日本時間の12月15日午前11時、ポラロイド社が新しいiOS用アプリ「Polaroid Swing(ポラロイド・スイング)」の公開を国内で開始した。このアプリは1秒間の動きを撮影し、簡単にFacebookやTwitterなどに投稿・共有ができることが特徴。同様の機能としては、アップルがiPhoneに提供している「LivePhoto」がある。そのLivePhotoとの相違点、そしてポラロイド・スイングが目指しているものはなんだろうか。
今回、ポラロイド・スイングの開発チームを率いるトミー・シュタドレン氏に話を伺った。
人間の記憶に近いフォーマットで保存する
1秒という短い動画を撮影できるポラロイド・スイング。なぜこのようなアプリを開発するに至ったのだろうか。
「人間の脳は現実世界を記憶にとどめるときに、瞬間を静止画として、または動画のように長い時間を捉えるよりも、短い瞬間を捉えるようになっています。その人間の脳の記憶に近い1秒間の記憶というものを、高品質で記録することを可能にするために、ポラロイド・スイングを開発しました」(シュタドレン氏)
例えば、風になびく髪、野球でホームランを打った瞬間、動物のかわいらしい仕草。その瞬間は、人間は静止画ではなく短い動画で記憶している。それを再現するアプリなのだ。
だが、これだけならば、アップルのLivePhotoがほぼ実現している。ポラロイド・スイングはLivePhotoと何が違うのだろうか。
「まず、イメージそのものが高品質。60fpsというフレームレートで記録していますが、特殊なアルゴリズムを採用することでなめらかな動きを再現しています。もうひとつが、インタラクティブであるということ。画面をスワイプ、またはiPhone自体を傾けることで静止画が動き出します。単純に“見る”という受動的な体験ではなく、自分で“動かす”という能動的な意図が発生すること。そして、1秒間というつかの間の写真であるということです」(シュタドレン氏)
百聞は一見にしかず、ということで、実際にアプリを使って撮影したセルフィー画像を見て頂こう(※)。画面をスワイプ、またはスマートフォンを傾けることで写真が動く。PCの場合は、カーソルを画面にのせて動かすだけだ。
※:写真が表示されない場合は、オリジナルサイトをご覧ください。またスマートフォンの機種によってはうまく表示されない場合があります。スマホの縦画面ロックを解除して、横画面にすると表示される場合があります。
各種フィルターも用意されており、撮影時にリアルタイムで効果を確認することも可能となっている。
ポラロイド・スイング自体がSNSのプラットフォーム
それ以外にも大きく違う点がある。それは、ポラロイド・スイングがSNSのプラットフォームであるということだ。撮影した“1秒の動画”は、ポラロイド・スイングの提供するSNSにアップされ、自分のタイムラインに表示される。そこから、FacebookやTwitterなどの各種SNSやブログなどにリンクを埋め込むことができる。つまり、簡単に共有ができるのだ。もちろん、他のユーザーをフォローすることでそのユーザーの投稿した“1秒の写真”を見ることも可能になる。つまり、ポラロイド・スイングを通じて世界中のユーザーとつながることができるようになるのだ。
なお、SNSのなかでもInstagramに関しては、専用のフォーマットとなっており、スワイプや本体を傾けての操作は不可能。自動的にループする動画という形式で公開される。
写真をリイノベーションしたものがポラロイド・スイング
ポラロイドは、1960年代に世界的に一世を風靡したインスタントカメラを発明した企業。そのポラロイドが、なぜこのようなアプリを開発するに至ったのだろうか。
「毎日30億以上の動画や静止画がインターネットには公開されています。そのなかには、ノイズのようなものもたくさん紛れ込んでいます。そのなかで、それぞれの人たちに響くような形での新しい世界の見方というものを提供したいと思っています」(シュタドレン氏)
その新しい世界が“1秒の写真”だ。ポラロイド社ではこれを「ポラロイド」と呼んでいる。
「ポラロイドの創設者であるエドウィン・ハーバード・ランドは、撮影した写真をその場で見られるという、インスタントカメラをいう新しいメディアを開発しました。それをスマートフォン的にリイノベーションしたのがポラロイド・スイングであるということ。写真があり、ビデオがあり、ポラロイドがあるというわけです」(シュタドレン氏)
写真でもない、動画でもない、新しい視覚メディア。それがポラロイド・スイングなのだ。
ポラロイドが日本を重要視する理由
ポラロイド・スイングは、すでにアメリカではパブリックベータ版を公開。しかし正式版は15日の日本公開と同時となっている。それだけ、日本というマーケットを重要視しているということだ。なぜ、日本のマーケットを重要視しているのだろうか。
