ヘルスケア
2024/7/11 18:00

誰しもが自分自身を解放できる空間「センサリールーム」が、病に苦しむ子どもと家族にひとときの癒しを届ける

心地よい音や照明、空気質を組み合わせた、誰にでも過ごしやすい空間「センサリールーム」。日本では欧米に比べてセンサリールームの普及が遅れていますが、感覚過敏の人に向けたものなど、その数は徐々に増えています。

 

そんな潮流のなか、この6月、札幌に新たなセンサリールームが登場しました。それがある場所は、病に苦しむ子どもと家族のための滞在施設「ドナルド・マクドナルド・ハウスさっぽろ」。

 

子ども専門としては道内最大の病院「北海道立子ども総合医療・療育センター(通称:コドモックル)」のそばに位置するこの施設では、病と戦う子どもや家族に泊まる場所を提供し、家族団欒のひとときをもたらしています。当所に誕生したセンサリールームと、そこに込められた想いを取材しました。

 

病と戦う子どもたちと家族に、団欒の時間を提供

コドモックルには、北海道全体から、多くの患児や家族が救いを求めてやってきます。北海道は広いゆえ、遠方から来院する人も多く、移動・診察だけで丸一日必要になってしまうケースも多数。また、入院をしている子どもたちにとっては、家族との時間が限られてしまうという問題があります。

 

ドナルド・マクドナルド・ハウスさっぽろは、そんな子どもたちや家族に、団欒の時間を提供しています。遠くから通院している親子のための宿泊施設として。あるいは、入院中で外泊を許可された子どもと家族が水入らずの時間を過ごす場所として。1人1泊1000円での利用が可能で、月に30〜50の家族が宿泊しています。

↑ドナルド・マクドナルド・ハウスさっぽろの入り口。同様のハウスは、世界に380、国内に12あります

 

ハウスの運営コンセプトは、まるで家にいるかのように過ごせる「第二の家」。宿泊用のバストイレ完備の個室のほか、3家族が同時に使える共用キッチンや広々としたダイニングなどがあり、家にいるのと同様に過ごすことができます。ハウスの運営資金は寄付のみで成り立っており、スタッフは全員がボランティア。人の心の温かみを感じられる施設です。

↑宿泊用のベッドルーム。10室の用意があります

 

↑ベッドルームには、ハウスを利用した家族が、それぞれの想いを綴れるノートが置かれています

 

↑共用ダイニング。3家族が同時に調理をできる広さのキッチンが併設されています

 

↑エントランスホール壁面に飾られた、寄付者の名札。元北海道日本ハムファイターズで、現福岡ソフトバンクホークス所属の近藤健介選手の名前もあります

 

ちなみに、ドナルド・マクドナルド・ハウスと、ファストフード店のマクドナルドの間に資本関係はありません。米国で初めて誕生したハウスに、マクドナルドの創業者が多大な寄付をしたことから、「ドナルド・マクドナルド」の名を冠するようになったそうです。

 

センサリールーム設置のためのクラファンを実施

ドナルド・マクドナルド・ハウスさっぽろに、センサリールームを設置しようという機運が生まれたのは、2023年春のこと。当時ハウスのマネージャーを務めていた福原洋勝さんがセンサリールームについて調べているなかで、パナソニックの製品についての記事を見て、それを導入したいと考えたそうです。

 

コドモックルとの協議も重ね、設置推進の方向にまとまり、同年5月25日から費用を賄うためのクラウドファンディングを実施。427名から516.2万円の支援が集まり、450万円の目標を上回る成果を得ました。

↑センサリールーム設置に尽力した、元ハウスマネージャーの福原洋勝さん

 

そうして完成したセンサリールームは、2024年6月から運用がスタートしています。現在のハウスマネージャーである長谷川みどりさんによると「まずはハウスに泊まる家族による利用を開始し、将来的には宿泊をしない親子にも開放したい」ということです。

 

センサリールームの利用は予約制で、利用枠の時間は、病院のリハビリの1コマと同等に設定。リハビリの合間に、効率よく癒しの時間を過ごせるよう配慮しています。

↑長谷川みどりさん。福原さんの後を継ぐ形で、ハウスマネージャーを務めています

 

誰しもが、自分自身を解放できる空間

年齢や性別、国籍や障がいの有無に関係なく、誰しもが「あるがまま」を受け入れ、自分自身を開放し、心地よく過ごせる空間。それが、パナソニックのセンサリールーム「あるまま」のコンセプトです。独創的な空間を彩る照明器具を基軸に、音、映像、空気質の改善などの技術を組み合わせて、過ごしやすい雰囲気を作っています。

↑センサリールームの内部

 

↑天井のレールには、スピーカーのほか、パナソニック独自の清潔イオン「ナノイーX」発生装置が取り付けられています

 

↑プロジェクターも設置されており、幻想的な映像を映し出します

 

ドナルド・マクドナルド・ハウスさっぽろのセンサリールームは、同時に入れるのは3人程度の小さな部屋ですが、日常を過ごしているなかでは味わえない、“心地よい非日常”を体感できる空間です。コドモックルのセンター長・高室基樹さんは、運用開始に先駆けて開催されたお披露目会で「いい感じの手狭感があり、秘密基地や穴倉のような雰囲気で、子どもにとっては楽しい場所になりそうです。

 

病院はストレスの塊のような建物なので、その近くで休める空間になればいいと思います。センサリールームについて医学的に証明された効果はおそらくまだありません。ですが、見るだけ、聞くだけ、触るだけではない、五感全体を刺激できるこのような空間は、子どもの発達のとって重要であることがわかっています」と語っています。

↑コドモックルのセンター長・高室基樹さん

 

このセンサリールームでは、ボタンひとつで部屋の設定を変えることができます。照明の色がガラリと変わるので、同じ部屋にいても、雰囲気が大きく異なった印象を受けます。メーカーによると、多くの人がリラックスするであろう、色、照度、光の変化といったデータに基づいて設計されているそう。気持ちを落ち着けたいとき、元気を出したいときなど、ニーズに合わせて部屋の雰囲気を変えることが可能だといいます。

↑ソファの下にある5色のボタンを押すと、照明の色が切り替わります

 

↑ソファの端には、身を隠せるような場所もあります

 

↑センサリールームの床には、妖しく光るファイバーが這っています。高室さん曰く「触った感じがとてもよい」

 

センサリールーム未体験の筆者がこの部屋に入った感覚では、ほかの空間では味わえない、唯一性のある体験ができるように思いました。部屋にいたのは短い時間でしたが、何も考えずゴロンとしていたくなる、リラックスした心地へと自然に導いてくれるような感覚をおぼえました。

↑センサリールームのお披露目会には、ハウスを利用する家族のほか、ドナルド、ハウスの運営をサポートし、センサリールーム設置にも協力した北海道日本ハムファイターズのマスコット・ポリーも参加しました

 

病気と戦う子どもたちやその家族に、憩いの時間を提供するドナルド・マクドナルド・ハウスさっぽろ。同所に誕生したセンサリールームは、その時間に、従来にない価値を加える存在になりそうです。