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2023/11/4 6:15

想像し得なかった快挙を達成 「イカゲーム」 の魅力と影響を識者が解説!

「イカゲーム」はなぜここまで人々を魅了したのか? シーズン1を振り返りながら映画ライターの
よしひろまさみちさん、SYOさんのおふたりに、徹底解説してもらった!

※こちらは「GetNavi」2023年12月号に掲載された記事を再編集したものです。

Netflixシリーズ「イカゲーム」
シーズン1独占配信中
シーズン2独占配信予定

 

映画ライター・SYOさん

映画、ドラマ、アニメからライフスタイルまで幅広く執筆。これまでインタビューした人物は300人を超える。

 

映画ライター・よしひろ まさみちさん

様々な媒体で映画のレビューやインタビュー記事を執筆。テレビやラジオ、ニコ生などでも映画の紹介を手掛ける。

 

超良質な脚本が世界的大ヒットの原動力に

「イカゲーム」が世界的大ヒットを成し得た背景として、映画『パラサイト 半地下の家族』が国際的に評価され、アジア系エンタメに注目が集まるようになったことは無視できない。しかしそれ以上に、Netflixにてパッケージ化され、世界配信されたことが大きいと、よしひろまさみちさんは分析する。

 

「“配信日に全話アップ”の強みを非常に生かした作品です。テンポが良く展開が早いので次が気になり、勢いで観ちゃうんですよ。しかも全9話は韓国ドラマにしては短く、イッキ見にもちょうど良い。質も高いので口コミで広まり、社会現象化したと思います」

↑エミー賞の主演男優賞受賞や女優賞のノミネートで、俳優個人にもスポットライトが

 

とはいえ、「本作のヒットは脚本の良さに尽きる!」と続ける。

 

「捨てキャラも無駄なシーンも皆無。必要なエピソードのみで簡潔に構成されているのがスゴい。視覚的な見せ方も上手いです。本作のシンボル的な少女の巨大人形を使った『だるまさんが転んだ』を最初に持ってくるのも絶妙。初回から人が死にまくる衝撃もあり、一気に世界観に引き込まれます」

 

またSYOさんは、別の視点から脚本を絶賛する。

 

「韓国のリアルな社会問題をデスゲームのなかに溶け込ませ、現実味を出して感情移入を誘うという話の組み立ても非常に巧妙です。要素に目新しさはありませんが、話の構築の仕方が斬新です」

 

こうして「イカゲーム」のヒットがもたらした影響は、アジア系エンタメの大快挙に繋がった。

 

「『パラサイト〜』のポン・ジュノ監督の功績でアジア系作品自体の価値は急上昇しましたが、パーソナルな方までには及びませんでした。しかし『イカゲーム』が大衆的な賞であるエミー賞で主演男優賞を獲得したことがアジア人俳優の価値も上げた。現に主演のイ・ジョンジェは『スター・ウォーズ』シリーズの新ドラマの主演に抜擢。これは5年前でも想像し得なかった快挙です」(よしひろさん)

 

イ・ジョンジェだけでなく、チョン・ホヨンはインスタグラムのフォロワー数が韓国女優1位(2049万人)に輝くなど、その影響力は計り知れない。

↑大ブレイクを果たしたチョン・ホヨン。国内外の作品に続々と出演が決定している

 

「本作のヒットと演者の活躍は、日本の俳優陣の希望にもなっています。ベテランになると役の幅が狭まる現象に悩まされがちですが、本作の多種多様なキャラを見て“演じられる役は沢山ある!”と元気づけられた話を俳優さんから聞きました。日本のエンタメ業界にも、良い影響を与えているのではないでしょうか」(SYOさん)

 

↑現在制作中のシーズン2もキービジュアルが公開。配信は来年以降になりそうだ

 

ここからはヒットにつながったポイントを6つピックアップ。未視聴の方も、参考にどうぞ!

 

【HIT POINT01】
内容はヘビーすぎるのに色使いやセットはポップ

“ゲームに負けたら即死亡”という超過酷な世界観にもかかわらず、登場するセットや色使いがポップな反面、どこかノスタルジック。プレーヤーは昭和感漂う緑のヘボピージャージ、運営側のスタッフはショッキングピンクのユニフォームを身に着けているのも特徴的だ。

 

■ワクワクさえしてしまう設定とは裏腹な色味とセット
「残虐なゲームが繰り広げられるとは思えないセットで、第1話から夢中に。これからいったい何が始まるんだ!? というワクワク感すらありますよね。デスゲームなのに(笑)」(よしひろさん)

↑1話のヨンヒ人形はインパクト大。韓国の教科書に登場する少女がモチーフだ

 

↑セットのカラーリングは、ファミコンゲームのグラフィックを思わせるようなポップさがある

 

↑キッズルームのような色合い&模様の部屋でゲームを行う。でも、負ければ即射殺だ……

 

