乗り物
2024/9/26 10:30

免許返納後の「高齢者の足」となれるか? 16歳以上なら免許なしで乗れるglafitの四輪車試乗レポート

16歳以上なら、免許不要で誰でも乗れる! そんな「特定小型原付自転車(以下:特定小型原付)」に四輪車を投入する計画が進められています。手掛けるのは電動パーソナルモビリティを提供する「glafit(グラフィット)」。今回、いち早くそのプロトタイプに試乗してまいりました。

↑glafitが開発した“特定小型原付”四輪車のプロトタイプ。後述する「リーンステア制御」により体を特に寝かせなくても自然に曲がれる

 

そもそも「特定小型原付」とは?

まず、特定小型原付について少し解説しましょう。これは2023年7月1日に新設された電動モビリティ向けの交通ルール。16歳以上であれば運転免許不要で運転でき、ヘルメットの着用は “努力義務”とされている新たなカテゴリーです。

 

特定小型原付の車両は、車体を長さ190cm以下、幅60cm以下に収め、原動機は定格出力を0.60kW以下の電動機とすることが条件。そのスタイルは特に指定はなく、AT機構が備えられていれば二輪や三輪でも、あるいは四輪でも構いません。

↑“特定小型原付”四輪車のプロトタイプは、長さ190cm以下、幅60cm以下の枠内に収まる。鉛バッテリーを使っていることもあり、重量は現状100kg前後

 

走行速度は一般道では最高20km/hまでとされる一方で、歩行者モードに切り替えれば自転車走行可となっている歩道を最高6km/h以下で走ることもできます。ただし、これに伴い、特定小型原付の車体には緑色の最高速度表示灯の装備が義務付けられ、20km/h以下では緑色点灯とし、歩道を走行する6km/h以下では緑色点滅で表示することも条件となります。

↑前後左右には緑色のLEDランプが備えられ、一般道を走行モードは点灯して最高20km/hに、歩道モードでは点滅して最高6km/hとなる

 

一方で、免許も不要でヘルメットも努力義務となれば、自転車と同じカテゴリーと勘違いしそうですが、特定小型原付はナンバー登録を行なったうえで、自動車賠償責任保険(自賠責)の加入が必須です。当然、取得したナンバーの装着も義務付けられています。

 

今回、glafitが発表した四輪車は、まさにこの特定小型原付の条件に基づいた四輪車両として開発されたものです。

↑シート背後にあるU字型バーは、背もたれとしての役割と、キャノピー(風防)を取り付けた際の固定場所になる

 

高齢者でも安心して乗れる「リーンステア制御」採用

開発にあたって特に意識したのは、免許を返納した高齢者や、運転に不慣れな若者でも安全に運転できるように設計されていることにあります。その実現のために搭載されたのが、アイシンが開発した「リーンステア制御」技術。これにより、車幅が狭い特定小型原付での四輪であっても安定した走行が可能となったのです。

 

glafit代表取締役社長CEOの鳴海禎造氏によれば、四輪車の計画は特定小型原付のルールが決まる以前から構想として持っていたそうです。しかし、いざ開発してみると解決すべき課題は山積みで、特に車幅が狭い特定小型原付で安定走行を実現するのは困難を極めたとのこと。

 

普通に考えれば、二輪車に比べて三輪車や四輪車は何となく倒れにくいと思われそうですが、特定小型原付では車幅は最大でも60cmと、一般的な乗用車の1/2~1/3しかなく、その分だけ安定性は低くなります。そのため、人が乗ると重心位置はおのずと高くなることもあり、特に車道と歩道を行き来する際の段差や、スピードを出して旋回する際の遠心力による対処はかなり難しかったようです。

 

そんな矢先、アイシンから紹介されたのがリーンステア制御技術だったのです。

 

アイシンとともにさっそく検証に入ると、その結果は安定走行に大きな効果があることが判明。開発がスタートしたのは2年前のことだったそうです。開発は、制御を含めた足回りをアイシンが、そのほかの車体はglafitが担当する共同開発という形で進められました。

