スマートフォンのカメラの高画質化が著しい昨今、街スナップのような日常シーンなら「スマホカメラで十分!」と考える人は多いでしょう。一眼カメラは、動きの激しいスポーツや乗り物などを撮る人向けの特別な装備であって、普段使いするようなものではない、といったイメージがあるのかもしれません。今秋、そんなイメージを覆す画期的なミラーレスカメラ「FUJIFILM X-E3」が登場しました。本稿では、日常シーンをキラキラと輝く「作品」へと昇華させる同機の魅力を、写真家・コムロミホさんに解説してもらいます。
【今回紹介するアイテム】
FUJIFILM
X-E3
オープン価格(直販価格:ボディ 税込 12万3660円)
ファインダー付きのXシリーズでは最小・最軽量となるボディに、フラッグシップモデルと同じ有効2430万画素APS-CサイズCMOSセンサーと画像処理エンジンを搭載したミラーレスカメラ。携帯性と高画質を両立させ、さらに動画は4K/30pの記録にも対応する。カラーはブラックとシルバーの2種類。11月には開放F2の単焦点レンズ「XF23mmF2 R WR」とのキットも発売された(価格はオープンで、直販価格は税込 15万660円)。
●撮像素子:有効約2430万画素APS-CサイズX-Trans CMOSⅢセンサー ●画像処理エンジン:X-Processor Pro ●常用ISO感度:ISO200~12800 ●AFシステム:91点(最大325点) ●連写性能:約8コマ/秒(電子シャッター時:約14コマ/秒) ●ファインダー:約236万ドット有機EL(倍率0.62倍) ●液晶モニター:3.0型約104万ドット(タッチパネル) ●大きさ・質量:幅121.3×高さ73.9×奥行き42.7mm・約337g(バッテリー、記録メディア含む)
■詳しい製品情報はコチラ
http://fujifilm.jp/personal/digitalcamera/x/fujifilm_x_e3/
【著者Profile】
コムロミホ
アシスタントを経て、人物を中心として広告や雑誌等で撮影をする一方、ライフワークでは海外、国内と街スナップを撮り歩いている。またカメラに関する執筆やカメラ教室の講師としても活躍する。
ハイスペックながら撮り疲れしない携行性&操作性
富士フイルムのミラーレスカメラ「Xシリーズ」には、エントリーモデルからハイエンドモデルまで5つのラインナップがあり、今回紹介するX-E3はその中級モデルに位置する。軽量コンパクトながらもハイスペックな本格派。今回はこのX-E3を持って、代官山へスナップに出かけることにした。作例とともにカメラの魅力と撮影テクニックをご紹介したい。
まずは、外観や操作性について。カメラを持ち運ぶときは常に首からカメラを下げているため、デザインもカメラを選ぶうえで大事なポイントだ。X-E3は革張りのような質感で高級感があり、カメラらしいクラシカルなデザインを採用。カメラの上部には金属を使用し、重厚感のある見た目だが、質量は約287g(本体のみ)と軽量で携帯性に優れる。今回の撮影では被写体を探しながら1日中代官山を歩いたが、疲れることもなくスナップを楽しむことができた。この身軽さと手軽さがミラーレスカメラのメリットの1つだろう。
スナップは日常の出来事や出会った光景を一瞬のうちに切り取る撮影方法で、いろいろなところに目を向けて、とにかく迷わずにシャッターを切ることが大切。そのため、カメラには速写性が求められる。その点、X-E3はタッチパネルの背面モニターを搭載しているため、ピント合わせや機能の呼び出しもスマホのような感覚で直感的な操作が可能。さらにスティックタイプのフォーカスレバーを新搭載。上下左右斜めの8方向に可動し、フォーカスエリアの移動もスムーズに行える。そして、EVF(電子ビューファインダー)が搭載されているため、ファインダーを覗きながら被写体を捉えることができ、撮影に集中できるのがうれしい。
一眼カメラならではの高精細画質やボケで日常風景を印象的に表現
X-E3は同社の上位機種である「X-T2」、「X-Pro2」と同じ2430万画素のX-Trans CMOSⅢセンサーを搭載し、最新の画像処理エンジンを採用。風景や建物などディテールのある被写体を撮影すると、細部までしっかりと再現してくれているのがわかる。スマホなどで気軽に撮るのもいいが、思い出のワンシーンや旅先での風景などの一瞬一瞬は一眼カメラの高画質で残したいものだ。
そして、スマホとの大きな違いはボケを生かした撮影を行えること。より大きなボケを作りたいときは単焦点レンズというF値が小さいレンズを使用する。単焦点レンズはズームができないが、大きなボケを作りやすく、暗いところでも手ブレしにくいというメリットがある。
X-E3のキットレンズは単焦点レンズの「XF23mmF2 R WR」とズームレンズの「XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS」のどちらかを選択できる。両者とも描写力の高いレンズなので、どちらを選んでも後悔のない1本といえるが、ボケを生かした写真やスナップには単焦点レンズのXF23mmF2 R WRをおすすめしたい。
23mmは35mm判換算で35mm相当となる広角で、被写体と背景の両方を際立てやすく、街スナップとして面白みのある画角だ。大きなボケを作りたいときはF2に設定し、できるだけ被写体に近づくことがポイント。そうすることで、被写体が際立ち、主題が伝わりやすい写真になる。またXF23mmF2 R WRは小型軽量でX-E3との相性も良く、軽快にスナップを楽しむことができた。
Xシリーズが誇る「色」へのこだわりとフィルムシミュレーション機能
