こんにちは、書評家の卯月 鮎です。私はかなりのくせ毛で、セットしてもセットしてもすぐに鳥の巣状態。雨の日はまるでアフロかと思うほどです(笑)。
でも、今回紹介する新書を読んで「鳥の巣状態なんて鳥に失礼だな」という気がしてきました。大して手入れもしないでボサボサの私と比べて、鳥は世代をつなぐために一生懸命巣をつくり、その形には自然の造形美が宿るのです。“鳥の巣”ではない、別の表現を考えたいところですね。
鳥の巣研究家がその造形美を紹介!
『身近な鳥のすごい巣』(鈴木まもる・著/イースト新書Q)の著者は、画家、絵本作家、鳥の巣研究家の鈴木 まもるさん。山の中で偶然、空の鳥の巣を見つけ、その造形に魅かれて収集・研究を始めたそうです。『世界の鳥の巣の本』(岩崎書店)、『日本の鳥の巣図鑑 全259』『ぼくの鳥の巣絵日記』(偕成社)など鳥の巣関連の著作多数。各地で鳥の巣展覧会と絵本原画展も開催しています。
意外と知らないスズメの巣
まず、第1章「鳥の巣とはなにか?」では、なぜ鳥が巣をつくるようになったのかが紹介されています。
実は鳥が巣をつくるのはなんと恐竜時代の名残り(!)とのこと。1億数千万年前、小型恐竜は卵を産むとき転がっていかないように少し地面をひっかいてくぼみをつくったそうです。やがて小型恐竜は大きな恐竜が来ないよう茂みや樹上に卵を生むようになり、さらにそうした種が飛べるようになり、「鳥」となった……という流れだとか。巣のルーツが恐竜時代にあったとは驚きですね!
第2章以降は、人間の家、木の上、穴の中など巣がある場所ごとに章が分けられています。「そういえば見たことないな……」と私が思ったのがスズメの巣。スズメ自体は身近ですが、その巣はどこにあって、どんな形をしているのか、意識したことがありませんでした。
スズメの巣があるのは屋根瓦のすきまやひさしの下など人間が立てた家の周辺で、枯れ草や紙などを集めた巣は、いわゆるお椀型はしておらず、その空間により形が異なるそうです。著者の鈴木さんは水抜きパイプのなかに平たいお皿状のスズメの巣を見つけたこともあるとか。
しかし、最近では密閉性が高い家が増えて隙間がなくなってきているため、スズメが巣をつくる場所も減ってきているそうです。自然から切り離された家は人間には住みやすくても、鳥にとっては困りものといった感じでしょうか。
枝の二股部分にクモの糸でまとめる半球型のメジロの巣、水木しげる先生も魅せられたという美しい洋ナシ型のエナガの巣、大きなクチバシで土手に体当たりしてつくるカワセミの巣……。まさに「すごい巣」が満載。絵本作家でもある鈴木さんの鳥と巣のイラストもフルカラーで目に飛び込んできて、ほんのりコミカルなテイストもあって見ていて飽きません。
なんといっても、鳥ではなく“巣”に着目しているのが本書の素晴らしさ。何気なく生活していたら見過ごしてしまうマニアックなものに愛情を注ぐ専門家が、その知識を惜しげもなく披露している空間は、温かく知的な幸福感に満ちています。
多様な環境に適応して、個性的な巣をつくる鳥。鳥の巣から私たちが学べることはいろいろありそうです。
【書籍紹介】
身近な鳥のすごい巣
著:鈴木 まもる
発行:イースト・プレス
「巣づくりは誰にも教わることのない鳥の本能」「同じ巣は1つもない」「恐竜の進化の過程が鳥の巣からわかる?」。鳥たちの巣には、驚くべき生態の神秘と不思議が詰まっている。36種の鳥を豊富なイラストとともに鳥の巣の研究第一人者であり絵本作家でもある著者がユーモラスに解説した一冊。
【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。