Vol.135-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはNetflixで記録的なヒットとなっている実写ドラマ版「幽☆遊☆白書」。オリジナル作品といえばNetflixとなっているが、何がほかと違うのかを解説する。
今月の注目アイテム
Netflix
幽☆遊☆白書
© Y.T.90-94
Netflixが創業したのは1997年。実はもう創業から25年を超えており、新興企業とは言えない。当初彼らはDVDの宅配レンタルをしており、配信へと舵を切ったのは2007年のこと。そして、オリジナルコンテンツ制作を差別化点に定めたのは2013年のことである。
すでに同社のオリジナルコンテンツ路線は10年を超えた取り組みであり、かなりの歴史を持っている。だから「ネトフリといえばオリジナル作品」、というイメージを持っている人は多いのではないだろうか。ほかの映像配信事業者がオリジナル作品で勝負するようになったのも、Netflixの成功に影響された部分が大きい。
一方で、オリジナルコンテンツへの投資がNetflixから始まったことだったのか……というと、そうでもない。この方針を始めたのは、アメリカの大手ケーブルテレビ局である「HBO」だ。2000年前後から大規模作品を作るようになり、そのヒットがHBOをプレミアムな存在へと引き上げた。「バンド・オブ・ブラザース」や「ゲーム・オブ・スローンズ」などが代表作だ。こうした流れを「放送でなく配信」で真似て拡大したのがNetflix……ということになる。
ただNetflixが開始し、ほかの配信事業者がなかなか真似できていないこともある。それが「コンテンツを世界中から調達し、世界中に配信する」という手法だ。
アメリカで生まれたサービスの視点で見れば、本国には「ハリウッド」という世界最大のコンテンツ供給地域があり、交渉も制作もしやすい。各地域向けのコンテンツはもちろん必要だが、普通に考えれば、その大半は各地域での消費が中心になる。だから「ワールドワイド配信契約」は必須ではない……。そう考えるところが多かった。
だがNetflixは、多くの国でコンテンツを「ワールドワイド配信契約」で調達した。その分コストもかかるし交渉も大変になる。すべてのコンテンツで交渉がうまくいったわけではないが、同社が制作出資したり、独占配信権を得たりした「Netflixオリジナル」については、ワールドワイド配信を主軸とした。
理由は「他国から見ると、そのコンテンツがどこの国で生まれたかはあまり関係ない」という分析があったためだ。適切に露出できれば、アジアのコンテンツを南米で見せたり、ドイツのコンテンツをアジアで見せたりしても問題ない。吹き替えや字幕をちゃんと整備すれば、コンテンツを増やすうえでは非常に有用な策になる。
放送やディスクがメインの頃は、コンテンツを売る国を増やすのはおおごとだ。物流や各国の放送システムへの対応が必須だからだ。しかし配信ではそうではない。契約さえできれば、配信対象国を増やすのは簡単。あとはインターネットさえつながっていればいい。
現在は「イカゲーム」(韓国)「ルパン」(フランス)「幽☆遊☆白書」(日本)など、多数の国から世界的ヒットが生まれている。
一方で、この手法は、最初そこまで評価されていなかった。世界的な注目を浴びる作品は少なく、肝心の制作地域からも“イマイチ”とされる場合が多かったのだ。それがどう変わったのか? その辺は次回解説しよう。
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