Vol.137-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは開発が進む「画像生成AI」。ビジネスで使う生成AIコンテンツにおける課題とアドビの解決策を解説する。
今月の注目アイテム
Adobe
Firefly
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生成AIを使ううえで課題になるのは、「生成されたものが問題なく使えるものなのか」ということだ。
著作権上の問題がないか、ということに注目が集まりがちだが、課題はそれだけではない。絵が不自然だと使いづらいし、デザイン的に求めるものである必要もある。
広告などのために必要なコンテンツの量は増えており、すべてを人の手で作るのは難しくなっている。昔はシンプルな広告用GIFくらいで済んだが、現在はWebの形やSNSの種類、メールとフォーマットも多彩。さらに、消費者を細分化してそれぞれに合わせたコンテンツを用意する必要も出てきている。
そうなると、基礎となる部分はアーティストが作り、そこからのフォーマット変更やちょっとした加工はAIを使って効率化する……というパターンが必須になってくる。
だとすれば、目的に合ったデータができあがりやすいツールと、作ったものを簡単に管理するツールの両方が必要になる。
これは、Photoshopでアーティストがひとつずつ作品を作ることとは少し異なる。
ベースとなる部分はやはり人が作るのが基本だ。だが、その過程で作業を楽にするには、生成AIなどを活用したツールが必要になる。これは「絵筆や鋏としての生成AI」と言える。生成AIであるFirefly自体が進化し、リアルで緻密な画像を作れるようになっているのはもちろんだが、それを使い、写真の背景や一部を簡単に入れ替えられるようになってきた。従来なら時間がかかったような処理も、短時間で作業できるようになった。
それに対して、マーケティング向けの生成AIは“管理ツールとしての生成AI”に近い。
最新のFireflyでは、企業のロゴや商品などを学習させて、自社の目的に合ったものを生成する「カスタムモデル」機能が搭載された。同じことは生成AI技術を開発する企業の中で盛んに研究されており、特にアドビの発明というわけではない。だが、複雑なカスタムモデル構築作業をせずとも、シンプルに「必要な画像類をアップロードするだけ」で処理できるのはアドビの強みだ。
そして、カスタムモデルの構築も広告用生成AIコンテンツの管理についても、アドビは同社のデジタルマーケティングツールと一体化して供給する。自社内でコンテンツ生成に使う素材はどうするのか、どんなルールで使うのか、できあがったものはどこに保存されているのか。さらには、それを使ってデジタルマーケティングを行なった場合の効果がどうなっているのか……。
そうした効率的なマーケティングプランの構築と管理、という以前からのビジネスに生成AIを組み込んで、全体としての価値を向上させることで企業の利用を拡大したい……と考えているわけだ。
こうしたツールの導入は、仕事のためのツールとしての生成AIの可能性を拡大する。ただ、アドビのツールはどうしても「大企業でのデジタルマーケティング担当者」向けであり、すべてのビジネスパーソンが使うもの、とは言えないかもしれない。
では、一般的なビジネスパーソンへの生成AIの浸透はどうなるのか? そのあたりは次回解説したい。
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