サイバーエージェントといえば、インターネットの広告事業やゲーム、放送・映像配信の「ABEMA」が思い浮かぶ。しかし、2015年からeスポーツイベント『RAGE』を手がけ、2023年には人気動画クリエイターのコムドットが総合プロデュースを務めた動画クリエイターの夢の祭典『Creator Dream Fes ~produced by Com.~』(以下、Creator Dream Fes)を東京ドームで開催。その流れで2023年10月、サイバーエージェントに興行本部が設置されることになった。今回は、サイバーエージェント興行本部本部長の大友真吾氏に興行ビジネスが生まれた背景、今後の計画についてうかがった。
2023年コムドットプロデュース『Creator Dream Fes』は東京ドームで大成功!!
──2023年10月、サイバーエージェントに興行本部が設置されることが発表されました。その中心となる人物が大友さんですが、まず簡単な経歴を教えていただけますか。
大友 私のキャリアは、2007年にサイバーエージェントに新卒で入社し、2009年スマートフォンに特化した広告マーケティング事業やメディア事業などを取り扱うサイバーエージェントグループ子会社、株式会社CyberZの役員に就任し、立ち上げに関わりました。そのCyberZで広告ビジネス以外の新規事業のチャレンジを行うようになり、2015年頃からeスポーツ事業を立ち上げました。これが興行ビジネスとの出会いですね。
──そのeスポーツ事業が国内最大級の大会『RAGE(レイジ)』ですね。『RAGE』立ち上げの経緯はどんなものですか。
大友 私たちはeスポーツの興行ブランドとして『RAGE』を立ち上げました。これまでに約30タイトルほどのゲーム会社様と共に大会やリーグ、イベントを開催し日本のeスポーツの発展に力を注いできました。
2022年5月に開催したタクティカルFPSゲーム『VALORANT』の有観客イベント『RAGE VALORANT 2022 Spring』では、当時のeスポーツイベントでは国内最大規模の動員数となる1万3000人を達成し、6月にはさいたまスーパーアリーナ2DAYSを満席にするほどの制作・運営実績ができていました。
ちょうどそのタイミングで、映像事業の「ABEMA」から新たな収益事業として、興行などのイベントをやれないかという起案があり、興行ビジネスへの機運が高まりました。興行本部の設置は、このような成功事例と「ABEMA」の経営の多角化が背景にあります。
──2015年の段階でeスポーツに目をつけたキッカケは?
大友 2014年ごろ、CyberZは『OPENREC(オープンレック)』というゲームに特化したライブ配信プラットフォームを作りました。これは海外の『Twitch』というライブ配信プラットフォームのようなものです。CyberZの広告事業のお客様にはゲーム企業が多かったこともあり、新たなメディア事業としてゲーム配信プラットフォームに参入したのが背景です。
そのメディアビジネスのコンテンツの1つとして、eスポーツがありました。日本ではまだeスポーツがそこまで普及してない時期でもあり、自分たちでeスポーツの大会ブランドを立ち上げることができれば一番になれる参入余地がまだありました。それが『RAGE』ですね。
──まさに先見の明ですね。さらに昨年、人気動画クリエイターのコムドットがプロデュースした『Creator Dream Fes』が東京ドームで行われました。このような実績を重ね、いよいよ23年10月の興行本部設置となるわけですね。
大友 一番大きかったのは『Creator Dream Fes』ですね。手応えを感じたイベントでしたので、体制を強化したらもっと大きなビジネスに発展できるのではないかと思い、経営幹部と一緒に藤田(サイバーエージェント取締役社長)へプレゼンを行い提案しました。そこから今のサイバーエージェント全社の興行イベントを担う“興行本部”の立ち上げが決まりました。
