家電や家具をどう置くか? 家の掃除や部屋の片付けをしながら考えることがあると思いますが、この問題は個人のセンスが問われているだけでなく、文化や社会の影響も受けています。滅多に地震が起きないイタリアでは、家電やキッチン用品は日本の一般的な家庭ではあまり考えられない場所に配置されます。イタリア式のレイアウトについて3つ例を取り上げて、それらの背後にある考え方を見てみましょう。
1: エアコンの室外機
一般的に、イタリアの家庭でエアコンの室外機が設置される場所は「家の外壁面の上部」。日本では、大抵の場合、室外機をベランダの床など安定した場所に設置しますが、イタリアでは壁面上部にキャッチャーを固定して室外機を載せることが多いです。
なぜ床に置かないのか? その理由は「隠す収納」を好むイタリア人にとって室外機は目障りであり、外壁のキャッチャーに載せれば部屋の中からは見えないから。また、ベランダのスペースをフルに使えるため、地震対策を考えずに済むイタリアでは当たり前なのです。
住民の美意識が高い富裕層地区などでは、外観の統一感を重視しているため、ベランダに置いてよいものが決められていますが、中間層を含む庶民的な地区で外観はあまり気にされません。中庭がある建物では、外から見えない中庭のベランダに室外機やパラボナアンテナなどが設置されています。
2: 洗濯機と乾燥機
日本では洗濯乾燥機が人気ですが、イタリアでは乾燥機能が充実した一体型洗濯機は高価であるため、洗濯機と乾燥機を別々に購入するのが一般的です。家電量販店では「修理が簡単」「どちらかが壊れたときに片方だけを買い替えれば安く済む」「一体型はヒートポンプ搭載の最上位機種でないと乾燥機能に難がある」とよくアドバイスされるほど、この2つの家電は別々に購入するのが“常識”。
そして、並べて設置するよりも省スペースになり見た目もすっきりするため、洗濯機と乾燥機は上下に重ねて置かれます。日本人にとってはあまり考えられない置き方ですが、イタリア人はスペースの有効活用や見た目を最優先するので、転落防止器具も設置しないなど安全面を気にする様子はほとんどありません。
3: 食器の水切りコーナー
イタリアでは、ほとんどの家庭に食洗機が備えられていますが、同じようにシステムキッチンにビルトインされているのが「食器の水切りコーナー」。シンク上の棚の扉の中に洗った食器を立てかけて、そのまましまっておける作りになっています。
水切り棚は、(食洗機を使うほどの数ではないときに)手洗いした食器を置くほか、食洗機の中に放置しておきたくないけれど、食器棚にはしまわずにいつでもすぐに使いたい食器を置いておくなど、食洗機と併用して使われています。
食器の水切りコーナーを日本のようにシンクの横に置かないのは、やはりイタリアでは隠す収納が基本になっているから。食洗機やオーブン、冷蔵庫などのキッチン家電やごみ箱は全てシステムキッチンにビルトインするというほど、隠す収納を徹底したイタリアらしい構造およびレイアウトといえます。ちなみに、このコーナーにも安全ロック装置は付いていません。
隠すレイアウト
イタリア人は人を家に呼ぶのが大好きで、どこの家もいつ来客があってもいいように整理整頓されています。家具や家電のレイアウトに隠す収納が取り入れられているのも、それが最大の理由。
一般的に日本の家は居住スペースが狭いので、隠す収納はハードルが高くなってしまうかもしれませんが、それでもイタリア人の収納やレイアウト術を取り入れることができる部分はあるかもしれません。まずは部屋を見回して、目障りなものを特定する。そして、それらをしまうための収納スペースを作る。キッチンの場合、表に出ている小さめで使用頻度が少ないハンドミキサーやパン焼き器などは目に見えない場所にしまう。リビングなら、子どもの学校グッズやおもちゃなどは、使わないときには見えない所にしまっておき、使う際に取り出す。
このように考えると、イタリア人の隠す収納は当たり前のことをやっているだけとも思われますが、「隠す」という視点を持てるかどうかで、部屋のレイアウトの発想が違ってくるかもしれません。
筆者/Ciho