KOSSはアメリカの老舗ヘッドホン&イヤホンメーカーで創立は1953年。低音の量感が豊かでハイコスパなモデルを得意としています。1988年に日本上陸を果たした「KOSS PORTA PRO」は小型軽量で軽い装着感から長時間使えるオープン型として30年間ロングセラーモデルとして親しまれてきました。それが今回、Bluetoothを使ったワイヤレスモデル「Porta Pro Wireless」として生まれ変わりました。
ワイヤレス化によってケーブルは軽量化したものの、電池を搭載して重量が増し、プラスマイナス10g増えて重さは70gになりました。これでも充分軽い! しかも連続使用時間は約12時間です。充電には付属のUSBケーブルを使い、充電時間は約4時間。もちろん、従来通りの折りたたみ式でロックがかかり付属の専用ケースに収まります。
「Porta Pro Wireless」には側圧を調整できるcomfortZoneと呼ばれる機能があり、「ゆるめ」と「きつめ」が選べます。側圧は金属製ヘッドバンドの張力を利用するため、頭のサイズによって異なる印象を受けます。また、頭に乗せたままヘッドバンドを左右に引っ張ってサイズ調整すると髪の毛が巻き込まれてイテテとなるのがお約束です。
リモコン機能は音量調整、音楽の再生/停止、通話の応答/終了、電源のON/OFF、ペアリングモードへの切り換えに対応します。充電は付属のMicro USB B端子を使ってヘッドホンと接続してUSB充電を行ないます。
Bluetoothのペアリングは、センターボタンを長押ししLEDが赤と青の点滅になれば準備完了です。
厚みのある中低域はそのまま
コーデックはSBCとaptXに対応。まずは手持ちの「iPhone7 Plus」で聴いてみました。本機はAACコーデックには対応していないのですが、佐山雅弘トリオ「メモリーズ・オブ・ビル・エヴァンス」から「マイ・ファニー・バレンタイン」を再生すると冒頭のドラムスの量感のある低音、ライドシンバルにハイハットのヌケのいい高音、ピアノの力強い音、そしてウッドベースの地を這うような低音もしっかり再現されます。コーデックがSBCだから音が悪いとは限らないことを実感できました。
「Porta Pro Wireless」は開放型ですが、密閉型に負けない低音の量感を出せます。この中域から低域の厚みが本機の特徴です。まあ開放型なので音漏れは盛大にします。また音量を上げると低域の解像度が低く音がかたまりになっていることが分かりますが、KOSSのヘッドホンでは細かい事は気にせずにヌケのいい低音をドーン受けて、高域もスカッとヌケるのを楽しみましょう。アニメ「少女終末旅行」からOP曲「動く、動く」を聴くと、開放型らしい左右に広々とした空間が感じられ、テンポのいいボーカルがセンターから左右へと縦横無尽に移動します。歌詞の「動く」と「we go walk」の歌い分けも注意深く聴くと、確かにそう聞こえました。
次はA&ultima「SP1000」とaptXで接続して再生してみましょう。井筒香奈江の最新作「Laidback2018」(192kHz/24bit)から「サクセス」を聴くと、コンガ・エレキベースとピアノのソロのグルーブ感のある演奏がグイグイ耳に飛び込んでいきます。ボーカルはややドライで、押しの強い演奏に負けない力強さで、いつもの静かに歌う井筒香奈江とのギャップに驚きます。後で「You Are So Beautiful」を聴けばいつものしっとりとしたボーカルに癒されます。このアルバムはコンソール卓にイギリスAMS NeveのNEVE8872を使い、各種のマイクを厳選して、Pro Tools HDで192kHz/32bitマルチのハイレゾ録音と、音質にこだわりまくっています。「SP1000」はワイドレンジで超高解像ですが、「Porta Pro Wireless」はレンジを欲張らずに、鮮明な音と厚みのある中低域でグルーブ感を再現してくれました。
「Porta Pro Wireless」はロングセラーモデルをワイヤレス化することで、現代に適応させています。KOSSの面白いところは音だけでなくデザインも変更せずに、そのまま継承したところです。「PORTA PRO」ファンは迷わず購入するでしょうが、問題はチープでガジェット感あふれるデザインがワイヤレス化によって2倍近く値上がり、実売で1万3000円を超えてしまったこと。この価格帯になるとソニーやオーディオテクニカ、ゼンハイザーなどの有名処が目白押しになってきます。それでも「Porta Pro Wireless」を選ぶ理由は、圧倒的な軽さと、折りたたみ式の収納性、軽い装着感で開放型なのに中低域の量感がスゴイという点です。音漏れがかなりあるためパブリックスペースでの使用に制限がありますが、軽いので自宅でもネックスピーカー感覚でガンガン使えます。とにかく本機を一度も聞いたことのない人に、ぜひ聞いてみて欲しいヘッドホンなのです。