──その『Creator Dream Fes』はどのように成功に導けたのでしょう。
大友 イベントプロデュースを務めていただいたコムドットのやまとさんが軸となり、彼の持つ“熱量”を出演者の皆さん、制作運営スタッフみんなで共有し、全員が「絶対成功させる」という同じ目線でやり切ることができたからではないでしょうか。また、コムドットの皆さんに寄り添い、彼ら5人が実現したいことに向けて一緒にイベントを作り上げるというプロセスを大変な場面含めてご一緒できたこともよかった部分だと思っております。他にも、動画クリエイターをはじめとした多くのキャストが出演してくださったおかげで規模感を出すこともできました。
公演チケットの販売からイベント・グッズの企画制作、「ABEMA PPV ONLINE LIVE」での配信など、あらゆるセクションが1つのチームに揃っているという私たちのアセットは、出演者、IPホルダーにとってもメリットを多く作れるのでよかったですね。
チケット収入に加え、グッズ、ペイパービュー、協賛タイアップで収益化をはかる
──話せる範囲で興行はビジネスとしてどれぐらい利益が出るんでしょうか。
大友 eスポーツは、2015年当時に比べると、収益性は大きく改善し、投資フェーズから収益フェーズに動き始めています。
──今後はどのように収益化を考えていますか。
大友 基本的には制作コストを公演のチケット収入で、リクープラインからプラスにしていきたいと思っています。さらに大きな利益を狙うためには、グッズ販売をはじめ、「ABEMA」というメディアを活かしたペイパービュー配信チケットの売上拡大を基盤としながらも、我々の得意領域でもある広告の協賛タイアップなども考えております。
イベント協賛に関しても、会場でのサンプリングやロゴ入りグッズ配布などフィジカルなものだけでなく、メディアをうまく活用した我々ならではの提案を心がけています。協賛いただく企業様にしっかり効果をお返しできるように、RAGEでも培ってきた“広告価値を高める”協賛タイアップのノウハウをこの部門でも横展開していき「デジタル×フィジカル」の新しいタイアップ商品開発をしていきたいと考えております。
──なるほど。メディアミックス、タイアップ商品開発などはサイバーエージェントならではですね。
大友 プラス、私たちがやっていきたいことはコンテンツホルダー、IPホルダーへの収益還元の最大化です。これはチームのミッションとしても挙げています。私たちだけで儲ければいいのではなく、収益還元をしっかりと作り上げ「来年またぜひやりましょう」という世界観を作っていきたいですね。
──コンサート、芝居、スポーツイベントなどの旧来の興行と、今回のサイバーエージェントの興行本部との違いはあるのでしょうか。
大友 これまで興行をしている企業とeスポーツを含めても7〜8年の私たちでは、そもそもの歴史が違います。イベント制作のノウハウや会場を押さえる力など、我々が劣っている点はあるかと思います。ですが私たちには、既存の企業とは違うインターネットやメディアを最大限に活かした企画やプロモーション/デジタルを活用した新たなマネタイズ手法を提案・実行できる力を持っていると考えています。
──今までの興行のメインは、野球、サッカー、映画、演劇などでした。そういう分野にビジネスとしての興味はありますか?
大友 そうですね。私たちがその分野に参入することで、コンテンツホルダー、ビジネスパートナーの皆様にとって何かしらのプラスを作れるイメージや戦略ができれば検討し、トライしたいと思っています。ですが、なんでも闇雲に手を付けるわけではなく、我々の強みである“デジタルの力”を最大限に活用できる新しい興行モデルを作りあげることが当面の方針であり課題だと感じております。
24年も『Creator Dream Fes』など大型イベントが盛りだくさん
──では、今年興行本部でやるイベントにはどんなものがありますか?
