映像作品は、クリエイターたちの汗と涙の結晶です。撮影はもちろん、その後の編集や調整に膨大な手間と時間を費やして、はじめて映画やドラマが生み出されます。しかし、私たち視聴者が観る完成作品はクリエイターが意図した映像とは少し異なるものになっている、ということをご存知でしたか?
実はクリエイターが作品制作時に観ているモニターと、視聴者に映像を届けるテレビやスクリーンでは映像品質が異なるのです。クリエイターと視聴者の間には見えない壁がずっと存在していたということになります。
しかし、この壁を壊すテレビが今年10月に発売されました。
クリエイターが作った映像の風合いを、テレビでそのまま再現
ソニーの4K対応有機ELテレビ、ブラビアの「A9F」シリーズと「Z9F」シリーズに搭載されている「Netflix画質モード」。このモードこそが、クリエイターと視聴者を隔てていた壁を取り除いてくれる存在なのです。
Netflix画質モードとは?
クリエイターが作った映像本来の美しさをテレビの画面上で表現するために、ソニービジュアルプロダクツとNetflixが共同開発した画質モード。映像の編集・調整を行うマスターモニターの風合いを忠実に再現し、クリエイターが意図した映像を視聴者に届けます。Netflixで配信されているコンテンツすべてが、このモードに対応。対応テレビで一度設定を行えば、Netflix上のコンテンツはすべてこの画質モードで再生されます。
Netflix画質モードに対応したテレビが発売されてから約1か月半後の11月末日。表参道のNetflix本社で、Netflix画質モードについてのパネルディスカッションが行われました。当日は、Netflixのバイス・プレジデントであるスコット・マイラー氏、ソニービジュアルプロダクツTV事業部の主幹技師である小倉敏之氏、さらには「ハリー・ポッター」シリーズなどのヒット映画を手掛ける映画監督クリス・コロンバス氏が登壇。
Netflix画質モードを企画した意図や、クリエイター側から見たその革新性について語りました。
Netflix画質モードの目的は、「感動でクリエイターと視聴者をつなげること」
発表会で、スコット氏はNetflix画質モードの目的を次のように語りました。「Netflixは、クリエイターが作った映像をそのまま視聴者に届けたい。(演劇の)ショーを見るときのように」演劇を客席から観ている時、クリエイターが演じた(作った)ものがそのまま私たちの目に届きます。映像においても同じことを叶えたいとのこと。
その理想に共感したのがソニーでした。「ソニーのテレビ開発の背景は、クリエイターと視聴者を、感動を通してつなげるということ。意識しているのは、クリエイターズインテント(製作者の意志)です」。ソニービジュアルプロダクツの技師である小倉氏がこう語るように、Netflixとソニーが映像体験で目指す理念は同じだったのです。
2社が手を組み生まれたNetflix画質モード。小倉氏いわく「スタジオモニターの風合いをトータルで再現した」という画質は、トップクリエイターの目にどう映ったのでしょうか。
Netflix画質モードはシネマ界における四半世紀最大の革命だ
「ハリー・ポッター」シリーズなどを監督として手掛けたクリス・コロンバス氏は、Netflix画質モードを「シネマ界においてこの25年で最も大きな革命のひとつだ」と評しました。というのも、今まで彼は映画館やテレビの映像品質に対してかなりのフラストレーションをためてきたというのです。
編集・調整に撮影の3倍以上もの時間をかけて完成させた映像作品。そんな我が子とも言える作品がスクリーンに映ったとき、コロンバス氏の目には自分が作った作品とは異質なものとして見えたそうです。
「輝度(映像の明るさ・陰影の深さ)やフレームレート(映像のなめらかさ)などがあまりに違ってイライラした。映写室のドアをドンドン叩きたくなったこともあるよ(笑)」
「『クリスマス・クロニクル』(コロンバス氏の最新プロデュース作)を家にある3台のテレビで見たけれど、どれもフラストレーションがたまるものだった」
彼は冗談交じりに笑いながら語っていましたが、どうやらその怒りは本物のよう。そして、Netflix画質モードの映像を初めて見たときの感想を以下のように語りました。
「クリエイターとしての夢がかなった。Netflix画質モードは『こう見て欲しい』と意図したとおりの映像を見せてくれる。これで夜も安心して眠れるよ(笑)」
ホームシアターが映画館を超える日は遠くない
映像の要素には、解像度(映像のきめ細やかさ)、ビット深度(色のきめ細やかさ)、フレームレート、色域(色の鮮やかさ)、輝度の5つがあり、これらが向上することによって映像の品質が高まっていきます。
小倉氏が言うには、「テレビはすでに映画館を超えている要素がある」とのこと。つまり、映画館で見るより、ホームシアターで見たほうが高品質な映像を楽しめる日がもうすぐそこまで迫っているというのです。
筆者も発表会後に、Netflix画質モードで映されるコロンバス氏の最新作「クリスマス・クロニクル」を65インチのブラビアで体感しましたが、その映像のリアルさには言葉を奪われました。煌めく太陽の明るさ、1本1本まで精彩に描かれるトナカイの毛の動き、木目や金属の質感、肌のしわなど……その画面を通せば、CGすらもこの世のものにしか見えません。
10分強の視聴時間でしたが、モード効果を実感するには十分なスペクタクル体験。デモンストレーションでは、大型テレビの横にマスターモニターも設置され比較しながら観れましたが、その差はほぼないように感じました。
Netflix画質モードの対応テレビは、今後広がっていくものと予測されます。また、スコット・マイラー氏によれば「今後はスマートフォンなどあらゆるデバイスで実現していきたいと考えている」とのこと。Netflixとソニーが映像体験にもたらした革命は、これからどんどん進んでいくでしょう。