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カメラ
2019/1/4 19:00

まさに性能最優先。プロを魅了するペンタックス“新・スターレンズ”珠玉の1本

吉森信哉のレンズ語り~~語り継ぎたい名作レンズたち~~ 第9回「ペンタックス 新スターレンズ」

 

焦点距離50ミリ前後の単焦点レンズは、昔から“標準レンズ”として定着してきた(35ミリ判フルサイズのカメラで)。ズームレンズでは難しい明るい開放F値を持ちながら、小型軽量で値段も比較的安価。そんな標準単焦点レンズは、標準ズームのサポート役としても有効である。小型軽量なので携行時の負担が少なく、明るい開放F値を生かして、光量に恵まれない夜間や室内の撮影や、大きなボケ効果を得たい場合などに、その威力を発揮してくれるのだ。

 

一方、最近の傾向としては、大きさや重さは度外視(?)して、より優秀な光学性能・描写性能を追求した標準単焦点レンズも増えている。今回紹介するペンタックスの「HD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4 SDM AW」も、そんな“性能最優先”で開発された製品である。

 

【今回紹介する製品はコレ!】

リコー
HD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4 SDM AW
実売価格14万5650円

Kマウントデジタル一眼カメラ用レンズのなかで、特に高い描写性能を追求した「★(スター)」シリーズの大口径標準単焦点レンズ。デジタルカメラの進化に対応できるよう、社内規格を大幅に見直して、理想の画質を目指して開発された。逆光でもクリアな描写が得られるよう、最新のレンズコーティング技術を採用。また、防塵・防滴構造の採用によって、アウトドア撮影時の厳しい環境下での、信頼性・耐久性も高められている。2018年7月発売。

●焦点距離:50mm ●レンズ構成:9群15枚 ●最短撮影距離:0.4m ●最大撮影倍率:0.18倍 ●絞り羽根:9枚(円形絞り F1.4~2.8) ●最小絞り:F16 ●フィルター径:72mm ●最大径×全長:約80mm×約106mm ●質量:約910g

↑F1.4クラスの大口径広角や中望遠のような、堂々とした風貌の「HD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4 SDM AW」。ボリュームがあって重厚なK-1 MarkⅡボディとの相性(バランス)は良い

 

レンズ構成としては、フォーカス群(ピント合わせを担う)である変形ガウスタイプの後群に加え、前群に補正レンズ群を配置。それにより、変形ガウスタイプでは補正しきれない収差を効果的に補正し、画面全体で均一な解像性能とコントラストを実現しているのだ。

<本レンズの作例一覧(解説は記事後半で!)>

 

高度な光学設計と、良好な操作性・操作感

デジタルカメラ(ボディ)の画質性能のさらなる進化を視野に入れ、★(スター)レンズの規格を見直して開発された“新世代のスターレンズ”。その第1弾の製品が「HD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4 SDM AW」である。3枚の異常低分散ガラスと非球面レンズ1枚を採用して色収差や球面収差を良好に補正。これにより、画面中心から周辺部までクリアでコントラストの高い優れた描写性能を実現している。

 

また、被写体距離約1mでの歪曲収差をほぼゼロに補正。無限遠から最短撮影距離まで、歪みを抑えた安定した描写を得ることができる。なお、最短撮影距離は40cmという短かさだ。重量級のフォーカス群の駆動に高トルク仕様のリング型超音波モーター(SDM)を採用し、高速で快適なAFレスポンスを実現している。

↑50ミリ標準単焦点レンズの最短撮影距離は45cmの製品が多いが、本製品はそれより短い40cm。より高い描写性能を追求しながら、最短撮影距離も短縮……。これは結構スゴイ!

 

前述のとおり、昔からから“標準レンズ”として定着してきた50ミリの標準単焦点レンズは、小型軽量で比較的安価な製品が多かった。ペンタックスにも、フィルムカメラの時代から発売されている「smc PENTAX-FA 50mm F1.4」という、小型軽量(最大径×全長:65×37mm、質量:220g)な製品がラインナップされている。

 

その小型軽量な50mmF1.4と比べると、HD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4 SDM AWは、そのボリュームに圧倒される。全長は約3倍、質量は約4倍にもなるのである。だが、そのボリューム感が、重厚な35ミリ判フルサイズ一眼レフK-1シリーズボディにマッチする(個人的な印象だが)。

 

そして、使用感も良好。リング型超音波モーターを採用した新開発SDMを搭載し、高速かつ静かなAF駆動を実現している。また、AFモードのまま切り換えナシでMFにも移行でき、ピントリングの操作感もスムーズで滑らかである。ちなみに、このピントリングは幅広で操作しやすく、AF駆動時に回転することもないので、安定したホールディングが可能になる。

↑グリップ感にこだわった、幅広(約3cm)のピントリング。水滴が付いた際や、グローブ装着時にも操作性が損なわれない

解像感は? ボケは? HD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4 SDM AWを実写チェック

続いては、HD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4 SDM AWの描写性能をさまざまな角度から検証してみたい。

 

<F1.4開放時の描写性能>

↑こちらの画像の中央部と周辺部をそれぞれ部分拡大して検証/ペンタックス K-1 MarkⅡ HD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4 SDM AW 絞り優先オート F1.4 1/1000秒 -0.3補正 WB:太陽光 ISO100 三脚

 

画面中央部

 

画面左上

 