長年フィルムを作ってきた富士フイルムの色に対するこだわりが、本機の絵作りにも直結している。鮮やかな色も淡い色もグラデーション豊かに再現し、クリアで抜けのいい色表現を実現。印象に近い色表現で、被写体の美しさが素直に伝わりやすい写真になる。特に人物の肌の色の再現性は高く、透明感のある美しい肌の色に仕上げてくれる。
そして、さまざまな色表現を楽しめるフィルムシミュレーションという機能があり、実際にあるフィルムの特徴を生かした絵作りとなっている。例えば「Velvia」は色鮮やかでシャープネスが高く精密な描写を得意とするフィルムだが、フィルムシミュレーションのVelviaでも同じような効果を得られる。フィルムシミュレーションは全部で15種類の効果があり、被写体やシーンに合わせて選択すれば作品性の高い1枚に仕上げることが可能だ。次の作例は、15種類のフィルムシミュレーションで同じシーンを撮影したもの(クリックすると拡大可能)。
今回、代官山のスナップで個人的に最も気に入って使ったのは「ACROS」という粒状感のある、豊かな階調再現にこだわったモノクロモード。まさにフィルムのACROSらしくシャドーの締まりに粘りがあり、独特な立体感を演出してくれる。代官山といえばオシャレな街の代名詞だが、裏路地は古い住宅街が建ち並び、意外と静かでもの寂しげな雰囲気がある。次の作例では、ACROSモードの粒状感あるモノクロが代官山のおしゃれな雰囲気にも裏路地にもマッチし、フィルムライクな仕上がりが年代を感じさせる1枚に仕上げることができた。
スマホでは難しい、動きモノの撮影や暗所撮影でも大活躍
動く被写体を撮影するときはピント合わせの速さが重要になるが、X-E3はAF(オートフォーカス)性能も向上。広いAFエリアをカバーするフォーカスモード「ゾーン」や「ワイド/トラッキング」を使えば、動く被写体にも高速かつ正確にピントを合わせることができる。そして、AF追従時は被写体の動きや速さに合わせて5つのAF設定を選ぶことができ、複雑に動く被写体でもしっかりとピントを合わせ続けてくれる。次の作例のような動きの速い小型犬はピント合わせが難しいが、激しい動きに強いSET 5を選択することで、きっちり犬にピントが合い、かわいらしい表情を切り取ることができた。
冬になると街を賑やかにするイルミネーション。思わず写真を撮りたくなる被写体の1つだろう。しかし、スマホで暗いところを撮ると、写真にザラザラとしたノイズが現れてしまい、見た目の美しさが伝わりにくくなってしまう。そういうシーンもぜひ本機での撮影をおすすめしたい。
暗いシーンで撮影するときは手ブレしないようにISO感度の数値を大きくする必要があるが、高感度にするとノイズが発生しやすくなる。しかし、X-E3は高感度性能が高く、高感度のISO3200で撮影しても目立つノイズはなく、高精細に表現。そのため、夜の街や雰囲気のある暗いカフェやバーなどでの撮影でも安心して手持ち撮影を楽しむことができる。そして、イルミネーションであれば電飾のように小さな光源を大きくぼかすことで、丸ボケという丸い光の玉を作ることができる。単焦点レンズを使って開放F値に設定し、オーナメントなどに近づいて撮影すると、キラキラと輝く丸ボケになる。
豊富で高品質なフジノンレンズで撮影の楽しみが広がる
Xシリーズの交換レンズにはさまざまなラインナップがあり、小型ながらも性能の高いレンズが多い。レンズを交換すれば表現の幅も広がり、さらに撮影が楽しくなるだろう。
今回はキットレンズに加え、11月末に発売されたばかりの「XF80mmF2.8 R LM OIS WR Macro」を使用してみた。こちらは等倍撮影可能な中望遠マクロレンズで、防塵・防滴・耐低温構造を採用。レンズ質量が約750gとX-E3に装着するにはやや重めの印象だが、非球面レンズなどの特殊レンズを贅沢に使用したレンズ設計で描写力が高い。等倍付近まで被写体に近づいてもピント面の解像感が高く、ボケも滑らかだ。
中望遠マクロレンズは被写体に接近しなくても小さな被写体を画面いっぱいに捉えることができるため、近づくと逃げてしまうような昆虫などの撮影にも向く。またマクロ撮影だけでなく、F2.8のボケを生かしたポートレート撮影やスナップにも活躍する万能レンズである。
【まとめ】軽量・コンパクトで毎日持ち歩きたくなるカメラ
今回、午前中から夜まで1日中歩きながら被写体を探したが、軽量・コンパクトであるおかげで疲れずにスナップを楽しむことができた。街スナップは歩けば歩くだけシャッターチャンスに出会えるため、カメラが小さいということは大事なポイント。X-E3は毎日首からぶら下げて持ち歩きたくなるようなデザインで、さまざまなシャッターチャンスに恵まれそうだ。
そして、フィルムシミュレーションを使用すれば、そのシャッターチャンスをより印象的でアーティスティックな1枚に仕上げることができる。カメラのなかでイメージを作りこめるため、被写体にカメラを向けるのが楽しくなる。さらにBluetoothを使用すればパソコンを使わなくてもスマホに直接転送できるため、撮ったその場でSNSなどにシェアすることも可能だ。
「スマホで十分派」の人も、本機を手にすればその考えが変わるはず。毎日の記録をぜひX-E3とともにたくさん残してもらいたい。
■詳しい製品情報はコチラ
http://fujifilm.jp/personal/digitalcamera/x/fujifilm_x_e3/
※本記事は12月20日発売の「CAPA1月号」との連動企画です。CAPA1月号には、ここでは掲載しきれなかった作例が盛りだくさん!詳しくはコチラをチェックしてみてください(遷移先の情報は12月20日に更新されます)