近年のイタリアでは、日本のホッチキスに注目が集まっています。ホッチキスはイタリアでは一般的に「ステープラー」と呼ばれていますが、イタリアのステープラーは形状や使い方が日本製のホッチキスとまったく違うことをご存知ですか? 両者を比べながら、イタリア市場に攻勢をかける日本式ホッチキスについて現地からレポートします。
頑丈だけど重くて硬いイタリア式
イタリアと日本のステープラーには、下記のような違いがあります。
日本式は、ホッチキスの綴じ口を親指と人差し指で挟み、指先の力で握りしめるハンディタイプが主流です。一方でイタリア式は、綴じ口の反対側にハンドルがついており、そこを握りしめて留める機能のプライヤー(ペンチ)タイプ。針を入れる部分に棒状のバネが付いていて、それを挿入して針を固定します。
実際に筆者が使ってみた感想としては、イタリア式ステープラーはメタル製で頑丈ですが、重くてハンドルが硬く感じられました。針も小さいので、力を使う割にはあまりよく留まりません。イタリアに住み始めた当初、事務手続きの際にイタリア人が手元をひねってハンドルを握り、書類を留める作業を見て、正直違和感を覚えていました。
使い慣れているせいかもしれませんが、自分で試してみてもやはり日本式ホッチキスのほうがずっとラクに感じられます。
「KAWAII」や「針なし」で攻める日本式
イタリアでは国内文房具メーカーのBALMA(バルマ)社が手掛けるブランド「ZENITH(ゼニス)」のステープラーが人気で、多くの人に使われています。ただし、近頃は日本式ホッチキスもじわじわと市場に浸透しつつあり、AmazonやMUJI(無印良品)などのネット販売や、おしゃれな文具ショップなどで購入が可能です。
フリクションボールペンやポスターカラーマーカーなどが持つ機能性や品質が話題となり、近年のイタリアでは日本製文房具がブランド化しています。また日本の「KAWAII(かわいい)」トレンドやファンシーなイメージから、日本式ホッチキスのデザインや色味もイタリア人の心をつかんでいるようです。
さらに、日本式ホッチキスのさらなる進化形として「針なしステープラー」も注目されています。綴じ部にギザギザの歯がセットされ、そこに圧力をかけることで用紙を綴じるタイプで、文房具メーカーのコクヨやプラスがネット販売しています。
いまでは身近な文房具になったステープラーはイタリアでは1948年、日本では1952年にそれまでの卓上型から小型化され、イタリアからは欧米へ、日本からはアジアへと普及。小型化はほぼ同時期だったものの、イタリアでは従来の仕組みと材質のまま70年以上使われ続け、日本では針なしへと進化を遂げ世界中で売られるようになりました。
どちらが優れているとは言えませんが、ありふれた文房具でも国によって異なるケースとなった興味深い事例ではないでしょうか?
執筆・撮影/Ciho