 

リーンステア制御技術の最大のポイントは、路面が傾いていても車体を常に水平に保てることにあります。そのため、片輪だけ段差に乗り上げても車体は水平に保ち続けられます。さらにカーブでハンドルを切ると、車体が自動的に曲がる方向の内側へと傾いてくれるので、オートバイに乗っているときのようにドライバーが重心を移動させる必要は一切ないこともポイント。これにより、たとえ二輪車の経験がない人でも安心して乗れるモビリティとなったというわけです。

↑段差に乗り上げても車体は水平のまま。これは前輪でも同じで、この制御が安定走行につながる

 

↑タイヤは二輪スクーターで使われている汎用タイヤを仕様。ちなみに、これは冬用タイヤだった

 

車体を目の前にして実感するのは、高齢者が乗る「シニアカー」よりもずっと大きいところ。それでも特定小型原付の長さ190cm以下、幅60cm以下の枠内に収められているそうで、逆にこのサイズがあるからこそ道路上でも目立つ存在となり、後続車からの視認という意味でもメリットがありそうと感じました。

 

プロトタイプは鉛バッテリーを搭載していましたが、製品化する際はリチウムイオン電池の採用を進め、それによって実現する車体の軽量化や省スペース化を活かしてカーゴスペースも用意していきたいとのことでした。

↑この日はポータブル電源を用意して、そこから鉛バッテリーに充電していた。電源は100Vを想定しているという

 

ワンレバーで簡単走行。モード切り替えで一般道も歩道も走行できる

試乗してみると、プロトタイプの操作はとても簡単でした。電源をONにして、ハンドルの右側グリップ下にあるレバーを押し込むだけで車体はスルスルッと動き出し、レバーを放したら回生ブレーキで減速します。もちろん、ブレーキ機構は後輪を制動する仕組みとして別途備えられていますが、回生ブレーキがかなり強力なので、この日の試乗で使うことはほとんどありませんでした。

↑アクセルとして使う操作レバーはハンドル右側のグリップ脇に用意されている。左側グリップ横には速度モード切り替えスイッチがある

 

↑フロントにはダンパーの調整により、ハンドルの操舵感覚を無段階で切り替えられる仕組みが備えられていた

 

↑デザインが良かった円形のヘッドランプだが、これは法基準に則ったものではなく、あくまでプロトタイプ向け。ウインカーも装備されていない

 

速度は特定小型原付ならではの最高速度として6km/hと20km/hの2つのモードを用意し、利用者は歩道と車道の走行状況に応じてスイッチで切り替えられます。

 

20km/hで走行しているときは身体で風を直接感じることもあって、十分なスピード感を感じます。これなら少し離れた場所へ出掛けても“遅い”とは感じないかもしれません。一方の6km/hではさすがに遅く感じますが、二輪と違ってフラつくこともなく安定して走れます。これは周囲を歩行している人にとっても、安全性の面でメリットがありそうです。

 

一方で、プロトタイプはハンドルがオートバイのようなバータイプとなっており、そのため、コーナーリングではアクセルとなるレバー操作がしにくい状況もありました。こうしたことから、試乗した人からは「クルマのような回転するタイプがいい」との声もあったそうです。glafitとしては「こうした声を収集したうえで、製品化する際に最良のスタイルを提示していきたい」と話していました。

 

具体的な販売スケジュールは未定とのことでしたが、鳴海CEOによれば「2025年開催の大阪万博にも出展し、できるだけ早い時期に商品化したい」とのこと。航続距離も40km~50kmを想定しているとのことで、これなら積極的に出掛けるきっかけにもつながるでしょう。

↑取材した日は一般の方たちの試乗もでき、すべての枠が埋まる大盛況となっていた

 

商品化が実現できれば、免許を返納して日常の足を必要とする高齢者にとって、新たなモビリティとして役立つことに間違いありません。想定価格は「(30~40万円の)シニアカー以上、軽自動車未満」を想定しているとのこと。年金生活の高齢者にも買える価格帯での登場を期待したいですね。

 

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