空気を入れる必要がないタイヤ、すなわちパンクしない「エアフリーコンセプト」が、ブリヂストンによって開発され、その試乗体験会が開かれました。開発された背景には何があったのか、そして走行フィールはどうだったのかをレポートします。
空気の代わりに特殊形状のスポークを使うからパンクしない
エアフリーコンセプトとは、具体的にどんなタイヤなんでしょうか。タイヤはこれまで空気を高圧充填することで膨らませ、それによって車体の荷重を支えることが基本となっていました。エアフリーコンセプトでは特殊形状のスポークが空気の代わりを果たすため、パンクしないだけでなく空気圧管理などのタイヤメンテナンスも一切不要です。
また、路面に接するゴムの部分についても、リトレッドによる張り替えが可能になっているのもポイントとなります。
特に注目したいのが、路面から受けたショックの吸収方法です。今までのタイヤでは充填された空気がクッションの役割を果たしていましたが、エアフリーコンセプトでは特殊形状スポークが衝撃に応じた変形によってクッションの代わりをつとめます。
つまり、このスポークの素材や造り込み次第で、乗り心地やその特性を変化させることができるのも、エアフリーコンセプトの大きな特徴と言えるでしょう。
また、パンクしないためにスペアタイヤが不要となることも見逃せません。最近はスペアタイヤが非搭載のクルマも増えていますが、それでもパンク修理キットは必要になるわけで、それを不要とすればその分だけ重量削減にもつながり、ひいては燃費や走行性能にプラスとして作用します。特にバッテリーによる重量増が避けられないEVにとってメリットは大きいと言えます。
開発の背景にあるサステナビリティビジネス構想とは?
このエアフリーコンセプトの開発にあたって、背景にあるのが、ブリヂストンが目指すサステナビリティビジネス構想です。
たとえば、タイヤは使うことによって摩耗していき、タイヤの溝がなくなれば、新しいタイヤに履き替えるのがこれまでの常識でした。しかし、エアフリーコンセプトでは路面に接するゴムの部分をリトレッドによる張り替えで対応し、特殊形状スポーク部分は何世代にもわたって繰り返して使うことを前提に開発されているのです。
もちろん、スポークが樹脂である以上、長年使っていけば劣化も進んでいきます。しかし、その場合でもエアフリーコンセプトでは、耐用限度が訪れたら粉砕してリサイクルできるようにして、再び材料として繰り返し活用されることを想定しています。
そもそもタイヤの原料である石油は有限な資源であり、そのサステナブルな社会を実現するためにも、石油の消費を抑えて繰り返し使っていくことが求められます。また、タイヤには天然ゴム以外にもさまざまな構造材や配合剤が加えられており、使用済みとなったタイヤを素材ベースで精密に分解する技術の開発も重要です。
ブリヂストンではさらに天然ゴムの代わりに、砂漠に自生する植物「グアユール」を使う技術も開発中とのこと。これが実現すれば、現在の天然ゴム産地地域への一極集中の緩和につながり、資源の持続可能性を大きく高められる可能性も出てきます。ブリヂストンとしてはこうした活動を通じ、2050年までに「作る、使う、再生」における完全循環を目標としているのです。
路面の突起を超えても不快なショックはうまく吸収してくれた
では、肝心のエアフリーコンセプトの乗り味はどうだったのでしょうか。
試乗は東京都小平市にあるブリヂストンのテストコース「B-Mobility(ビー モビリティ)」で行なわれました。試乗車両はタジマモーターコーポレーションが開発した超小型EV「ジャイアン」。タイヤのサイズは超小型モビリティ向けに開発された「145/70R-12」で、これを4輪すべてに装着し、大人2人が乗車した状態で試乗することになりました。
走り出すと真っ先に感じたのはゴツゴツとした硬さでした。そのままだとイヤだなぁと思いましたが、速度が20km/hを超えるあたりからその印象はなくなり、逆にしっとりとした、落ち着いた乗り心地を感じるようになりました。
路面の突起を繰り返し乗り越えるシーンでは、車体の剛性の低さはあるものの、衝撃に対する不快さはほとんどなし。空気入りタイヤと比べてもほぼ差がないように思いました。
続いて連続するコーナリングでの走行です。ステアリングを切っていくと、リニアに反応して思ったよりもシャープな印象を受けます。これはトレッド部の剛性が高いのとスポーク部の柔軟な動きが功を奏しているのではないかと思いました。ただ、トレッド面のブロックが大きいことが災いしているのか、パターンノイズが速度の上昇と共に大きくなってくるのは気になりました。
今回試乗したエアフリーコンセプトは、高速走行での使用を想定していません。ブリヂストンとしてはSUVやミニバンといった、より重量のある車両への対応もロードマップに含めていますが、実現にはスポーク部分の次元の違う設計が必要になるとのこと。
当面はまず普及が予想される身近な超小型モビリティ向けに市販化し、そこから100%リサイクルが可能な循環型社会の実現を踏み出していく考えのようです。空気を使わない新時代のタイヤの登場を今から心待ちにしたいと思います。
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