本・書籍
ビジネス
2024/11/28 10:00

廃業寸前→3年間で売上10倍に!『鯱もなかの逆襲』著者が語る、奇跡のV字回復劇の裏側

コロナ禍で廃業寸前だった明治40年創業の老舗和菓子店が、たった3年で売上を10倍に復活させた秘密、知りたくはありませんか? そんな誰もが気になるストーリーとV字回復のメソッドを一冊の本にまとめたのが、本日11月28日に発売となった『鯱もなかの逆襲』です。著者の古田憲司さんに、奇跡の復活劇を巻き起こした背景から失敗談まで、本には載せきれなかったエピソードを教えてもらいました。

 

資金なし・コネなし・従業員なしからのV字回復!すべては計算通りだった!?

↑「元祖 鯱もなか本店」の4代目を夫婦で務める古田憲司さん。元バンドマンという異色の経歴を持つ

 

―著書では、「廃業寸前から3年間で売上を10倍にV字回復させたストーリー」を綴るとともに、古田さんが手がけた数々のマーケティング戦略をメソッド化して紹介しているわけですが……正直、ここまでの快進撃を想定されていましたか?

 

「いえ、まったく(笑)。事業承継はもちろん、和菓子の製造や販売についてもまるでわからないまま跡を継いだので、とにかく店を立て直すことで必死でした。事業を引き継いだ当時、僕は一人で不動産の事業もやっていたのですが、そちらはまずまずの経営状態だったんですね。そこで、不動産業の収入を糧にしつつ、なんとか『元祖 鯱もなか本店』を軌道に乗せようと考えていました」

 

―そんななかで、2021年9月に『Yahoo!ニュース』の記事に取り上げられたことから、「元祖 鯱もなか本店」の運命が激変しました。このことも、想定外でした?

 

「『Yahoo!ニュース』のトップに取り上げられたことはまさかの出来事でしたが、そこに至るまでの事前準備は万全にしていたつもりです。いつかうちの看板商品である『元祖 鯱もなか』(以下、鯱もなか)が注目される日に向けて、店の公式サイトをリニューアルしてオンライン販売を強化し、購入を後押しする導線設計、リピーター向けの施策などを粛々と進めていました。あとは、プレスリリースを出したことも大きかったですね。それらが、『Yahoo!ニュース』掲載をきっかけに、すべてプラスに働いたという感じです。

 

とはいえ、どこかにコンサルを依頼したり、PRをお願いしたりといったわけではありません。なにせ、本のタイトル通り資金なし、コネなし、従業員なしの状態でスタートしましたから。『名古屋の定番お菓子になる』という目標に向かって、地道にコツコツとできることを続けてきただけです。ですので、僕が本の中でお伝えしているメソッドは決して特別なものではなく、誰でも今日からできることばかりだと思います」

 

―それらのメソッドは、どのようにして生み出されたのでしょうか? 何かヒントにしたものはありますか?

 

「ビジネス書も読みましたし、セミナーなどにも参加して勉強しましたが、なにより、過去にいろいろな会社で働いた際に叩き込まれた営業のノウハウやマーケティング術が役に立ったと感じています。ほかにも、インディーズでCDデビューをしたり、無職やフリーターを経験したり、いわゆるブラック企業で心身共に病んでしまったりと、さまざまな経験をしてきたなかで“弱者の痛み”を味わってきたことも、巡り巡っていまに活きているのかもしれません。それらの経験から得たことをもとに、周りのスタッフと知恵を出し合いながら、試行錯誤してきた感じですね」

 

有名企業やアイドルとのコラボの数々。古田流・SNSマーケティング戦略とは

↑名古屋市・大須にある店舗には、これまでコラボをしたアイドルのサインやメッセージが並ぶ

 

―古田さんのマーケティング戦略でもっとも注目されているのが、SNSを積極的に使った展開ですよね。「元祖 鯱もなか本店」の公式X中の人として、日々さまざまな仕掛けをされています。Xを活用して多くの成果を出している秘訣は何でしょうか?

 

「日々いろいろと工夫して試していますが……、ひとつ言えることは、どんな小さなきっかけも逃さないように、即行動することでしょうか。企業公式、一般のフォロワー問わず、誰かが『鯱もなか』のことを話題にしていたら、すぐに反応する。そこにコメントやリポストをすることで、より多くの人の目に触れ、さらなる話題となる可能性があります。

 

実際に、X上でのフォロワーの方とのやりとりを、名古屋のアイドルグループTEAM SHACHIの公式アカウントや名古屋グランパス公式アカウントに見つけてもらい、コラボ商品を発売するまでに至りました。また、藤井聡太棋士の勝負おやつに選ばれたのも、フォロワーさんからのコメントがきっかけです。

 

もちろん、自分から発信することも大切です。じつは今回の書籍は、僕が(出版元である)ワンパブさんの公式Xにコメントを入れたことから始まりました。2023年の大晦日の話です。あのときコメントで書籍化の話を出さなかったら、そして、ワンパブさんにメッセージをして具体的な提案をしなかったら、この本は出版されていなかったでしょうね」

 

―先日スタートした、名古屋のソウルフード「スガキヤ」とのコラボメニューもSNSで話題です。こちらもXがきっかけなのですか?

 

「はい。コメントをやりとりしたことをきっかけに、コラボの提案をしたかったのですが、先方のDMの設定でこちらからメッセージが送れませんでした。そこで、スガキヤさんの公式サイトに載っていたお問い合わせフォームから、コメントのお返事をもらった御礼とともに、コラボメニューの企画書を送ったんですよ。それを担当の方が見てくださって、先日限定メニューとして発売されました。諦めずに行動してよかったです」

 

成功の裏には失敗や苦難も……。だからこそ挑戦あるのみ!

―こうしてお話を聞いていると、万事うまくいっているように見えますが、苦労したことや失敗談などもありますか?

 

「もちろんです! 販売戦略、SNS展開、従業員育成、行政からの給付金や補助金の活用など、あらゆるカテゴリーで失敗や苦難を重ねてきました(苦笑)。さまざまなコラボや提案も、断られたことはたくさんありますし、お返事すらもらえなかったケースも少なくありません。『鯱もなか』に次ぐヒット商品を出そうと新商品の開発も続けています。プチバズしたものもありますが、大ヒットとなると難しいですね。

↑「和かふぇ冨士屋」にて一日限定で提供した幻の「鯱トッツォ」。SNSで話題となり、ワイドショーなどでも取り上げられた

 

一番の痛手だったのは、『Yahoo!ニュース』で取り上げられたことがきっかけで売上が一気に伸びたのですが、ずっと値上げせずにやってきたので、売れれば売れるほど赤字が増えていったことです。一年間ほぼ休みなしで働いたのに……、と絶望しました。

 

ちょうど急激な物価高も影響してきていたので、思い切って『鯱もなか』の価格を上げさせてもらったところ、ようやく少しずつ利益が出てきたという状況です。とはいえ、店舗裏の工場でひとつずつ手づくりしているお菓子なので、大量生産も難しいですし、長く店を続けて行くためには、無理なく利益を上げていく方法を考えていかなくてはと思っています。

 

そして、名古屋の定番お菓子になるために、失敗も重ねつつ、これからも挑戦を続けていきます!」

 

『鯱もなかの逆襲』(著:古田憲司/発行:ワン・パブリッシング)
117年の歴史を持つ名古屋の老舗和菓子店「元祖 鯱もなか本店」の4代目が仕掛けた奇跡のV字復活ストーリー。あらゆるビジネスにおいて活かせるメソッドを数多く紹介しています。