うのね』というパズル的な面白さがある。そういう意味で、骨法正しい伝奇歴史小説であり、歴史好きには美味しい作品です。伝奇歴史小説って今ツッコミが怖くて書きづらいジャンルですが、たとえばゲームの分野では成功している作品がいくつかあります。本作も伝奇歴史小説の文脈で読むと、間違いなく大好物です」
歴史小説家も唸らせる大胆なシナリオと史料をもとにしたディティールへのこだわり。『龍が如く 維新! 極』はもうひとつの幕末への入り口なのです。
『龍が如く 維新! 極』をさらに楽しむための“幕末”を舞台にした作品3選!
このコラムでは、谷津さんに『龍が如く 維新! 極』をさらに楽しむための「幕末を舞台にした作品」を3作挙げていただきました。小説ではなく「今回はマンガ縛りにしました」と谷津さん。マンガとゲームで幕末を思う存分満喫しましょう!
『お~い! 竜馬』原作・武田鉄矢、作画・小山ゆう、小学館ヤングサンデーコミックス(全23巻)
「本作の元ネタの1つではないか、と僕は勝手に思っています。特に土佐藩における上級武士“上士”と下級武士“下士”の対立をかなり重く描いていて、司馬遼太郎ももちろんその対立を扱っているんですが、それを一番どぎつく描いたのが『お~い! 竜馬』ではないかと。その対立ゆえに坂本龍馬が革命運動に邁進していくという構図を描いた先駆が『お~い! 竜馬』だと思います」(谷津)
『風光る』渡辺多恵子、小学館フラワーコミックス(全45巻)
「『龍が如く』シリーズのファン層を考えると、多分読まれていない方が圧倒的に多いんじゃないかと思いますが、新選組マンガのなかでは1番まとまっています。1人の少女が新選組に入隊するという大きなフィクションから始まり、戦う集団に少女が加わることの難儀さを丁寧に描いています。沖田総司と斎藤一の恋の鞘当てといった少女マンガのお約束を踏まえつつ、史実をしっかり捉えているという意味では、新選組を知る入り口としては最適ですね。実は妹が買い集めていて、それを盗み見ては『やべえ、超おもしれー』って言いながら読んでました(笑)」(谷津)
『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―』和月伸宏、集英社ジャンプコミックス(本編全28巻)
「『るろうに剣心』も斎藤一が重要な人物として出てきます。今ちょうど続編の『北海道編』も連載中ですし、ぜひオススメしたいですね。僕は、作者の和月先生がコラムに書いておられたのを参考に司馬遼太郎の『燃えよ剣』を読んで、あとは映画作品であったり、マンガ作品であったりを手に取っていきました。『るろうに剣心』をきっかけに幕末を知ってこの道に入ったので、いわば僕の原点みたいなものです」(谷津)
龍が如く維新! 極
■ストーリー
かつて“侍”が統治した日本が、激動の時代を迎えた、幕末。帝を中心とした国家を築こうとする大勢の志士たちが“倒幕”や海外勢力を退ける“攘夷”という理想を掲げ、京に集まる中、世の中を変えるためでもなく、ただ復讐のためだけに生きる一人の男がいた。「坂本龍馬」。恩師の仇をとるべく、素性を隠し、京の街に潜伏する彼が行きついた先は、壬生狼と恐れられる最強の人斬り集団「新選組」だった。龍馬は己の名を捨て「斎藤一」という偽りの名で、死と隣り合わせの潜入を決意する。時代を駆け抜けた英雄・坂本龍馬、もう一つの伝説が今始まる。
■対応機種
PlayStation®5 / PlayStation®4 / Xbox Series X|S / Xbox One / Windows / PC(Steam)
※Xbox Series X|S / Xbox One / Windows / PC(Steam)はデジタル版のスタンダードエディション・デジタルデラックスエディションの販売のみ。
■希望小売価格
【スタンダードエディション】6990円(税込7689円)
【デジタルデラックスエディション】7990円(税込8789円)※デジタル版のみ