2024年秋、スズキからコンパクトSUV「フロンクス」が登場します。インドで生産されるこのSUVは、これまでに多くの賞を獲得しており、日本でも大きな期待が寄せられています。そんな中、正式発売を前にフロンクスのプロトタイプに試乗する機会に恵まれました。今回はそのインプレッションをお届けします。
■今回紹介するクルマ
スズキ フロンクス(試乗グレード:2WD、4WD)
インドで大好評のバレーノをベースに開発
新型フロンクスは2023年1月、インドのデリー近郊で開催された「Auto Expo 2023」でデビューしました。その後、同年4月にインド国内でスズキの高級ブランド「NEXA」から発売され、8月から10月にかけて南アフリカや中東、南米の一部でも販売を開始。主に新興国を中心に展開してきました。そうした中で今回、日本への導入が決まり、メディア向けにいち早く試乗会が開催されたというわけです。
実はスズキがインドで生産した車両を日本で販売するのは初めてではありません。2016年3月に「バレーノ」を日本に導入したことがありました。残念ながら、日本では思ったほど販売台数が伸びず、2020年7月に日本での販売を終了していますが、インドではこれが大ヒットとなり、2022年には前モデルを受け継いだ2代目が登場。今回のフロンクスはこの2代目バレーノをベースにSUVとして開発されたものとなります。
個性的なデザインと扱いやすいボディサイズ
車両を前にして感じるのが抜群の存在感です。開発者によれば、「街中にあっても溶け込まないデザインを狙った」そうで、特にクロームメッキ加飾のバーとピアノブラックを組み合わせたフロントグリルは迫力満点。デイタイムランニングライト/ウインカー兼用のLEDランプの組み合わせも個性的で、さらにその下には左右まで回りこんだブリスターフェンダーにヘッドライトを組み込むなど、そのデザインは一度見たら忘れられない奇抜さがあるといえます。
リアビューはいま流行りの一文字型のテールランプとなっており、光るところ以外はブラックアウトされているのでキリッとした印象。後続車からも好印象となるのではないでしょうか。
リアゲートは手動式ですが、動作は軽めなので使い勝手も上々。リアフォルムが寝ているものの、フロアが2段構造となっているのでかさばるものも結構いけそうです。
また、ボディサイズは全長3995mm×全幅1765mm×全高1550mmとBセグメントのコンパクトSUVになります。全長が4m未満ということでBセグメントの中でも小さめの部類になりますし、なによりも高さが1550mmに抑えられているので、立体駐車場に入れられ、これが都市部で使う人にとってはメリットとなるでしょう。
渋滞追従ACCなど日本仕様だけに与えられた先進装備
インテリアはどうでしょう。このクラスのセグメントとしては珍しいぐらい、ピアノブラックやメッキパーツが多用され、そこにボルドーカラーが組み合わされています。それぞれのパーツは樹脂製であるため、素材自体は決して高級なものではないと思います。しかし、それぞれが主張することなく自然に組み合わされていることで、見た目の印象はかなり良いです。
個人的に気に入ったのは、日本仕様にはヘッドアップディスプレイなど先進機能が標準装備されていることです。スズキはスペーシアやワゴンRでもこれを採用するなど、先進機能の搭載を積極的に進めてきましたが、フロンクスにも搭載となりました。さらにインド本国では手で引くタイプの機械式だったパーキングブレーキが、なんと日本仕様では電動式としたのです。さらにACCも搭載されており、この組み合わせによって全車速追従が可能となり、渋滞時の疲労軽減にも大いに役立ってくれるというわけです。
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リアシートはセンターにアームレストが装備されておらず、後席用のエアコンの吹き出し口もありません。このあたりはクラスとして標準的な仕様と言えます。それでも後席にUSB端子(Type-A/Type-C)が装備されているのはイイですね。
広さは大人3人が座っても十分なスペースがあります。ただ、助手席側の後席足元にはマイルドハイブリッド用バッテリーが搭載されているので、その分だけ足元は窮屈に感じるかもしれませんね。
