最新モデルを使い倒し! まずは新デザイン採用の外観をチェック
ここからは、現行モデルである「SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD (Model F017)」をより詳細に見ていこう。
まず、製品名の頭に付いている「SP」とは、MFタイプの時代からタムロンの高性能レンズに与えられてきた称号である。2015年にそのSPシリーズが刷新された。光学性能の優秀さはもちろん、高品位な金属外装を採用し、マウント部の周囲にはルミナスゴールドの「ブランドリング」があしらわれた。このリングの存在は、ユーザーとタムロンの繋がりを“記念の指輪”に見立ててイメージした、新しい「SP」の象徴となる。そして、新しいデザインのスイッチ類や、見やすい文字表記などを採用し、操作性や視認性も向上させたのである。
光学系に関しては特殊硝材XLD(eXtra Low Dispersion)レンズ2枚と、LD(Low Dispersion : 異常低分散)レンズを1枚を使用して色収差を補正するなど、先進の光学設計で諸収差を徹底的に補正し、解像性能が高くてシャープな画質を実現。そして、円形絞りの採用によって、タムロン90mmマクロの伝説を引き継ぐ良質なボケ描写を可能にしている。これらの仕様は、基本的に前モデル「SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD (Model F004)」を踏襲したものである。
さらに、ほぼ可視光全域で秀逸な反射防止性能を誇る「eBANDコーティング」に従来からのコーディングを用いたBBARコーティングを組み合わせ、フレア(画面全体が白っぽくかすんで写る現象)やゴースト(本来は見えないはずの光が写ったもの)を大幅に抑制してクリアでヌケのよい画像を実現している。また、最前面レンズには、撥水性・撥油性に優れ耐久性にも優れる「防汚コート」も採用。これによって、レンズ表面に付着した汚れを簡単にふき取ることができる。
美しいボケ味に感動!! 最新モデルを実写チェック
ここからは実際の作例を見ていきたい。
まずは鮮やかな柄のチューリップの花弁をクローズアップ。風で花弁が微妙に揺れていたので、カメラのAFモードを「AIサーボ」(シャッターボタンを半押ししている間、被写体にピントを合わせ続けるAFモード)に設定。超音波モーター「USD」は作動音が気にならないので、小刻みなピント調節が繰り返されても快適に撮影できる。
続いて、20mくらい離れた位置から、1本のサトザクラを狙う。木の前後をぼかすため、絞りは開放F2.8に設定。マクロレンズは接写で使用するレンズというイメージがあるが、本レンズであればこのように中望遠レンズとしても優秀な描写を得ることができる。
こちらは赤いストライプ模様が印象的だった黄色のチューリップ。開放絞りによって、その花の前後を大きくぼかした。とろけるようなボケ描写が美しい。
花の時季にはまだ早いバラだが、逆光に映える若葉がみずみずしい。その背後に光の輝き(光沢のある葉の反射)があったので、その点光源を美しい形にぼかしたい。このレンズには、円形絞りが採用されている。だから、絞り開放時に画面周辺の点光源ボケが楕円に歪む口径食を避けるために1、2段絞り込んでも、絞り羽根の角が目立たない美しいボケが得られるのである(通常は絞る=F値を大きくすると、ボケの形が角張ってくる。そうならないよう、構造を工夫したのが円形絞りである)。
赤みを帯びた夕方の光を背景に、白いリンゴの花が可憐な姿を見せてくれる。ピントを合わせた部分のシャープな描写と、自然にボケていく前後の描写が見事だ。
受け継がれていく“伝説のマクロ”
筆者は、MF一眼レフの時代から、タムロンの90mmマクロを使い続けてきた。最初に使ったのは、2代目の「SP 90mm F/2.5 (Model 52BB)」である。そのころから、フォーカスリングのスムーズな動きや、自然なボケ描写に感心し、マクロレンズというよりも“優秀な中望遠単焦点レンズ”として信頼を寄せていた。
そして時代の流れに合わせてタムロンの90mmマクロはMFレンズからAFレンズに移行し、最大撮影倍率も0.5倍から1倍に拡大。MF/AF切り換え機構もより迅速で快適なタイプに進化していった。また、近年のモデルでは、最新のレンズ硝材や優れたコーティング技術によって、シリーズ共通の特徴である“美しいボケ”を継承しながら、よりシャープでクリアな描写が得られるようになっている。
さらに、現行モデル「SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD (Model F017)」では、金属鏡筒や新デザインの採用で各段に高品位な製品に生まれ変わり、手ブレ補正機構「VC」もマクロ撮影域にも強くなるなど、これまで以上に魅力的な中望遠マクロレンズに仕上がっている。ちなみに、この現行モデルも所有し、常用している。
長年愛されるレンズには理由がある。このように、“伝説”は進化し、受け継がれてゆくのだ。