2023年10月に開催され、100万人を超える賑わいで成功裏に終えることができた「JAPAN MOBILITY SHOW 2023」。その中で特に人気を呼んだのが中国の自動車メーカー「BYD」です。
BYDとはいったいどんな会社なんでしょうか。今回は、今春にも発売されるBYDのスポーツセダン「シール」の試乗インプレッションも交えてレポートします。
BYDは中国トップのバッテリーメーカー
BYDは1995年、創業者である王伝福氏によって中国・深セン市にバッテリーメーカーとして設立されました。中国での正式名称は比亜迪股份有限公司「略称:比亜迪」。BYDは「Build Your Dream」の略でもあります。
同社が成長するきっかけとなったのは、創業当時、市場から見放されかけていたニッケルカドミウム電池を手がけたことでした。ここでバッテリーメーカーとして頭角を現し、その後は携帯電話やカメラなど向けにリチウムイオンバッテリーを提供してからは世界中から注文が殺到。2008年には中国ナンバーワンの電池メーカーまで成長したのです。
しかし、王氏はバッテリーだけでは成長にいずれ限界が来ると考え、これと並行して自動車事業への進出を決断していました。2003年に中国国内の自動車メーカーを買収し、パワーユニットを三菱自動車から供給を受けることで自動車の生産を開始したのです。
クルマのデザインこそ、先進国車両をまんまコピーするといった状況でしたが、このクルマが大ヒット。そこから自動車メーカーの地位を築き上げることとなったようです。
量産PHEVを世界で初めて発売。2023年は販売台数でテスラを超える
転機となったのは2008年のこと。BYDは世界初の量産プラグインハイブリッド車(PHEV)「F3DM」を発売し、2009年には電気自動車「e6」を発表してEVメーカーとして頭角を現し始めたのです。つまり、創業時からのバッテリー技術があったからこそ、EVメーカーとしての地位をBYDは築き上げることができたといっていいでしょう。
そのBYDが日本市場への参入を発表したのは2022年7月。2023年1月にはミドルレンジSUVとして「ATTO 3」を、9月にはコンパクトハッチの「ドルフィン」を相次いで発売し、JAPAN MOBILITY SHOW 2023では最上位セダン「シール」が2024年春までに発売されることも発表されました。
これまでのところ、爆発的な売れ行きこそ見せていないものの、ハイブリッドが半数を占める日本市場の中で、EVとしての販売台数は健闘している様子。なかでも購入者の6割が40歳代以下となっている傾向も「まずは狙い通りの滑り出し」(BYD)と判断しているようです。
また、2023年の10~12月期のEV販売台数では、それまで世界一だったテスラを抜いたことも伝えられました。欧州や東南アジアでもBYDの人気は高く、その成長ぶりは世界中が注目しているといっていいでしょう。
そんな折の2023年10月、BYDの中国本社を訪問する機会をいただき、その際に注目のシールに一足早く試乗することができたのです。
0→100km/hはわずか3.8秒! 圧巻の加速力を見せたシール
このシールはBYDが日本で展開する3車種の中で最上位に位置するスポーツセダンです。ボディサイズは全長4800×全幅1875×全高1460mmと、全高を低く抑えたスタイリッシュなデザインが特徴。それでいてEVらしくホイールベースは2920mmと長めで、居住性も十分意識された造りとなっています。
インテリアはBYDらしく、大型のディスプレイが目を引きます。ドライバー正面のディスプレイは10.25インチと、ATTO3のほぼ2倍! 中央のディスプレイは15.6インチと、これも12.8インチのATTO3と比べてはるかに大きく、その分だけ見やすくなっていました。
【シールのインテリアを画像でチェック】(画像をタップすると閲覧できます)
パワートレインは、中国国内では後輪駆動のスタンダードと4輪駆動のハイグレードが用意されていますが、日本に導入されるのはハイグレードのみ。前後モーターを合わせたシステム出力は最高出力390kW・最大トルク670Nmにも達し、そこから生み出される加速は0-100km/hをわずか3.8秒です。エンブレムにもそれを意味する「3.8S」が貼られています。試乗もこのタイプで体験しました。
バッテリーにはリン酸鉄リチウムイオン電池を使用した「ブレードバッテリー」を車体に組み込んでボディと一体化するCTB(Cell to Body)技術を採用。これが安全性と安定性の両立をもたらしているそうです。ちなみに電池容量は82.5kWhで、満充電時の航続距離は欧州のWLTPモードで555kmを達成しているとのことでした。
コーナリングスピードも相当に速い!
試乗コースは、中国の珠海(ズーハイ)にあるサーキットの本コースです。走り出しで路面の凹凸をリニアに拾う硬さを感じましたが、本コースに入るとそんな印象は吹き飛ぶような安定した走り。アクセルを踏むと低速域からアッという間に高速域まで到達し、圧倒的な加速力にはスポーツセダンらしい頼もしさを感じました。
中でも秀逸だったのがコーナーでのハンドリングで、意図したコースを正確にトレースしてくれたのです。その安定ぶりは見事なもので、速度が多少出ている状態でも不安なく走り抜けることができました。これは4輪駆動モデルに採用された最新の「iTAC(スマート・トルク制御)」によるトルク制御が功を奏しているものと思われます。
日本でどこまで勝負できるかは未知数なものの、大いに期待
この日試乗したシールは、日本市場向けの右ハンドル仕様で、ほかのBYD車両と同様、ウインカーも右側にセットするなど、徹底したローカライズが実施されていました。
日本での価格は現時点で未発表ですが、中国での価格は27万9800元(日本円換算:約567万円 ※1月9日時点)。日本では700万円前後になるのではないかと見られています。ハイブリッド車が強い日本市場で、この価格帯のスポーツカーがどこまで勝負できるかは未知数ですが、日本での電動化への流れに一石を投じることになるか、動向に大いに注目したいと思います。
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