最近、米国とカナダにハリケーンが上陸しました。そんな中、欧米のメディアで話題になっているのが、どうして人間は自分たちの存在を脅かす物事に名前を付けるのか?
日本で台風は数字(⚪︎号)で表されますが、米国はハリケーンに名前をつけます(例えば、最近のものは「リー(Lee)」と「マーゴット(Margot)」)。名前は適当につけられているのではなく、そこにはルールがあります。例えば、大西洋で発生したハリケーンの名前は6年周期となっており、男性と女性の名前がリストアップされています(詳しくは以下の記事を参照)。そのため、2022年に聞かれた名前(Alex、Bonnie、Colinなど)が2028年にも登場する予定。
では、なぜ恐ろしい大気現象を人の名前で呼ぶのでしょうか? 一説によれば、人間が人間ではない物事に名前を付けるのは自然なことで、そうすることによって私たちは世界の不確実性(生と死、健康と病といった不安や緊張)に対処しているとのこと。私たちは人間でない物事(例えば、環境)を人格化することでコントロールしたいと思っているようです。
心理学ではこのことを「人格化のエフェクタンス動機づけ」と呼んでいますが、予測不可能な物事を予測可能なものに変えることで、私たちは安心感を得るのです。
この考え方は新型コロナウイルスにも応用されました。中国の研究者は、このウイルスが同国で大流行し始めた頃、新型コロナを「ミスター(Mr)コロナウイルス」と呼び、人間のように扱ったら、人々の反応にどのような変化が見られるのかを調べました。実験では「新型コロナウイルス」と書かれた感染予防メッセージと「ミスターコロナウイルス」と書かれたものを用意し、読み手の反応を比較したところ、後者のメッセージを読んだ被験者のほうが感染予防のための行動をより積極的に取ることが分かったのです。
この結果を受けて、人格化のエフェクタンス動機づけは公衆衛生にも役立つとされています。その反面、深刻な事態を引き起こす病気や大気現象にかわいらしい名前を付けることは、場合によっては不適切になる懸念もあり、バランスの取れた表現を見つけることが大切だと言われています。
日本では台風も新型コロナもあまり人格化されていないと思われますが、上述の見方をすれば、もしかしたらそこでは「周りから不謹慎と思われることを避ける」という社会心理が働いているのかもしれません。ちょっと表現を変えるだけで語感が変わり、私たちの行動も変わるだけに、怖いものを名付けるときは慎重さとユーモアのセンスが問われるようです。
【主な参考記事】
BBC. Why we personify threatening events. September 18 2023