【HIT POINT02】
多種多様なプレーヤーのバックボーンの描き方が細やか

癌の独居老人、脱北者、外国人労働者、詐欺師、トラブルを抱えたエリート証券マンなど、主要プレーヤーの性別、境遇は様々。彼らが大金を必要とする事情が丁寧に描かれているので、共感範囲が広い。

 

■切羽詰まった背景がわかりより感情移入しやすい!
「それぞれのキャラがゲームに参加せざるを得ない事情・背景がしっかりと描かれており、人間臭い。非現実的なデスゲームなのに、思わずどっぷり感情移入してしまいます」(よしひろさん)

↑ゲーム会場には、様々な事情により経済的に困窮した人々が集められた

 

↑脱北者のセビョク。施設にいる幼い弟を引き取り、ささやかな幸せを手に入れるために大金が必要だ

 

↑娘の親権を失ったギフン。娘がアメリカに渡ることを知り、親権を取り戻すためにゲームに参加する

 

【HIT POINT03】
誰もがプレーしたことがある懐かしい遊びに親近感!

カタヌキやビー玉遊びをはじめ日本人には馴染みの深い懐かしい遊び要素が満載で、世界観に入りやすいのも本作の魅力のひとつ。“韓国でも同じ遊びをするのか!”と、驚いた人も多いはずだ。

 

■レトロ要素はプレーヤーにもやさしい
「韓国の文化に疎い脱北者や出稼ぎ労働者が登場しますが、僕らに馴染み深いレトロ要素はそんな彼らでも理解できるものばかり。ゲームを展開しやすくする要素ともなっています」(SYOさん)

↑第2ゲームは「カタヌキ」。カルメ焼きでできており、日本のものよりサイズが大きい

 

↑第3ゲームの「綱引き」は、もはや未経験者はいないであろう。学生時代の運動会の定番競技だ

 

↑プレーヤー候補に招待状を配る男(コン・ユ)は冒頭、ギフンにメンコ勝負を持ちかけてきた

 

【HIT POINT04】
シンプルな子どもの遊びは観る者を惹きつけやすい!

デスゲームモノは、わりとルールが複雑なものを参加者が強いられることが多い。しかし本作はだるまさんが転んだ、カタヌキ、綱引き……など、シンプル&簡単なものばかりで非常にわかりやすい。

 

■ルールを知らない欧米人でもすんなり理解できるのがイイ
「まったく知らない欧米の視聴者でも、一見すれば理解できるゲームばかりなのもヒットの理由のひとつ。イカゲームだけはやや複雑ですが、小学生男子が好きそうなルール(笑)」(よしひろさん)

↑日本のデスゲームモノを多数観てきた監督は「ゲーム内容が複雑」と考えていたそう。そこで、敢えて子どもの遊びを取り入れたのだとか

 

↑カタヌキをやらされるとは知らずに、4つのなかから絵を選ぶ。“傘”を選んだときの絶望たるや……

 

↑「飛び石渡り」は、強化ガラスのみを選んで2列のガラスの橋を渡り切る。単純だが怖すぎる

 

【HIT POINT05】
ドメスティックな社会構造が重厚なストーリー構築に一役

格差や貧困、国家分断といった韓国独特のリアルな社会構造が、劇中ではキャラを通して繊細に描かれている。そのおかげでデスゲームの非現実感が薄れ、ドラマ全体に重厚感を与えているのもポイントだ。

 

■エンタメ作品でありながら韓国ならではの問題にも斬り込む
「ファン監督は自身の経験から“厳しい格差への問題提起”を本作のテーマのひとつとしています。社会問題とエンタメ性を絶妙なさじ加減で配分した手腕は、さすがの一言です!」(SYOさん)

↑自動車メーカーにリストラされたギフン。抗議ストライキにも参加していたが、現在は借金まみれで母は病気だ……

 

↑エリートのサンウは先物取引で6億円もの負債を作り、転落人生に。競争社会の犠牲者とも言えよう

 

↑給料未払いの出稼ぎ労働者・アリ。訴えても取り合ってもらえず、社長に重傷を負わせてしまう……

 

【HIT POINT06】
けっこう気になっていた(!?)運営サイドの裏側が見られる

プレーヤー側の視点で物語が展開していくのは常だが、本作ではゲームの運営側の動きが描かれているのも見どころ。ゲームの準備や遺体の処理を、結構苦労しながらすべて人力でやっている姿が描かれているのだ。なかには謀反者もいるなど、決して一枚岩ではないところも興味深い。

 

■運営側の“舞台裏”が人間臭くて面白い!
「ゲーム終了後に床の血をせっせと掃除していたり、内緒で勝手に遺体の臓器を取り出して売っている作業員がいたり……。実は結構気になっていた運営側の人間臭い裏側が絶妙に描かれていて、新鮮です」(SYOさん)

↑作業員も何者かに集められ使役されている。一見皆従順に動いているが、そうでもなく……

 

↑刑事のジュノが作業員としてゲームに潜入。彼の動きを通して“舞台裏”が見えてくる

 

↑プレーヤーの遺体も、1体1体手作業で作業員たちが棺桶に入れているのだ

 

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