大友 大きなイベントは5つぐらい計画していますが、今言えるのは2つほどです。1つは、第2回となる『Creator Dream Fes』です。8月10日(土)、今年も東京ドームで開催します。2つ目は、5月25日(土)、26日(日)の2DAYSで代々木第一体育館にて開催する『hololive GAMERS fes. 超超超超ゲーマーズ』があります。
──それぞれの見どころを教えてください。
大友 『Creator Dream Fes』はコムドットの皆さんを中心にクリエイターの方と一緒に作り上げるフェスで2回目の開催となります。期待値が上がりますが、前回を超える品質を担保したいと思っています。また、今年は、コムドット5人で作った楽曲を披露するのが、1つの目玉コンテンツとなります。
──5月のVTuberによる『hololive Gamers fes〜超超超超ゲーマーズ』はいかがですか。
大友 VTuberプロダクションであるホロライブに所属するホロライブゲーマーズという、ゲーム配信に特化した4人組ユニットが初めて開催するリアルイベントとなります。『超超超超ゲーマーズ』というタイトルも彼女たちが決め、イベント内で販売するフードのプロデュースにも協力いただきました。
VTuberは日本発のコンテンツですが、その勢いは国内にとどまらずここ数年は海外からも多くの注目を集めています。こういった新たなエンタメ市場を発展させるためにIPホルダーをはじめ、タレントの皆様、ファンの方々の期待を上回るような新たなVTuberイベントを開催していきたいですね。
『Creator Dream Fes』もそうですが、本人たちが本気で私たちと一緒に作り上げてくれる、目線が合っているということが一番大事だと感じています。『RAGE』や他のゲームイベントで培ったノウハウをVTuberの興行イベントで活かせることができればうれしいですね。
──ABEMAの番組から興行を考えることはあるのでしょうか?
大友 「ABEMA」のアニメLIVEチャンネルで開局から放送している『声優と夜あそび』という人気声優さんたちが多数出演するレギュラーバラエティ番組があります。こちらは2020年ごろから定期的にイベントを行っていたのですが、2022年からは『声優と夜あそびフェスティバル』と題して、大きな会場でも開催しています。ほかにも「ABEMA」の番組で、現在企画が進行しているものもいくつかあります。
ペイパービューも好調! 海外展開も視野に入れる
──オンラインライブの番組にお金を払って見る、ペイパービューに関してはどうですか?
大友 私たちは、VTuber、『RAGE』などのゲーム関係、「ABEMA」のコンテンツでいうとアニメなど、海外進出の可能性を持つジャンルの興行イベントをメインに仕掛けていきたいと考えています。これらのジャンルは海外でも通用すると考えており、2024年1月に有明アリーナで開催された格闘技イベント『ONE 165: Superlek vs. Takeru』に合わせて「ABEMA」からリリースした、グローバル向けの新しいオンラインライブプラットフォーム「ABEMA Live」も積極的に活用していきたいと考えています。日本国内のイベントを、ペイパービューとして海外にも配信していきたいですね。
──イベントの海外配信というのは、難しいものなのでしょうか?
大友 権利処理などは複雑な部分もありますが、今回「ABEMA Live」をリリースするにあたって、参入国のエリア、対象の国ごとの法律をきちんと理解した上で、権利処理を行い配信しています。私たちとしては、IPホルダーに寄り添う形で、現地で問題が起きないようにしっかり対応していきたいと思っています。
ファンの声が興行の醍醐味! 将来的に100万人動員を狙う
──大友さん自身は興行ビジネスにどんな魅力を感じていますか。
大友 今まで私がやってきたインターネット広告ビジネスでは、広告の届け先であるユーザーの声や表情が見られることはほとんどありませんでした。一方、興行ビジネスでは、ユーザーの反応や表情が直接見えることがなによりの醍醐味だと思います。さらに興行だと、私たちがIPホルダーと一緒に考えて作り上げてきたものが、チケットの券売というわかりやすい指標で評価されます。SNSには「楽しかった」「ここが微妙だった」と投稿され、ダイレクトな感想がわかります。会場では、生のファンの表情、リアクションが見られます。これこそが興行ビジネスのやりがいです。
「興行・イベントに足を運ぶ」ということは非常にハードルが高く、エンターテインメントの消費活動の中でも最上位に近いと思います。YouTubeやテレビであれば、どこでも無料で楽しめます。しかし、興行イベントはお金を払って、この日、この時間、この場所に行かなければいけません。ファンは2時間〜3時間の興行に1万円以上の金額を払って、遠方から来るんです。そう考えるとファンの方の熱量は本当に高いですね。「イベントに行く」という消費行動を取らせるためのプロモーション、マーケティング自体にもやりがいを感じますし、何よりきてくれたファンの満足度を大切にすること。これに尽きると思います。
──今後、興行を進めるにあたり、展望や目指すところはありますか?
