家電とオカルト。それぞれのフィールドのトップランナー二人が顔を合わせる異色対談も今回で8回目を迎えた。いつも通り、主役の一人は2002年に『TVチャンピオン』のスーパー家電通選手権で優勝し、実践的な方法で家電に関する最新情報を発信し続けている中村剛さん。
15万人以上のフォロワーを誇る「くらしのラボ」(東京電力エナジーパートナー株式会社主宰)の監修&出演を務め、YouTubeチャンネルに340本以上の動画をアップし、GetNavi webでも数回にわたって登場していただいている。
対談の相手は、日本のポップカルチャー界をけん引する月刊誌『ムー』の5代目編集長で別名“オカルト王”の三上丈晴氏。最近は国内外のテレビ番組やYouTubeチャンネルでもすっかりお馴染みになった。
今回はパート1がスペイン魔術師・フィリピン祈祷師の孫娘で魔女占い師の叶ここさんを加え、「風水」について語っていただく鼎談、パート2が「付喪神(つくもがみ)」をテーマにした家電王vsオカルト王の対談、という2部構成でお届けする。この風水編、結論から言うと、風水という誰もが聞いたことがある言葉を入り口に、家電とオカルトが絶妙に混じり合う、本コラボにふさわしい内容になった。
【家電王×オカルト王×魔女占い師が「金縛り」について語る動画は↓から】
風水を語るには、山を見よ、川を見よ
——今回の鼎談のテーマは「風水」です。叶さんを含めてディープな話をお伺いしていきたいのですが、まずは風水という言葉について。認知度は高いと思いますが、前提となる基本的な知識をまず叶さんにご説明して頂きたいです。
叶 はい。まず基本的に、日本における風水はいわゆる「インテリア風水」と言われています。風水と聞いてお部屋の間取りを思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。どこに何を置くかということですね。でも、伝統的な本当の風水というのは、もっと大きくとらえて「地形」を見るのです。
たとえば、山がどの位置にあって川がどの方向に流れているか。目の前にどんなものがあるのか、ないのかとかいったことを踏まえながら風と水の流れを読み、巒頭(らんとう=地形)と呼ぶ景色を見ます。
この巒頭に含まれる水の流れが、金運や人の流れを表します。古代文明は、川が流れているところに栄えますよね。植物が育ったり、洗濯ができたり、水分を確保できるので、豊かで氾濫しにくい川が近くにあるといいです。
山は土地を守る役割を果たしてくれるので、背後に山があるとよい風水とされます。人間でたとえるなら、椅子に座った時に背中を預けられると安心しますよね。そして自分の左右に背もたれより低く、自分の視界より低い、ちょうど手が置けるぐらいの高さ(編集部補足:肘かけ)のものがあると安定します。
風水も同じ考え方ができ、目の前が開けていて圧迫感がない状態がよいです。自宅の周辺であれば公園や駐車場が目の前にあるといいでしょう。背もたれになる適度な高さのものというのは、昔だったら山だし、今なら建物ですね。
——自分を中心にして俯瞰するときの、それぞれ地形の配置ということですね。
叶 そうです。川は流れを表すものであり、必ずしも川である必要はありません。たとえば、道路も川とみなすことができるので、目の前に大きな道路があるといいですね。特にお店を経営なさっている方にとっては、大きな道路が繁栄をもたらす川の役目を果たします。
三上 叶さんがおっしゃるように、風水というのは本来個人の家についてのことではなくて、たとえば都(みやこ)をどこに置くかというスケールの話でした。特に中国で発達した思想で、風と水に加えて地脈が流れを見ることが大事なのです。
都を置くのに一番いい場所については、オカルトあるいは神秘学の基本で、地形を人体に見立てます。地形を頭やさまざまな臓器になぞらえます。たとえば平安京がそうですね。
個人宅でやるのであれば、中国道教の風水では、空気や水が溜まるのはよくありません。だから家の中も、特に入り口と出口は風の流れがよくなるようにします。あとは水回りもとにかく流れがよくなるようにしておきます。
——今の話を聞いて中村さんにお伺いします。家の中で、ここには絶対家電は置かないだろうな、という場所はありますか?
