コロナ禍のおうち時間に少しでも潤いをもたらそうと、観葉植物や花を生活に取り入れた人も多かったのではないだろうか。しかし、適切に世話ができずに枯らしてしまい、潤いどころかカラカラの姿に……という話も耳にする。ウェザーニュース社のアンケートでは「観葉植物を枯らしてしまった経験」が「ある」と答えた人が72%にものぼるという調査結果が出ていた。
確かに一度枯らしてしまうと、再び植物のある生活に戻ろうという気力は湧いてこないかもしれない。でも、そんな苦い経験をはねのける“リベンジ観葉植物”ともいえるサービスが勢いを伸ばしている。それが、土を使わず手入れが簡単で、しかも自宅ポストに観葉植物が届く「&Green(アンドグリーン)」だ。
&Greenはサントリーフラワーズが運営する、観葉植物をECサイトで気軽に買えるブランド。同社によれば、この2023年3月は前年比約3倍の売上を達成し、ユーザーの8~9割が新規だったという。ブランドローンチ2年目とはいえ前年比300%はかなり勢いがある。なぜここまでの数字が叩き出せているのか。&Greenのブランドマネージャー・尾山 翠さんに話を伺った。
特需は終わったが、今後も拡大は続く
最初に、コロナ禍は観葉植物市場にどのような変化をもたらしたのだろうか?
尾山「コロナ禍で家の中の楽しみを開拓される方が増えて、それに伴い観葉植物の需要が拡大しました。ですが、そろそろみなさん外に出始めているので、そうした特需自体は落ち着きつつあります。実はコロナ禍では世界的に観葉植物ブームに近いものが起きて、苗を取り合っていた状況でした。特に海外から仕入れている品種は入手が難しかったですね」
では、ウィズコロナの時代に入り、観葉植物の需要はしぼんでしまうのか……というと、そうではないと尾山さんは言う。
尾山「市場としては落ち着いていますが、最近は“ウェルビーイング”というワードが浸透してきたように、精神的にも健康になりたいという想いが社会的に高まっているのを感じます。そうした流れと観葉植物との相性は非常に良いはず。癒されるのはもちろん、植物を育てる習慣を取り入れることで生活リズムが整うといった声をユーザーの方から伺うことがあります。ですので、市場は縮小せずに、今後さらに広がっていくものと考えています」
スポンジ状の素材「パフカル」が水やりの難しさを解消!
記事冒頭で「リベンジ観葉植物」というキーワードを挙げたが、実際にコロナ禍で観葉植物を枯らしてしまった声が&Greenにも届いているそうだ。
尾山「インスタグラムで弊社の観葉植物を投稿されている方から、『昔枯らしちゃったことがあって』という声はちょこちょこあがっていますね。水が多すぎてもダメ、少なすぎてもダメ、そのバランスが土だとわかりづらい。&Greenでは、土ではなく『パフカル』という素材を使っていて、水やりの難しさを解消した商品となっています」
サントリーが開発したスポンジ状の素材「パフカル」は、土の代わりとなり、水だけで簡単に植物の生育を楽しめる。外出が増えてきているこのタイミングで、世話の手間がそこまでかからないのは大きなメリットだろう。
尾山「植物にとって必要な水と空気のバランスを保持できる素材になっているので、容器に入れ、水を注ぐだけで育てられます。パフカルのほうが根が張りやすく、土よりも生育がいいんですよ。容器に水がなくなってもパフカルが湿っていれば大丈夫なので、こまめな水やりも気にしなくて平気です」
マーケティング主体の新規ユーザー開拓ではなく、技術に裏打ちされた商品なのが&Greenの観葉植物の強みといえるだろう。
家のポストに観葉植物が届くという驚き
もうひとつ、&Greenの強みになっているのが自宅ポストに商品が届く点(※)だ。ゆうパケットを利用した郵送を実現している。
※:植物Setのみで注文の場合(Custom Set、Original Setなど)
尾山「ブランド立ち上げ当初からその点は売りにしていました。類似のビジネスとしてポストで届く花のサブスクはありますが、観葉植物で根が張ったものをポストインするサービスはなかったので、新規性も特徴の1つとしてお届けしたいというのがありました。今は宅配商品も扱ってはいますが、ブランド立ち上げ時はポストインだけでやっていました。ユーザーさんの反響としては、ポストインのインパクトがもっとも大きいですね」
観葉植物という古くからある商品を、新技術とコンセプト、配送方法で“新しいもの”として位置づける。他には、ユーザーからどのような声が届いているのだろうか?
尾山「やはり、管理の簡単さには大変好評を頂いています。土のようにバラバラこぼれたり、手が汚れたりしないので清潔に楽しめるのが特徴です。小さいお子さんやペットのいるご家庭からも、『これだったらうちにも置けるわ』という声を頂いています。あとは気分によって好みの場所に置けたり、異なる3品種の組み合わせを楽しめたりといったアレンジ性も評価されています」
&Greenでは現在、15種類前後の観葉植物をラインナップしているそうだ。
尾山「商品自体が3品種選べるセットになっているので、いろいろなタイプの植物をラインナップできるように意識しています。人気の品種はミューレンベキアやトラデスカンチア、アジアンタムですね。小ぶりの葉がついたタイプが人気で、お客様がほぼ女性ということもあり、形の可愛さが人気の理由なのかなと思っています」
&Greenの差別化の説明が先になってしまったが、ブランドスタートの経緯やユーザー層にも触れておきたい。同ブランドがローンチしたのは2021年の10月。どのようなきっかけでビジネスに挑戦したのだろうか?
尾山「弊社はサントリーフラワーズという社名の通り、花の苗や野菜の苗をメインに扱っています。コアユーザーは郊外に住んでいる方で、広いお庭やベランダがあり、年齢層も50代以上が中心です。これを、都市部やさらに幅広い年齢層の方にも届けたい。パフカルを使えばこれまで植物に触れてこなかった人でも簡単に観葉植物を始められるのでは? これが&Greenというブランドを立ち上げた経緯になります」
&Greenのユーザーは30~40代がコア層で、都市部のユーザーが多く、特に東京は人口比率の2倍程度となっているという。当初の狙い通り、都市部に住む、より若い層にリーチした格好だ。
今後の展開は?
観葉植物のある生活を手軽に提供する&Green。今後の展開はどのように考えているのか?
尾山「ECサイト内に『Find My Green』という、性格診断によってオススメの植物がわかるコンテンツを用意しています。観葉植物への一歩をライトに入ってもらい、自分に合った植物を見つけて、自分らしい楽しみ方をしてもらう。これが&Greenのセットの価値だと思います。『これならできる!』と思って&Greenから観葉植物をスタートして、その後『本格的に土にも手を染めました』といった方もいらっしゃいます(笑)。
今後の展開としては、もっと大きいタイプの植物だったり、多肉植物だったり、花を咲かせるものだったり、植物の種類は無限にあるので、パフカルでどこまでできるのかを検討しているところです」
まとめ
「観葉植物は難しい」と思いがちだが、それは土という素材が扱いにくかっただけかもしれない。利便性、清潔さ、メンテナンス性……パフカルという素材がもたらしてくれるメリットは大きい。自宅のポストに観葉植物が届くという意外性も、それだけで生活に潤いをもたらしてくれる。
コロナ禍で緑のある暮らしが、生活に潤いを与えてくれることを実感した人も多いだろう。 “リベンジ観葉植物”だけでなく、“はじめての観葉植物”にもピッタリな&Green。今後のトレンドとなっていく可能性を秘めたブランドだ。
まとめ/柚木 安津 撮影/中田 悟