デジタル
2024/11/5 11:00

【西田宗千佳連載】Quest 3S登場の背景にある「アメリカ・10代向けVR市場」の大きさ

Vol.143-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はMetaが発売した廉価版Quest の「Quest 3S」の話題。Quest 3とそん色ない性能を有しながら価格を下げて販売する狙いを探る。

 

今月の注目アイテム

Meta

Meta Quest 3S

4万8400円~

VRが注目されるようになり、そろそろ10年以上が経過した。“いつまで経っても一般化しない”と思う人もいるだろうが、実は世代や地域によってかなり浸透の仕方が異なっている。

 

Metaが主戦場としているのはアメリカであり、特に10代・20代の若い層だ。

 

Meta Questシリーズの累計販売台数は、2203年第1四半期の段階で2000万台を超えている。この時点ではMeta Quest 3は出荷されておらず、Meta Quest 1・2・Proの3モデルでの統計だ。その後の出荷台数は公表されていないが、Meta Quest 3が数百万台出荷され、そのぶんが追加されている。

 

そして、実質的にアメリカ市場では、Meta Questの普及=ティーンへのVRへの浸透と言っても良い。前述の2000万台のうち1800万台はMeta Quest 2。2022年から同社はMeta Quest 2の最廉価モデルを299ドルで販売しヒットにつなげた。

 

アメリカの投資銀行Piper Sandlerは、2024年春に、アメリカのティーン層を対象とした調査を行った。その中で「ティーンのうち30%以上がVR機器を持っている」という結果をレポートしている。299ドルという価格で低年齢層に浸透したことが、普及率を押し上げているのだ。

 

この辺は、実際にいくつかのサービスに入ってみるとよくわかる。

 

アメリカで大ヒットしたVR系ゲームに「Gorilla Tag」がある。これは上半身だけのゴリラになりきり、両腕を漕ぐような動きをしながら鬼ごっこをする……というシンプルなもの。だが、これがアメリカではティーン層にウケた。2024年1月には総収入が1億ドル(約150億円)に達し、月のアクティブユーザーは300万人を超えているという。

 

また利用者数はまだ判然としないが、Metaが提供しているコミュニケーションサービスである「Horizon World」も、アメリカでティーン層の利用が拡大している。

 

どちらのサービスも入ってみると、“明らかに若い10代の声(英語)”でコミュニケーションしあっている様子が聞こえてくる。たまたま聞こえる……とかそういう話ではなく、いつサービスに入ってもそんな感じだ。若い層の遊び場としてアメリカで定着していることを感じさせる。

 

ただ、こうした層へのアピールを強化するには、なにより価格が重要だ。2023年に発売された「Meta Quest 3」は499ドルからで、Quest 2に比べ200ドル高かった。その分機能・性能は高かったが、若年層に200ドルの差は大きい。

 

また、Meta Quest 2は2020年発売であり、性能面で厳しくなっていた。Meta的にはソフト開発の基盤を刷新するためにも「Quest 3ベース」に変える必要に迫られていた。

 

そんなビジネス的な事情もあって、Metaとしては“もっとも売れているアメリカ市場を盤石なものにする必要がある”ということから生まれたのが、Meta Quest 2の安価なレンズやディスプレイ構造を活かしつつ、そこにMeta Quest 3の処理系とMixed Reality機能を搭載し、価格を299ドルから(日本だと4万8400円から)に下げた「Meta Quest 3S」、ということなのだ。

 

Quest 3Sの画質はQuest 3より若干下がっているが、使い勝手自体はほとんど変わっていない。ゲームなどが中心ならば差はさらに小さくなる。こうした製品を用意した背景にあるのは、世界的に価格を下げる必要がある、ということ以上に“アメリカでの10代向け”というはっきりとしたニーズがあるからなのである。

 

では日本などはどうなっているのか? その点は次回のウェブ版で解説していく。

 

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