中村 それぞれの家電製品というより、家全体の話になると思います。コラボ動画でも言ったのですが、空気が淀んでしまうのはよくありません。人間は空気を取り入れて生きているので、酸素濃度が低くなるのもそうだし、湿度が高くなると不快感が増します。体だけではなく、精神面にも悪いでしょう。家の中の環境をきちんと考えておかないと、睡眠時間もリラックスできません。翌日に悪影響が及ぶこともあるでしょう。
風水が都であるとか町づくりにおいて、人体そのものを模したように、家の中の環境もいいところをきちんと取り入れていかなければならないと思います。
叶 間取りの話ではないのですが、運気が下がるのは、寝床の下に水が流れているケースがあります。ある物件をお客様に見せていただいたことがあります。立地条件がすごくよくて、すごい人たちしか住んでいないマンションなのですが、間取りを見たら地下鉄が通っていました。
三上 風水とはやや違うのですが、井戸は終いの儀式をしなければなりません。寝室の床に水道管が通っているのは大体よくないですね。
叶 寝ている間に運気が流れ、生命力も流されていきます。
——集合住宅だと自分でできることが限られていると思うのですが、どんなことを心がけたらいいでしょうか。
叶 先ほど話が出ていたように、気が溜まらないように風通しを良くすることです。それに、光が入るようにする。
あとは、梁の下で寝ないことも大事です。むき出しの鋭角で刃のような状態になっているものを避けるということですね。梁の一部の、刃のような形状の部分を自分にむけると、いろいろなものがかかってきてしまうということになります。尖ったところと向かい合わないようにすることです。三角は基本的に火を表すので、攻撃的です。
三上 香港や台湾で、尖った角の部分が隣のビルから丸見えになっている風景がありますが、あれは意図的な攻撃です。わざとやっているのです。商売仇のビルや、相手が実際に住んでいる場所、そして相手の先祖の墓に向けることもあります。これはもう呪術のレベルになります。
——家電王は、そういうことを気になさいますか?
中村 私自身はそういう世界を否定しないというか、わかろうとしている側にいます。たとえば、家のことを家族で揃って何かしようという時は、少なくとも仲良くしたい気持ちがあるわけです。
その具体的なアプローチの1つとして、風水は適していると思います。自分自身も周りも含めて、運がいい状態を実現するために、風水をきっかけにトライしていくというのは、家作りや暮らし作りにとってよいことだと思いますね。
——ここで少し話を変えてみます。運がいい状態であるとか、運気とはどのようなものなのでしょうか?
叶 運気には種類があって、自分が持っている自運のほか、天運などを含めると大きく4つあります。全部の運が、ちょうどよく流れている時、これは運がいい状態です。せっかく自分の運を持っているのに、時の運に乗れない場合は運に放されているという場合もあります。
これは「タイミングが悪い」と言われるときですね。自分をよくするためにできることなので、風水というのは、環境的な運を良くしていくうえですごくいいと思います。
三上 取材でもいっぱいあるのですよ。例えば、T字路のつきあたりはよくないけれども仕方がないとなった時、沖縄では「ヒンプン」という板を立ててしまいます。直進してくるものをこの板で止めるという呪術的な意味が持たされています。それに、辻に石碑が立っていたりもします。
叶 要素によって、たとえば火だったら三角、金だったら丸に変えたりしていきます。作用に反したい場合は、火を剋する(編集部補足:攻撃するもの)ものを置き、作用を流したいのであれば、対応するものを配置して緩和させていきます。
中村
叶 ガラスと木の組み合わせはいいですね。ガラスが金の質なので、温かみの質のものがあると気がよくなります。冷たさを感じる、ひんやりするものは、温かみが欲しい空間には置かないほうがよいと思います。また、テーブルの形が丸いと「金(きん)」の属性になり、刃物に通じる意味ももってしまう。リラックスするには丸テーブルはおすすめではないんです。
中村 世の中にはいろいろな人がいて、暮らしの中で風水的なものを気にする人も気にしない人もいるわけです。繰り返しになりますが、目的としては仲良く暮らしたいとか、楽しく暮らしたいという気持ちを抱くきっかけとして、そういう手段を取ろうとすることに繋がっていくのが、万人にとっていいことなのだと思います。
現代の風水は、家電を取り入れて運気を補完する
——風水にライフハック的な側面があるとして、オカルト王に聞きます。風水を科学としてとらえるか、スピリチュアル的・オカルト的なものとしてとらえるか。どの角度がよいとお思いでしょうか?
