任天堂はファミコン(米国ではNES)を引っさげて米国市場に参入し、1980年代後半から90年代にかけてセガとテレビCMなどで広告合戦を繰り広げていました。しかし、それ以前の液晶ゲーム機「ゲーム&ウォッチ」時代については、振り返られることがほとんどありません。
そんなゲーム&ウォッチを宣伝する、「米国初の任天堂CM」と見られる映像がネット上で公開されています。
当時、任天堂は米国のおもちゃ会社・Megoと提携し、ゲーム&ウォッチを「Time Out」というブランドで販売していました。今回の映像は、そのMegoが米国ユーザーに売り込むために放送した30秒のテレビCMです。ちなみにMegoは1983年に廃業し、現在は存在していません。
さて今回の映像は、ビデオゲーム歴史財団(VGHF)が初期の「Time Out」CMを高画質で復元したうえで公開。「これが米国における任天堂製品の最初のCMだと信じている」と同財団は述べてます。
ちなみに、ゲーム&ウォッチはゲームボーイの前に「携帯ゲーム機」を世に知らしめた製品の一つ。カートリッジ式ではなく「ゲームとハードは一体」であり、1台ごとに一つのゲームしか遊べません。それでも、テレビにつながず「どこにでも持ち運べるゲーム機」は斬新でした。
このCMも、携帯ゲーム機というアイデアそのものを一般大衆に売り込む必要があった時代のもの。そのため、まず「新しい電子スポーツ」という切り口を打ち出しています。
例えば、仲間たちがジョギングしているなか、車椅子に乗ったおじさんがTime Outをプレイ。骨折した腕を吊ってるテニスプレイヤーやタンカで運ばれているアメフト選手なども登場し、「ケガしていてもプレイできる、もう一つのスポーツ」とTime Outを位置づけています。
さらに「簡単なゲームと難しいゲーム」を選べること、ハイスコアの記録、時間の表示など、ゲーム&ウォッチのごく基本的な機能もわざわざ紹介しています。ローラースケート選手がパンツの後ろポケットに収めることで「とてもスリムでどこでもプレイできる」とも強調していますが、そのまま座らないかヒヤヒヤしそうです。
任天堂初の米国CMは、正確には「失われた映像」ではありません。ネット上では不鮮明なビデオテープ版も公開されたりしていましたが、ゲームコレクターが16ミリフィルムの原本を入手し、VGHFに提供。この40年以上前のフィルムを専門家に修復してもらい、色調を補正して、完全な2K解像度にエンコードした次第です。
この歴史的に貴重なCMについて、VGHFのフィル・サルバドール氏は「電子おもちゃを買えるだけの可処分所得のある、80年代の外出好きヤッピー(若手で都会に住むエリートサラリーマン)にターゲットを絞り込んでいた感じがする」と述べています。
今の任天堂もゲームを遊んだ経験があまりない一般ユーザーを強く意識しているようですが、さすがに「タンカで運ばれているアメフト選手」に売り込むつもりはなさそうです。
Source: VGHF
via: Ars Technica