Vol.142-1
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は大幅に値上げとなったPlayStation 5 の話題。過去数回価格が上昇したが、今回の価格改定にはどんな背景があるのかを探る。
今月の注目アイテム
ソニー・インタラクティブエンタテインメント
PlayStation 5
7万9980円~
“待てば価格が下がる”は過去の話になった
ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は、9月2日より、同社のゲーム専用機「PlayStation 5(PS5)」とその周辺機器を値上げした。PS5のディスクドライブ付き本体は7万9980円(税込)になり、1万3000円程度高くなった。
PS5はこれまでにも複数回の“値上げ”をしている。2020年11月の発売当初は5万4978円(税込)だったが、8万円近くにまでなった。その間にストレージ容量やサイズが変化しており、まったく同じハードウェア同士の比較とはならないが、「PlayStationというゲーム機を買うためのハードルが上がってしまった」ことは事実だろう。
過去、ゲーム機は“待てば価格が下がるもの”だった。しかし現在はそうではない。別にいまに始まった話ではなく、2010年代半ば以降、PlayStation 4(PS4)やNintendo Switchは、ずっと“値段がさほど変わらないゲーム機”になっていた。
理由は、半導体技術の進化の仕方にある。半導体技術の進化が遅くなったことに加え、進化してもコストへの影響力が小さくなり、値下げするには至らないレベルになったためだ。
2000年代まで半導体は、製造技術が進化すると、“同じ面積に搭載できるトランジスタの量が劇的に上がる”特徴があった。例えば初代PlayStationは、1994年12月の発売当初は3万9800円だったものが、2001年9月には9800円にまでなった。半導体の製造コストが下がっていった結果だが、最終的には9800円でも十分な収益が出るほどのコストダウンが行えていたという。
収益重視と為替の影響で値上げに踏み切った
一方、PS4は3万9980円でスタートしたものが2016年に2万9980円まで下がり、そこで値下げが止まった。現行のPS5は、米ドルではずっと「499ドル」で、価格が変わっていない。
国内に限って言えば、為替の影響も大きい。
2020年、1ドルは100円から105円の間だったが、2024年6月には一時160円まで上がっている。今回の価格改定まで、SIEは実際の為替レートよりも低く見積もって日本向け製品を値付けしてきたが、今回より為替事情に合わせた価格へと改定した……というのが正しい。前出のように、米ドルでのPS5の価格は499ドルで変化なく、今回の値上げも日本だけで行われたものだ。
為替の影響による値上がり傾向は、スマホやPCも事情は同じと言える。SIEは普及のために価格を安く抑えてきたが、収益性を重視して“日本を特別扱いしない”方針に切り替えたのだろう。これほど円安が定着すると想定していなかったところもありそうだが。
実のところ、こうした事情は任天堂やマイクロソフトにも影響している。彼らは今後どのような戦略を採るのだろうか?
また、ゲーム機が高価になったことで「ゲーミングPC」との比較論も出てくる。これは単純に価格だけで比較できる話ではないのだが、どう考えれば良いのだろうか? ゲーム機よりもPCを買う方がオトクな時代はやってくるのだろうか?
これらの疑問については次回以降で解説していく。
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