日本の時計界はソーラーGPSウオッチと機械式時計の開発で熾烈な争いを繰り広げていますが、機械式時計を自社製造できるメーカーは世界でもごくわずか。その希少な製造体制を持つ国産3社の同価格帯のモデルを比較しました。
機械式時計の真価はムーブメントに現れる
先進テクノロジーの象徴がソーラーGPSウオッチなら、機械式時計はまさにアナログの極み。ですが、腕時計の駆動方式の原点だけあって人気は根強いです。何より、定期的な電池交換が要らず、何十年経っても修理できるという利点は、それだけで所有する価値があります。
国産腕時計の歴史は、1913年にセイコーが発表したローレルで幕を開けました。当時の製品こそ舶来時計の影響を強く受けていましたが、1960年代後期には本場スイスの有名ブランドを脅かすほどの高精度時計を手がけるようになったのです。
ここに取り上げたのは、機械式時計を自社製造できる国産3社の最新作。10万円前後の価格ではムーブ性能や外装の品質に圧倒的な差はないものの、パワーリザーブの長さにセイコーの優秀性が窺えます。シチズンは、コストパフォーマンスの高さが印象的。特殊機能を持つオリエント時計の新作は、やや高級志向となっています。
【機械式時計とは ?】
機械式時計は、ゼンマイの解ける力を動力源とし、地板と呼ばれる金属板の上に組まれた歯車と、その軸上に取り付けられた針を動かします。歯車の終着点には脱進・調速機があり、これが歯車の回転を制御して精度を一定に保つ仕組み。1日で±数秒から数十秒の誤差は生じますが、部品が金属なので何年経っても修理できるなどの利点があります。
脱進・調速機は、振り子の等時性を応用した極小パーツの集合体。機械式時計の精度を司る心臓部です。
【その1】
文字盤の模様に上質感が漂う実用重視の一本
シチズン
シチズン コレクション NP4080-50L
5万4000円
直線的なケースラインと文字盤中央の模様が特徴的な一本。3時位置の小窓では日付と曜日を表示します。曜日は欧文・和文で切り替え可能。
カレンダーの小窓はメタルの縁取り付き。文字盤中央の模様と合わせて、上質な雰囲気に仕上げてあります。
【ムーブ性能】
シチズン伝統の耐震装置「パラショック」を装備
1956年に発売した時計が備えていた、国産初の耐震装置「パラショック」を本機も継承。耐久性の高さに加え、自動巻き上げローターや受け板の仕上げも凝っています。日付と曜日は、リューズでダイレクトに調整可能。
【ムーブメント全体】
パワーリザーブは最大約40時間。自動巻きローターの設計が個性的です。
【脱進・調速機構】
軸が壊れやすいテンプを「パラショック」で支持。精度は日差-20~40秒です。
【外装仕上げ】
価格以上の価値が感じられる絶妙な設計
直線デザインが多用されており、全体はシャープな雰囲気。ややエッジの立ち方が甘いものの、価格を考慮すれば許容範囲といえます。スーツに合わせるなら、本機ぐらいの仕上げのほうが生地を傷めずに済みそう。
【文字盤の質感】
文字盤は三段階で仕上げを使い分けた手の込んだ作り。視認性も高いです。
【ケース&ラグの造形】
躍動感が出るHコマのブレスを採用。絶妙な鏡面仕上げで高級感を演出します。
【総括】
隙のない作りでコストパフォーマンスに優れる
基本スペック 4/5
ムーブ性能 4/5
外装仕上げ 3.5/5
コスパ 5/5
手をかけるべきところをきっちり仕上げた外装が見事。シチズンらしさが楽しめる「パラショック」に、日付・曜日表示も装備。これで5万円台なら十分に満足できます。
【その2】
針の動きが楽しい特殊機構付きドレスウオッチ
オリエント時計
オリエントスター WZ0091DE
12万9600円
日曜日から月曜日への移行時に針が一瞬で切り替わる「レトログラード」式曜日表示を装備。機械式時計の醍醐味が楽しめる多針モデルです。
レトログラード式の曜日表示を大きく配置。主文字盤と異なる装飾を施し、存在感を際立たせています。
【ムーブ性能】
特殊機構を受け板でしっかりガード
強いバネの力が必要なレトログラード式の機構を搭載しているためか、ムーブメント裏側はテンプの振動が見える程度。代わりに受け板にはしっかりペルラージュ仕上げを施すことで、価格に見合う高級感を演出しています。
【ムーブメント全体】
パワーリザーブは40時間以上。残量は文字盤12時位置に表示されます。
【脱進・調速機構】
テンプの振動数は毎時2万1600振動の標準速度。精度は-15秒~+25秒です。
【外装仕上げ】
しっかり手間をかけた細部に高級感が漂う
立体的なインデックスをはじめ、文字盤の各部に細かい仕事が見られます。機能を際立たせた文字盤は、審美性とともに視認性も高めた技アリのデザイン。7連ブレスは、緻密に仕上げを使い分けた非常に手の込んだ作りです。
【文字盤の質感】
複数の仕上げが渾然一体となり、様々なブルーの色味が楽しめます。
【ケース&ラグの造形】
7連ブレスは可動域が広く、着け心地はしなやか。ラグの造形はシンプルです。
【総括】
搭載機能を考慮すれば十分納得できる価格
基本スペック 3/5
ムーブ性能 4.5/5
外装仕上げ 4/5
コスパ 4/5
海外製なら30万円以上が当たり前のレトログラードを10万円台で実現した点が高評価。防水性は唯一の5気圧ですが仕上げも美しく、広く時計業界を見渡せばコスパは高いです。
【その3】
100年にわたる機械式時計製造の伝統を継承
セイコー
プレザージュ SARX041
8万1000円
グローバルブランドとして再出発するプレザージュの基本モデル。文字盤は1913年に発売した初の腕時計「ローレル」の意匠を再現しています。
100年以上前に手がけた「ローレル」に倣い、数字の12を赤く表記。書体も当時と同じものです。
【ムーブ性能】
コストパフォーマンスの高い名機6R15を搭載
リーズナブルなセイコーの製品に数多く搭載される6R15キャリバーを本機にも採用。50時間パワーリザーブに加え、セイコーが考案した高効率巻き上げ構造「マジックレバー」も備えており、安定した駆動を約束します。
【ムーブメント全体】
汎用ムーブメントの名機6R15。仕上げは簡素なものの、信頼性は極めて高いです。
【脱進・調速機構】
テンプがシルバーという珍しい仕様。精度は-15秒~+25秒と、標準的です。
【外装仕上げ】
文字盤を際立たせるポリッシュベゼル
本機の見どころである文字盤を引き立てるため、ラグ上面はヘアライン仕上げに。ベゼルは鏡面仕上げで光沢感を持たせ、白文字盤の爽やかさを強調しています。クロコダイルストラップは肉厚で上質な印象。
【文字盤の質感】
ヘリンボーン柄のような素材感を文字盤に再現。時分秒針は繊細な青針です。
【ケース&ラグの造形】
長めに設計されたラグは、手首に沿うように湾曲。フィット感を高めています。
【総括】
すべてが高水準を満たしたお値打ちモデル
基本スペック 3.5/5
ムーブ性能 5/5
外装仕上げ 4/5
コスパ 4.5/5
10万円以下の時計に求めるには十分なスペックと品質。100年以上前の時計をモチーフにした点で好みが分かれるところですが、価値がわかる人には破格の一本といえます。