元SDN48メンバーの作家・大木亜希子さんが自身の体験に基づいて執筆した私小説を映画化した『人生に詰んだ元アイドルは、 赤の他人のおっさんと住む選択をした』が、11月3日(金・祝)から公開。劇中、主人公・安希子を演じた元乃木坂46の深川麻衣さんと大木さんが、セカンドキャリアを歩む元アイドルの苦悩について語ってくれました。
【深川麻衣さん&大木亜希子さん撮り下ろし写真】
いい意味で、タイトルに裏切られました
──今回の映画化で、自身の役を深川さんが演じると聞いたときの大木さんの感想は? いっぽうで初めて原作を読んだ深川さんの感想は?
大木 深川さんが出演してくださるという話を聞いたときは、嬉しさのあまり腰が抜けるほど驚きました(笑)。深川さんは私と同じく元アイドルという境遇で、ひそかにシンパシーを感じていました。映画『愛がなんだ』でお芝居を拝見したとき、難しい役柄を繊細に演じられていてすごいなと思いましたし、女優さんとして活躍されている姿を見て励まされていたので、深川さんに安希子役を演じてもらえるなんて、この上ない幸せでした。また、井浦さん演じられるササポンとかけ合わせることで、「どんな化学反応が起きるんだろう?」という期待に胸を膨らませていたのを覚えています。
深川 ありがとうございます。原作はすぐに読み終わるぐらい面白過ぎたんですが、いい意味で、タイトルに裏切られたという印象もあったんです。どちらかというと、もっとコメディー寄りで、アイドルだったときの話も描かれると思っていたから。でも、セカンドキャリアで壁にぶつかったり、直面する悩みというのが、ものすごく生々しく描かれていて、そのギャップにグッときました。そんな安希子を自分が演じられるんだということが本当に嬉しくて、撮影に入るのがとても楽しみでした。
──共同生活をすることになるササポン役を井浦新さんが演じることについては?
大木 普段の井浦さんのイメージは幅広い役柄を演じられるかっこいい俳優さんだったので、一体どんな「普通のおじさん」になってくださるのかと思っていたんです。でも、当時のササポンそのままイメージをつかんでくださって、とても感激しました。
撮影現場は原作の世界観そのもの
──アイドル時代に「聖母」と呼ばれる癒やしキャラだった深川さんが、逆に中年男性に癒やされる役を演じることについては?
深川 これまで演じた役と似ている、似ていないというより、安希子の感情の機微にすごく共感できたこともあり、そのときの安希子の気持ちをどう表現したら伝わるかということを結構考えました。あとは、新さんと実際に向かい合ってみて、生まれるものを大切にしましたし、穐山茉由監督もその空気感を大事に切り取ってくださいました。本当に、みんなで一緒に擦り合わせながら作っていきました。
──元アイドルである深川さんが脚本を読んで、共感したセリフやシーンは?
深川 安希子は、元アイドルという経歴が今の仕事にプラスになる話のネタだと思っていて。でも取引先の会社の方にはそれがイマイチ伝わっていないシーンは印象的でした。私自身もアイドルグループに属していた経験も含めて今の自分がいると思っているからこそ、独り立ちして認めてもらえるようにより頑張らなきゃいけないという気持ちだったので。だから、安希子の焦りみたいなものは、すごく理解できました。あと、「もう若くないんですよ」と言う安希子に対して、「自分のことを必要以上に年寄りだと思わないほうがいいよ」というササポンの言葉には、ハッとさせられました。自分で自分のことを勝手に決めつけることが、一番もったいないし、実際自分が30歳になるときに、ドラマの現場で先輩の中村梅雀さんに「まだ何でもできるじゃん」って言われたことを思い出しました。
大木 私自身、完成した映画を見るまでは「深川さんという元アイドルの俳優さんが演じてくれることで、セカンドキャリアや人生の迷いをリアルに感じる作品になるだろう」と思っていたんです。でも、実際に試写を観たら、元アイドルという境遇に関係なく、一人の悩める女性として共感できる作品になっていると感じました。
──大木さんも見学された現場の雰囲気はいかがでしたか?