軽快でリニアなハンドリングを備える2WD
フロンクスのパワートレインは、1.5リッター直列4気筒の自然吸気エンジン、これにマイルドハイブリッド機構を備えたものとなっており、最高出力は74kW/6000rpm、最大トルクは135Nm/4400rpm。ミッションはアイシン製6速ATが組み合わされています。また、ラインナップには日本仕様のみ4WD仕様が加えられていることも見逃せません。
さて、そのフロンクスにいよいよ試乗です。試乗コースは、静岡県・伊豆の国市にあるサイクルスポーツセンターのクローズドコース。ここを通常とは逆回りで走行することとなりました。
最初に試乗したのは2WDモデルからです。走り出してまず気付いたのが、ロードノイズが予想以上に低く、かなり静かであるこということ。この日はそこそこ風も吹いていたのですが、風切り音も入って来ません。もちろん、ガソリン車ですからアクセルを踏み込めば、それなりのエンジン音が侵入してきますが、それもうるさいという感じはありません。おそらく車内の遮音がしっかり効いているのでしょう。
開発者によると、サイドのガラス厚を前後ともに通常より厚くしてあるとのこと。こういった積み重ねがこの静粛性をもたらしているのでしょうね。
ハンドリングもなかなか良好です。試乗コースのコーナリングでもリニアに反応してくれて、思い通りのコースをトレースしてくれます。ブレーキを踏んでアクセルを踏み込むコーナーからの立ち上がりもスムーズで、それほどパワー不足は感じません。それどころか、元気かつ軽快な走りを感じ取れました。サーキットを走ると、一般道に比べてパワー不足を感じやすいのですが、それもほとんど感じることはありません。
また、2WD車はリアサスがトーションビームなのですが、嫌な突き上げ感はほとんどなかったのも好印象です。
4WDならではの駆動力が安心の走りを生み出す
続いて4WD車の試乗です。この4WDはプロペラシャフトで駆動力を伝えるタイプで、これにより車重は2WD比で60kgほど増えます。とはいえ、それでも1130kgですから、これはスズキならではの軽量設計が活かされている結果とも言えるでしょう。ただ、最高出力は73kW/6000rpmと2WD車に比べて若干低く、最大トルクも134Nm/4400rpmとこれも低くなっています。おそらく4WD化に伴う排気系の取り回しなどで低くなったと思われます。
ただし、それが走りに影響が出ているかといえばそうではなく、むしろ駆動力が増えたことで安心感のある走りを楽しめます。特にコーナリングでは路面にピターッ! と車輪が吸い付けられるように駆け抜けていく。この感覚が2WDとの大きな違いですね。2WDにもあるスポーツモードに切り替えてみるとさらに効果的で、キックダウンのレスポンスが向上。そのため、コーナリングを繰り返すうちにどんどんペースが上がっていっちゃうんですね。「ホント、サーキットで良かった」なんて思っちゃいました。
また、4WDには急な下り坂などで役立つヒルディセントコントロールを装備しているのも見逃せません。
それと本来なら4WDにありがちなプロペラシャフトによるノイズも発生するところなのですが、車体の強度を高める部材の最適化やマウント防振ゴムの採用、さらにはプロペラシャフトにダイナミックダンパーを装着することで、驚くほど静粛かつスムーズさを生み出しています。この4WDはかなりオススメですね。あとは価格と燃費のスペックが気になりますが、今秋の正式発表が楽しみです。
SPEC【2WD】●全長×全幅×全高:3995×1765×1550mm●車両重量:1070kg●パワーユニット:直列4気筒エンジン●最高出力:74kW/6000rpm●最大トルク:135Nm/4400rpm
SPEC【4WD】●全長×全幅×全高:3995×1765×1550mm●車両重量:1130kg●パワーユニット:直列4気筒エンジン●最高出力:73kW/6000rpm●最大トルク:134Nm/4400rpm
撮影/松川 忍
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