デジタル
2023/10/4 19:00

【西田宗千佳連載】KDDIが狙う「圏外をなくす」試みとは

Vol.131-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはKDDIとスペースXが発表した、衛星を利用したスマホの通信サービス。“圏外”をなくすサービスへの期待と課題は何か。

 

KDDI×スペースX

衛星とスマホの直接通信サービス

利用料金未定

↑スペースXが開発したスターリンクとKDDIのau通信網を活用し、auスマートフォンが衛星と直接つながる。空が見える状況であれば圏外エリアでも通信でき、山間部や島しょ部を含む日本全土にauのエリアを拡大する

 

いまのスマホでも衛星サービスが使える

KDDIとスペースXは、携帯電話と衛星の直接通信をスタートする、と発表した。実現は2024年じゅうの予定だ。

 

キャッチフレーズは「空が見えれば、どこでもつながる」。

 

これまで、山間部や島しょ部など、基地局から遠く「圏外」表示になってしまった場所でも、空が見える=衛星が捕捉できる状況であれば通信が可能となるため、日本国内でも海外でも、KDDI(auだけでなくpovoやUQモバイルなどのサブブランドも対象)の携帯電話では「圏外」ではなくなるという。

 

具体的には、スペースXが衛星ブロードバンドサービス「スターリンク」で使用している衛星群を使う。要はスターリンクの衛星を“宇宙に浮かぶ基地局”のように使うことで、地上に基地局がないような場所でも通信が可能になる、という仕組みだ。

 

衛星との通信だが、特別な機材やアンテナは使わない。スマートフォンがすでに使っている周波数帯を使うため、KDDIは“いまのスマートフォンを買い替えることなく、そのまま利用できる”としている。

 

非常に魅力的だが、衛星を使って“現在のスマホと同じように回線を使える”というわけではない。理由は、片手で持てる携帯電話と5000km先にある衛星との通信が難しいからだ。

 

そこでまずは“テキストメッセージからスタートし、その後に通話・通信へ”と説明している。2024年じゅうに使えるようになるのはまずテキストメッセージだけ、と考えた方がいい。

 

当面は緊急時の通信での使用が基本

スペースXは現行のスターリンク衛星の後継となる「スターリンク V2」の開発と打ち上げを準備している。だがV2は新型の大型ロケット「スターシップ」の運用開始が前提。それには早くとも数年が必要と見られている。

 

そのため当面は、現在なら「圏外」になるような場所からのテキストメッセージ送受信、という使い方が基本になるだろう。船で旅行中や山間部で遭難したときなどの利用が想定されており、毎日使うようなことはないと思われる。普段は地上の基地局と通信を行なう、という状況が変わるわけではない。

 

緊急時に圏外でもスマホからメッセージを送れるようにするという機能は、2022年秋にアップルが発売した「iPhone 14シリーズ」から搭載されており、アメリカやカナダなどで使われている。本記事を執筆している9月第一週の段階だと日本では使えないが、今後サービス対象地域となる可能性は十分にある。

 

また、衛星を使った緊急メッセージの送信については、クアルコムも規格化を進めている。これらが実現すれば、KDDI+スペースXの組み合わせのうち“緊急対策”については、携帯電話事業者を問わず実現できる可能性が高い。

 

また楽天モバイルはASTスペースモバイルと組んで、KDDI+スペースXと同じような衛星利用サービスを準備中だ。ただ、スペースXの知名度やサービス展開に押され、KDDIの先行を許してしまった印象が否めない。

 

これらのサービスはどう違うのか? 幅広く使えるのはいつになるのか? そのあたりは次回以降で解説していく。

 

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