三上 形は似ているけれども、思想的には違います。ただ、伝統的な風水は経験上快適に暮らすため、病気にならないで長生きするため、健康的になるような住まいはどういうものか、住みやすい町とはどんなところなのかについて考えていくことなので、非常に合理的です。
しかも中国の人たちはリアリストだから、実際に効果がないとすぐに破棄してしまいます。そういう過程を経て残ってきた思想なので、風水は実践的プラグマティズムです。今の時代は湿気が溜まるところには除湿器を置くとか、風の通り道に空気の流れを起こすような家電を置くという形で、風水で見た時によくないところに対して補助的・補完的な手段を講じることができる技術があると思います。
↑一見花瓶のように見えますが、こちらはAladdin Vaseという小型プロジェクター。コラボ動画では寝室にプロジェクターを置くと風水的にもライフハック的にも良いトークが展開されています
叶 私が大切にしているのは、見えないものを感じようとすることです。匂いもそうですし、違和感とか、はっきりと目に見えているわけではないのだけれど、なんとなく感じるということがあります。そういうものに対する感覚は誰もが抱くでしょうが、自分の潜在意識の中で無視してしまうこともあるかもしれません。
でも、こうした感覚を無視しないことが大切だと思うのです。無視しない行いを積み重ねていく中に、実際にこうしたら空気がよくなったとか、科学的に説明できることが含まれているのだと思います。
——お三方にとって、理想の家とはどんなものかお伺いしたいと思います。
中村 そうですね〜、さまざまな家電を試さなければならないので、ものは増えます。出しては入ってくるという状態になってしまうので、そこをもう少し整理したいなと思うことはあります。
今住んでいるマンションは、向きとしては北東です。よく南側がいいと言いますが、もし南を向いていたら暑くてどうしようもないでしょう。それに猫がいて、午前中には日向ぼっこができるというのが私にはとても大事なことなのです。総合的に、快適に暮らせる場所になっていると思います。
風水を含めたいろいろな要素がある中で、どうやったら暮らしをよくしていけるかを考えていくことが大切だと思います。古い冷蔵庫の買い替えのタイミングとか、本当に暑い時期が来る前にエアコンの試運転を早めにしておきましょうとか、私の家自体は、家電を軸にして社会課題になりそうな話題に関する情報を発信していく場所としての位置づけもあります。
叶 私は、自分の家は基本的には神殿だと思っています。一番リラックスできる場所で、たとえばお風呂は浄化の場所です。浄化のための場所が汚れているとよくありません。運気をよくするということだけではなくて、自分がその場所を大事にしていくという意志があるかどうかが重要です。
私がよくやるのは、家の中で大黒柱にあたる場所を見つけたら、そこに手を置いてご挨拶をしてから住み始めたり、引っ越したりすることを意識しています。住む場所を自分の共同体として、自分と一体となっているものとして意識しながら過ごすということですね。
中村 バスタブのお湯を溜めっぱなしの状態にしているのは、風水的にはよくないですよね? 火事に備えてとか、残り湯を洗濯に使うとか用途はあるのでしょうが、汚れた水で汚れたものを洗うというのはまったく反対の意味になってしまうし、ただ溜めておくというのは良くないような気がします。
ただ、ここでも「もったいない」という感覚が入り込む余地があるのでしょう。だから、「使えるものを捨てるのはイヤだ」という考え方を切り替える必要があると思うのです。先ほど叶さんがおっしゃったように、お風呂はそもそも浄化の場所でしょう。ならば使った後はきちんと排水して、きれいに保ってまた翌日使うというのが正しいと思います。
三上 溜まるという意味だと、冷蔵庫が思い当たりますね。ついついものを溜めてしまうのです。
叶 冷蔵庫は胃腸の状態を表す家電で、金運が悪いときは冷蔵庫の掃除をするといいのです。例えば1週間とか2週間かけてゆっくり掃除すると運気が上がりますよ。
自分の暮らしを見直して生活の質をあげよう
鼎談のオチも冷蔵庫となったようだ。同席させていただいて感じたのは、捉え方はどうあれ、風水が生活の質を上げていく上での具体的な手段のひとつであるということだ。生活の質を高めて行くプロセスにはオカルト的な要素が盛り込まれることもあるだろうし、実践的な方法論として新しいテクノロジーを駆使した家電の使用が優先されることもあるだろう。その中でポジティブな買い替えという具体的で能動的な道筋が浮かび上がってくる。
すべてを含め、まずすべきなのは、今の暮らし方を見直して、自分自身の生活について改めて問い直してみることではないだろうか。
(取材・執筆:宇佐和通/撮影:我妻 慶一)