大友 今後の戦略に近い話ですが、私たちは「インターネット×新しい興行」に取り組んでいきます。それが活かせる分野はここ数年で生まれてきた新しいエンターテインメントです。具体的にはVTuber、バーチャルシンガー、eスポーツ、ゲーム実況などですね。また、2023年6月にサイバーエージェントグループの参画に入りました2.5次元ミュージカル業界のトップランナーであるネルケプランニングさんとも何か生み出せるといいなと思ってます。
このようなコンテンツを、「ABEMA」を中心とした弊社グループのアセットをうまく活用することで、より多くの人に届けたり、より多くの収益を生み出せるようにしていきたいです。そうすればイベントのIP、ファンの体験価値も高まると思います。
わかりやすく言うと音楽なら『フジロックフェスティバル』、ファッションなら『東京ガールズコレクション』のように、「eスポーツなら『RAGE』」「動画クリエイターの祭典であれば『Creator Dream Fes』」というように、新たなエンタメ産業でファンが熱狂する新しいイベントを国内外問わず作っていくチャレンジをしていくつもりです。
──一番になるため、そのジャンル初に手を付けていくんですね。
大友 そうですね。長期的な目標としては国内だけでなく海外です。日本のエンターテインメントコンテンツは海外でも十分に通用しますし、実績、経験を積みながら、将来的には海外に広げたいです。
──eスポーツイベントの海外展開はどう考えていますか?
大友 eスポーツの先進国は、北米圏、中国、韓国などが挙げられますが、今、私たちの価値が求められているのは、日本のような発展段階にある東南アジア地域が特に多いと感じています。現在、人口が多く、日本以上にゲームに熱狂しているポテンシャルの大きい東南アジア地域における「日本のエンタメ×eスポーツ」の進出を計画しています。
──かなり大規模なプロジェクトをたくさん抱えられていますが、大友さん自身のモチベーションはどこから来ていますか?
大友 自分自身、学生時代からチームスポーツをやっていたからか、もともとチームで大きなことを成し遂げることに楽しさを覚えるタイプなんです。サイバーエージェントに入社してからも、チームで大きなチャレンジをしているとき、アドレナリンが出ているのがわかります。
サイバーグループにいるからできることもあるので、私自身も「ABEMA」やサイバーエージェントというアセットを最大限活用させてもらい、個人では絶対できないような大きな挑戦をやっていきたいです。
──最後に、将来的な目標を具体的な数字で教えてください。
大友 2023年は、eスポーツの有料の観客数だけで、年間10万人〜15万人ほどだったかと思います。将来的には、我々が手がける全ジャンルのイベントで年間100万人動員を目指せるといいなと考えています。もしドームツアーができるイベントがあれば、それだけで20〜30万人は見込めます。都心で一定の成功を収めたら、全国にも展開させていきます。実際に2023年から『RAGE』が制作するイベントでも大阪公演がスタートし、2024年3月には名古屋公演を行いました。あとは海外でも実績を作ることができればそのサイズは桁が変わってきますよね。
──大友さんの計画を聞いていたら、100万人動員は軽々クリアできそうですね。これからもサイバーエージェントの「インターネット×新しい興行」でいろんなイベントが見られることを期待しています。本日はありがとうございました。
構成・撮影/丸山剛史 取材・文/松本祐貴