大木 私が見学したのは、友達と朝まで飲み明かして、二日酔いになった安希子がササポンと庭いじりをするシーンだったんですが、原作の世界観そのものでした。初めて深川さんとお会いする日で、すごく嬉しかったんですけど、原作者とはいえ、この空間に土足で踏み込むようなことはしてはいけないと思えるほど、世界観が出来上がっていたので、できるだけ邪魔しないよう、昼食に出してもらったお弁当だけ食べてすぐに帰りました(笑)。
深川 ほっとできる安心感のある現場でした。辛いシーンはありつつ、すごく温かい作品ですし、穐山監督も寄り添ってくれるし、新さんもすごく穏やかで何でも受け止めてくださる方ですし、安心感がある現場でしたね。お友だち役の松浦りょうちゃんと柳ゆり菜ちゃんも、すぐに距離が近くなれたし、役の延長線上にみんながいるような現場でした。
批判的な言葉を気にしていると、いつまでもブレイクスルーできない
──そんなお二人が壁にぶつかった際、乗り越えたエピソードも教えてください。
大木 2019年に書籍化のきっかけとなった記事をWEBメディアで配信したとき、SNSを中心に大きな反響がありました。Twitter(現・X)のトレンドランキングで上位になったときに、やっぱり温かいコメントだけではありませんでした。「こんな生活、おとぎ話に決まってる」とか「元アイドルのライターが何か言っているwww」みたいな辛辣なコメントに最初は傷ついたんですけど、そういう言葉を気にしていると、いつまでもブレイクスルーできないってことに気づいたんです。それを客観的に受け入れることで、少しずつ前に進むことができました。
深川 20代の頃は仕事が全てで、仕事の評価=自分の存在価値みたいに思っていたんですよ。でも、それってすごく疲れちゃうことだし、壁にぶつかって、仕事がうまくいかなくなったときに、自分から見る存在価値が揺らいじゃうんです。だけど、30代に突入して、周りの先輩が「30代は肩の力が抜けて楽しいし、ようこそ!」みたいな感じで迎えてくださったんです。それで、まず真ん中に自分を置いて、大事な仕事、友達や趣味があってっていう考え方に変えたら、ちょっと楽になりましたね。
──年齢の離れた部下との接し方に悩む読者にアドバイスがあれば教えてください。
大木 私がササポンと住んでいたときに、何が一番心地良かったというと、彼が無理に距離を詰めてこなかったことなんです。ちょっとゴリゴリくるような熱血おじさまに、無理矢理ポジティブにさせられたら、元気になるどころか、さらに落ち込んでいたと思います。でも「あなたはそこにいるだけでいい」「回復するまでは、無理のない範囲で働けばいい」と、「期待を求めない」「見返りを求めない」「リアクションを求めない」という3つのことをしていただいたおかげで、自分が回復への道をたどることができました。もし、若い部下の方との接し方が悩んでいる方がいたら、「私はそういうことが嬉しかった」と伝えたいです。
深川 「ポジティブにさせたい」「元気を出してほしい」という気持ちはありがたいかもしれないけど、そこに無理矢理持ってくんじゃなくて、その人をまず受け入れてあげることが大事だと思います。自分も同じ立場だったら、それが嬉しいし、否定しがちなときに、「それでいいんだよ」と認めてくれたら、気持ちが楽になる気がしますね。そのうち、時間が解決してくれることもあると思いますし。
──ちなみに、「詰んだ」ときに、気分転換となるストレス解消法を教えてください。
大木 大好きな屋久島の檜を使った、純正のオーガニック・アロマオイルをアロマストーンに垂らして嗅ぎますね。それだけで思考がクリアになってリセットされます。あとは、双子の姉の奈津子が勧めてくれる美容家電を使います。
深川 凝り固まっているなぁという時は、電動のヘアブラシで頭をほぐしたりします。緊張している時期とか考え事をしている時は頭も意外と凝っているので、頭や身体をほぐすと自然と心もリラックスしてくる気がします。
人生に詰んだ元アイドルは、 赤の他人のおっさんと住む選択をした
11月3日(金)公開
(STAFF&CAST)
監督:穐山茉由
原作:大木亜希子
脚本:坪田文
出演:深川麻衣 松浦りょう 柳ゆり菜 猪塚健太 三宅亮輔 森高愛 河井青葉 柳憂怜 井浦新
(STORY)
元アイドルの安希子(深川)は、幸せで充実した人生を歩んでいると自分に言い聞かせながら日々の仕事に励んでいた。ある日、メンタルを病み、会社を辞めることになった彼女は仕事もなく、男もなく、手残り残高10万円という厳しい現実に直面。そんなとき、友人から一軒家でひとり暮らしをする56歳のサラリーマン・ササポン(井浦)との同居生活を提案される。
公式HP:https://tsundoru-movie.jp/
(C)2023映画「人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした」製作委員会
撮影/中村 功 取材・文/くれい響