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2023/9/15 11:30

「今までは何だったんだ」新聞紙で炊く「魔法のかまどごはん」が2つのシーンで活躍の予感

タイガー魔法瓶は、新聞紙1部とライターがあれば電気やガスがなくてもご飯を炊けるかまど型炊飯器「魔法のかまどごはん」を発表しました。10月20日発売で、直販サイトのみの販売。直販価格は1万9800円(税込)で、現在は予約受付中です。

↑タイガー魔法瓶のかまど型炊飯器「魔法のかまどごはん」

 

楽しみながら、もしものときの安心を提供する

魔法のかまどごはんは、陶器製のかまどに金属の内鍋をセットして陶器製のフタを載せ、一定時間ごとに棒状にした新聞紙をかまどに入れ、着火していくことでご飯を炊くという炊飯器です。

 

本製品は、タイガー魔法瓶100周年記念モデルのひとつ。開発を担当した魔法のかまどごはん プロジェクトリーダーの村田勝則氏は、開発の背景として「関東大震災から100年、またこの先100年を見据え、ぬくもりあるアイデアで食卓に新たな常識を作り続けるという思いから開発を進めました」と語ります。

↑魔法のかまどごはんプロジェクトリーダーの村田勝則氏

 

「自然災害の多い日本では災害への備えを怠ることができない状態です。『炊きたて』という当社の炊飯器のネーミングにも通じますが、お客様にはいつでも温かいご飯を食べてほしいという思いが常にあります。アウトドアはもちろん、電気・ガスが使えない状態であっても、温かくておいしいご飯を食べてもらいたい。この商品は、日常を楽しみながら、もしものときに安心を提供できることが最大の価値だと考えています」(村田氏)

 

廃棄されてしまう内鍋を生かしたい!

品質管理部門で29年間勤務し、その後アフターサービスに配属となり、入社して31年が経過したという村田氏。「入社当時より『自分のアイデアで新たな商品を生み出したい』という思いがありました」と語ります。

 

新奇性、成長性に溢れるビジネスを創生すべく、2019年に開始された社内公募制度「シャイニング制度」に当初から応募し続け、3回目の挑戦で初採用となった魔法のかまどごはん。“三度目の正直”になった理由は「アフターサービスに配属され、今まで見えていなかった問題に気づいたから」と村田氏は語ります。

 

「当社では2019年から補修部品の10年保有を開始しているのですが、そこで直面したのは、10年保有した後の部品が廃棄されるという現実です。特に炊飯器の内鍋は機種ごとに在庫を抱えています。部品が抱えている問題と、私が学生時代に行っていた青少年教育活動の経験から、内鍋を利用して新聞紙でご飯を炊くことを思いつきました」(村田氏)

↑廃棄される炊飯器の内鍋を再利用できないか? と考えたのが開発のきっかけ

 

当初は植木鉢を改造してかまどを製作し、ガールスカウトが実施していた防災イベントに提供。実際に新聞紙を使ってご飯を炊けることを参加者に認識してもらい、その実績を社内公募最終審査で報告して「事業化賞」を受賞したとのことです。その後はポリバケツの内側をセメントで固めたものなど、さまざまな試作機を70台以上作っては試し、最終的に現在の形になりました。

↑植木鉢を改造して最初に製作したかまど(左)と製品化される魔法のかまどごはん(右)

 

↑試作機の一部。さまざまな素材を使って試行錯誤しました

 

企業向けモデルから一般消費者用モデルの開発へ

先にできあがったのは、廃棄予定の内鍋を用いたBtoBモデルです。2022年9月に開発に着手し、2023年3月には国立オリンピック記念青少年総合センターに導入しました。

 

「今年5月に開催されたイベントでは、100家族以上に新聞紙炊飯を体験してもらいました。その際は『おいしい』『驚いた』『面白い』などの好印象のコメントをいただき、その成果により今回発表することになった次第です」(村田氏)

 

好評を得て2023年6月にBtoCモデルの開発に着手し、9月からBtoCモデルの一般販売予約を開始する流れになりました。

↑製品化までの道のり

 

BtoBモデルとBtoCモデルの違いは「内鍋」そのものです。当製品は「廃棄される炊飯器の内鍋の再利用」から着想を得たのは先述の通りですが、BtoBモデルは廃棄予定の内鍋をそのまま利用するのに対し、BtoCモデルは「魔法のかまどごはん」専用に作られたものになります。

