Vol.130-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは新製品が多く登場しているサングラス型ディスプレイ。XREALが成功にいたった背景にせまる。
XREAL
XREAL Air
実売価格4万9980円
「XREAL Air」に代表されるサングラス型ディスプレイは、どのメーカーも似たような構造になっている。ディスプレイとして「マイクロOLED」を採用、それを眉のあたりから下向きに搭載し、透明なプリズムで90度曲げて目に届ける。そうすると、サングラス状になっている部分の中に、“半透明な映像が重なって見える”形で表示されるわけだ。その性質上、マイクロOLEDからの映像は視野全体を覆うほどには広げられない。視野の中央に大きめのテレビがある、くらいのイメージで捉えればいいだろう。
メガネ・サングラスのようなサイズの中にディスプレイを搭載するという考え方はかなり昔からあり、そこまで珍しいものではない。しかし、ディスプレイ技術の制約などもあり、良いモノはなかなか作れなかった。
それに対し、現在のサングラス型ディスプレイは、画質・体験ともにかなり良好なモノになっている。価格も5万円から6万円と、手が出ないほど高いわけではない。
こうした製品が増えてきたのは、設計手法がこなれてきたからと考えていい。
品質は主にマイクロOLEDの画質で決まる。ただこれも、作れるメーカーは現状限られており、ほとんどのメーカーは同じモノを採用していると見られている。具体的にはソニー製の、元々はデジカメのEVF向けに開発されたものだ。
また、各種コントロールに使うSoCも、クアルコム製のモノが定番だ。クアルコムは半導体を提供するだけでなく、この種の製品を開発するために必要なノウハウを、ソフトウェアとセットで提供している。VR/AR関連では、実質的に市場を寡占している状況だ。メジャーな製品としては、ソニーの「PlayStation VR2」や今後発売されるアップルの「Vision Pro」以外、ほとんどがクアルコムの半導体を採用しているのではないだろうか。
ソニー製のEVF向けマイクロOLEDを使い、デザインも正解が見えてきた。“映画やゲームを楽しむディスプレイ”という太いニーズもある。
いわゆる「ARグラス」的なものは過去から多数のトライアルがあるのだが、ARであることにはあまり拘らず、「目につけるディスプレイ」を狙って良い製品が作れるようになってきたから、ようやくブレイクの兆しが見えてきたのだろう。
ディスプレイとして考えた場合、本来はVision Proのように視界をすべて覆ってしまい、「現実を書き換える」ような存在を目指すのが望ましい。しかし、安価かつ小型にするには、現状「視界の一部を映像にする」形にしかならない。ARのための重ね合わせ演算には高性能なプロセッサーが必須で、消費電力・熱・コストなど多数の問題が出てくる。
そこで、XREALがあえて「割り切り」の製品としてXREAL Airを出したことが大きかった。AR的な要素からは何歩か後退したが、ディスプレイとしては一定の魅力がある製品を作ることができたのだ。
他社がより「ディスプレイ指向」の製品を出し始めたのは、XREALの成功を見て……という部分があるだろう。行けそうなジャンルへと積極的に、スピード重視で飛び込む姿勢は、現在の中国系企業の勢いを感じさせる。ただ、いまだ「ARグラス」表記を全面に押し出しているのは製品の特徴と異なるので、悪い意味で中国メーカー的である。
ただどうしても、どこも似たような製品になってしまうため、顧客の側から見てもどこのものを選ぶべきかわかりづらい。メーカー側も苦慮しているところだろう。どこが違うのか、どこを見て選ぶべきかは、次回解説する。
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