デジタル
2024/11/8 11:00

【西田宗千佳連載】日本でVR市場を支える「VRChat」の存在感

Vol.143-3

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はMetaが発売した廉価版Quest の「Quest 3S」の話題。Quest 3とそん色ない性能を有しながら価格を下げて販売する狙いを探る。

 

今月の注目アイテム

Meta

Meta Quest 3S

4万8400円~

前回のウェブ版で、アメリカではまず10代にVRの市場が立ち上がっている、という話をした。では日本を含む他国ではどうなっているかというと、アメリカほどに明確な現象は起きていない。ブームに近いニーズ拡大は起きていない、という言い方もできる。

 

とはいえ、日本はVRにとってかなり大きな市場だ。Meta自身の市場調査によると、アメリカよりも年齢層は幅広く、使っている人々の指向も幅広い、という。

 

なかでも急速に利用が進んでいて、VR自体の認知にも大きな影響を与えているのが「VRChat」だ。その名の通りVR向けのコミュニケーションサービスで、VRの勃興期である2014年からサービスを続けている。長く使っている人も多く、「メタバースに住む、過ごす」サービスとして紹介されることが多い。

 

この5年で世界的にも利用が広がり、アクセス数は約7倍に拡大。いわゆる「メタバースブーム」が落ち着いた後で利用者が伸びている。VRChatはコアな利用者が多いことから、新しいVR機器や周辺機器ニーズの牽引役という側面もある。コアな利用者にとっては、もうひとつの生活の場として毎日使うサービスであるからだ。

 

そんなVRChatだが、日本での利用が増えているのも特徴だ。サービス自体はアメリカのもので同国内の利用者が多い(全体の3割強)が、日本も利用者数比率で第2位(十数%)となっている。人口比やVR機器の普及率を考えると相当に大きな勢力であるのは間違いない。

 

特に今年に入ってからは、いままでVRやVRChatをよく知らなかった人々にも急速に認知を高めた。背景にあるのは動画配信者の利用で、特に大きな影響があったと言われているのが、人気配信者である「スタンミ」が取り上げたことだ。登録者数十万人規模の配信者がコミュニケーションを楽しむ様が配信されたことで、それまではVRやVRChatのことを知らなかった人々へ認知が高まった。

 

動画配信は“幅は狭いが深く刺さる”世界である。年齢や趣味趣向が違うと、「有名」と言われる配信者の名前も知らないことは多い。一方で、その配信者がマッチする層には深く刺さり、認知・理解を高めるきっかけになる。VRChatを楽しんでいる人々の間では、今年の変化は相当に大きいものだったという。

 

VRChatは多くのVR機器で楽しめる。没入感は減るが、普通のPCでも大丈夫だ。Meta Questはもっとも利用者が多いデバイスであるが、画質や快適な装着性を求めて、より高い機器を選ぶファンもいる。

 

2025年初頭に発売が予定されている「MeganeX superlight 8K」(Shiftall)もそのひとつ。本体は24万9900円であり、動作には別途ゲーミングPCが必要でかなり高価だが、重量が185g以下(本体のみ、ベルト部除く)と軽く、片目4Kで画質も良い。Meta Quest 3のように大量に売れるわけではないが、そうした商品が成立するくらい、幅広い市場が見込めているということでもある。

 

では、よりカジュアルで、いまのVR機器に興味がない人をひきつけるような市場はどうなるのだろうか? その辺は次回のウェブ版で解説していく。

 

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