「写真という世界において、日本はイノベーターであったという長い歴史があります。また、新しいツールを使いこなす点においても、ひとつ先を進んでいると感じているため、需要なユーザーになると思っています。そのため、日本向けの機能としてアルゴリズムの強化、そして各ユーザーが投稿したポラロイド・スイングにコメントを付ける機能を提供しました。これを実装するために、世界における正式公開を15日までお待たせすることとなりました」(シュタドレン氏)
世界公開を日本に合わせる。それだけ、日本のマーケットを大事にしているというのがわかる。
「思いもよらない使い方が日本から出てくる可能性があると思います。それを楽しみにしています」(シュタドレン氏)
日本ではモデルの松井エミリがポラロイドとパートナーシップを結んでおり、彼女が撮影したポラロイド・スイングが公開されている。
松井エミリの公開しているポラロイドがこちら。
ポラロイド・スイングのビジネス的戦略
ポラロイド・スイングは無償で提供されるアプリだ。そのため、シェアは伸びるだろうと予想できるが、ビジネス的にはどうしていくのだろうか。
主な戦略は2つ。ひとつが、さきほど説明したプラットフォームビジネスとしての展開。ユーザーが増加しメディアとして大きくなることで、広告媒体として活用されるようになると予想される。
もうひとつが、さまざまなメーカーのブランディングの場となること。つまり、メーカーとポラロイドが契約をし、“1秒の写真”での情報発信を行う契約をするのだ。すでにアメリカでは、パブリックベータ版を公開してから問い合わせが多くあり、ブランドパートナーとなっている企業もあるようだ。
また、ポラロイド・スイングのフォーマットをほかのメディアやアプリでも活用してもらうことも考えられている。その一例が、音楽アルバムのアートワークだ。
「100年以上、アルバムのアートワークは変わっていません。しかし、ポラロイド・スイングを使えば“動くアルバムアートワーク”が作れるのではないかと。例えばSpotifyなどにポラロイド・スイングを埋め込めるようになれば、非常に楽しくなりますよね」(シュタドレン氏)
Instagramが広告媒体として、またはメディアの情報発信の場として機能していることを考えると、ポラロイド・スイングがそれ以上のプラットフォームになる可能性も充分あり得るだろう。
ハードウェアの開発も視野に
ポラロイドは、デジカメなどのハードウェアも手がけている。もしかしたら、このポラロイド・スイングの機能を搭載したカメラやスマートフォンなどの開発もあり得るのではないだろうか。その質問にシュタドレン氏はこう答えた。
「サンフランシスコにあるR&Dセンターでは、ハードウェアの開発も行っています。2017年中には何かしらの発表ができるのではないかと思っています」(シュタドレン氏)
もしかしたら、ポラロイド・スイングの機能をフィーチャーしたスマートフォンが登場するかもしれない。そうなると非常に楽しくなりそうだ。
独創的な使い方が生まれるかもしれない“1秒の写真”
最後に、シュタドレン氏から日本のユーザーに向けたメッセージを伺った。
「日本のユーザーがポラロイド・スイングを使って、いろいろな形でクリエイティブな使い方を考えてくれるだろうと考えています。ポラロイド社のホームフィードでは、毎日“日本のベストショット”を10枚選んで公開する予定です。また、ポラロイドがオススメするフィーチャーアーティストに選ばれれば、アカウントをグローバルに紹介します。ぜひ、日本のみなさまにも活用していただきたいと思います」(シュタドレン氏)
実際にポラロイド・スイングを使ってみると、その高画質さと使い勝手のよさに、LivePhotoとの違いを感じる。LivePhotoは撮影はできるものの、共有する手段が少ない。しかしポラロイド・スイングは、それ自身がSNS機能を持ち、ほかのSNSへの共有も可能。6秒動画の「Vine」のように、独特な使い方をするユーザーが生まれる可能性も高い。
インスタントカメラという新しい写真を開発したポラロイドは、21世紀の新しい表現方法“1秒の写真”を生み出した。2017年、この“1秒の写真”が「ポラロイド」と一般的に呼ばれ、当たり前の存在になっていくかもしれない。
公開されたiOS版ポラロイド・スイングは、iPhone 5s以降の機種に対応。AppStoreからダウンロードすることができる。Android版アプリの開発も進んでおり、2017年のそう遅くない時期に公開を目指しているとのこと。Androidユーザーはもう少しだけ待とう。
写真でもない、動画でもない、新しいフォーマット。今後どのように活用されていくのかは、我々の創造力次第だ。