 

補修部品としての期間が過ぎただけで、製品としては全く何の問題もない内鍋を廃棄せずに転用するというのは、環境負荷を抑える意味でも素晴らしいストーリーです。BtoCも同じように転用すれば……と思ってしまいそうですが、実は、BtoCモデルでは専用に製作した内鍋を採用しています。

 

その理由について、「“訳あり”の鍋なので、その“訳あり”を一般の方に説明するのが難しいのです」と村田氏。例えば、廃棄予定の電気炊飯器の内鍋には「エコ炊飯」など、さまざまな炊飯モードに合わせた水位線が書いてありますが、当然、魔法のかまどごはんにはそのようなモードはありません。紛らわしい水位線が書いてあることで、一般消費者に勘違いさせるのは避けたい……というわけで、BtoCモデルでは専用の内鍋を採用しているのです。

↑補修部品の内鍋には「エコ」などの目盛りがあるため、今回発表したBtoCモデルではなく、BtoBモデル向けに使用されます

 

手順に沿えば誰でも失敗せず炊飯できる

魔法のかまどごはんのユニークな点は、誰でも失敗せずに炊飯できるように“炊飯プログラム”を標準化した点にあります。プログラムといっても新聞紙とライターを使ったアナログな“手順”のことですが、手順に従って棒状にした新聞紙を投入していくことで、自然に「始めちょろちょろ中ぱっぱ……」の伝統的なご飯の炊き方を再現できるというのです。

 

ご飯の炊き方はとても簡単です。1分30秒ごとに棒状にひねった新聞紙をかまどに投入し、新聞紙に着火。9分が経過したら1分ごとに新聞を投入・着火を繰り返し、火力を上げていきます。炊飯容量に応じて9分以降に使う新聞紙の個数を調整。蒸らしの最後に新聞を1個投入することで余分な水分を飛ばしてシャキッと仕上げます。炊飯時間は1合で28分、5合で40分が目安。

 

なお、新聞を取っていなくて新聞紙がない場合、牛乳パックなどの紙パック(長期保存用にアルミコーティングがされたものはNG)を必要なぶんだけ用意しておいてもOKとのことです

↑新聞紙を使った燃料の作り方。まず新聞紙を半分に裂いてから折ってくしゃくしゃに縮め、さらに半分に折ってからひねって棒状にします。これを1合なら24ページ、5合なら44ページぶんを用意します。ちなみに半分に裂いた新聞紙1枚(2ページぶん)は、牛乳パックの1面(側面)ぶんと同等とのこと

 

↑魔法のかまどごはんの炊飯工程。投入間隔を調節することで火加減を調節しています

 

実際にガールスカウトで試してみてもらったところ、「私たちが今までやっていたことは何だったんだ」という感想が出たそう。薪などで火をおこして飯ごうで炊くのはかなりのコツと慣れが必要ですが、「魔法のかまどごはん」ならば手順が標準化されているため、誰でも簡単にできるのがメリットです。

 

筆者も実際に炊飯工程の一部を体験しました。軍手をはめて丸めた新聞紙を入れ、かまどの中に押し込み、ライターで火をつけます。これを繰り返すだけなので、やけどに気を付ける必要はあるものの、子どもでも簡単にできそうです。

↑軍手をはめて新聞紙を押し込みます

 

↑ライターで着火します。これを左右の穴で交互に繰り返すだけです

 

炊き上がったご飯はなかなかの味

炊き上がったご飯を試食しました。しっかりとした粒感があり、かむと甘味が感じられてなかなかのおいしさでした。飯ごうで炊いたご飯のような、香ばしさも感じられます。

↑果たして炊き上がりは……?

 

↑おいしそうに炊き上がりました!

 

↑試食したご飯はなかなかのおいしさでした

 

手入れについては、鍋にすすがこびりつきにくくなっており、洗剤を使わずに水だけで汚れを落とせるとのこと。「新聞紙はほとんど燃えかすも出ず、薪や炭のように燃え尽きるまで待つ必要がなく、短時間でお手入が完了できます」と村田氏。

 

新聞紙や紙パックなどを用意しておく必要があるものの、電気やガスがなくてもおいしいご飯を炊けるのは災害時の備えとして心強いですね。また、アウトドアで子どもと一緒に炊飯体験をしてみるのも楽しそうです。