F1.4の絞り開放時の画質。そのあたりが、既存の50ミリと最新光学設計の50ミリとの違いだったりする(まあ、既存の50ミリの開放付近の少しソフトな(アマい)描写も、持ち味として作画効果に利用する場合もあるが……)。

 

しかし、このHD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4の開放画質は、画面の中央から周辺部まで、乱れもなくて非常にシャープである。また、にじみやフレアっぽさも感じさせないクリアさにも感心した。

 

<背景ボケの印象>

ペンタックス K-1 MarkⅡ HD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4 SDM AW 絞り優先オート F1.4 1/125秒 -0.7補正 WB:太陽光 ISO100

 

“解像力の高さ”は、レンズ設計時における重視な要素だが、その代償として“ボケ描写の汚さやかたさ”が気になるレンズも少なくない。開放F値の明るいレンズは、ボケを生かした撮影に使用されることも多い。それだけに、単にシャープなだけでなく、ボケ味にも気を配った設計のレンズが望ましい。

 

その点、HD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4は、従来の★(スター)レンズ以上の解像性能だけでなく、ナチュラルなボケ味も追求した製品である。変形ガウスタイプの後群に加えて、前群に補正レンズ群を配置することで、汚い描写になりがちな“二線ボケ”の元になる収差を補正している。これにより、エッジ部分が強調されないナチュラルなボケ味が得られ、点光源の“玉ボケ”も全体が均質な明るさになり、その輪郭のエッジも強調され、やわらかい印象になるのである。

 

上の写真の場合も、ピントを合わせた柱の右奥にある柱のボケ具合などを見ると「とても自然で柔らかなボケだなぁ」と感心する。

 

<F1.4開放時の周辺光量>

F1.4・周辺光量補正/オフ

 

F1.4・周辺光量補正/オン

 

開放付近の絞りで撮影すると、画面周辺部(特に四隅)が暗く落ち込む“周辺光量低下”が目立つレンズは多い。特に、青空のような全体がフラットな被写体や背景だと、その落ち込みが顕著にあらわれてしまう。

 

このレンズも、F1.4の開放で青空を撮影してみたところ、周辺部が暗くなる様子が確認された。しかし、その落ち込み具合はあまり大きくないので、こういったフラットな被写体でなければ気にならない場合も多いだろう。

 

また、K-1 MarkⅡに搭載されているレンズ補正機能の「周辺光量補正」を使用すれば、その周辺部の落ち込みも劇的に改善される。

 

<逆光撮影時のクリアさ>

ペンタックス K-1 MarkⅡ HD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4 SDM AW 絞り優先オート F2.8 1/200秒 +0.7補正 WB:太陽光 ISO100

 

逆光撮影時に、ゴーストやフレアの発生が目立つか?クリアな描写が得られるか? このあたりも、古いレンズと新しいレンズで差が出やすい部分である。

 

HD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4は、優れた低反射特性を持つ最新のエアロ・ブライト・コーティングⅡやHDコーティングなど、独自のレンズコーティング技術を採用。それによって、逆光でもゴーストやフレアの発生を抑えた、クリアでコントラストの高い描写を得ることができる。

↑画面内に強い光源が入る場合は別だが、多くの逆光時でゴーストやフレアの抑制に役立つレンズフード。本レンズには大型で花形のレンズフードPH-RBB72が付属する

 

描写力を生かした作例いろいろ

次に、本レンズの描写力を存分に生かした作例をご覧いただこう。

 

【作例①】

木の幹に絡む、色づいたツタの葉。その多くの葉のなかから、先端部に小さな穴のある一葉に注目し、その葉にピントを合わせる。F1.4の開放で撮影したので、後方にある葉は適度にボケていき、それが“立体感”を感じさせる。画面右側に写り込む、細い幹のボケ具合も自然で好ましい。

ペンタックス K-1 MarkⅡ HD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4 SDM AW 絞り優先オート F1.4 1/60秒 -0.3補正 WB:太陽光 ISO800

 

【作例②】

深い緑色の葉のなか、明るくて鮮やかな黄色のバラの花が、その存在感を見せつける。背後には木漏れ日のような明るい部分もあり、それが“玉ボケ”状に描写される。こういった部分が画面周辺部にある場合、開放付近の絞りで撮影すると、丸いボケが楕円状に変形する「口径食」が発生する。まあ、本レンズは口径食が目立ちにくい設計になっているようだが、万全を期して1段ほど絞って撮影した。円形絞りも採用されているので(F2.8まで)、角の出ない美しい玉ボケが得られる。

ペンタックス K-1 MarkⅡ HD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4 SDM AW 絞り優先オート F2 1/200秒 WB:太陽光 ISO200

 

【作品③】

公園の芝生すれすれの高さにカメラを構え、芝生越しに公園内の木立にピントを合わせた。F1.4開放によって大きくボケる芝生が何だが幻想的……。また、画面右上に夕日を写し込んだが、クリアでヌケの良い描写に感心した。ピントを合わせた木立ちの枝や葉のシャープさも好ましい。

ペンタックス K-1 MarkⅡ HD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4 SDM AW 絞り優先オート F1.4 1/800秒 +0.3補正 WB:太陽光 ISO100

 

新スターレンズの実力を見せつける“珠玉の1本”

カタログなどに掲載される「HD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4 SDM AW」の製品画像。そして、仕様表に記載されているサイズや質量。それらを目にしたとき、正直、少し戸惑いを覚えた。「どんなに光学性能が優秀でも、ここまで大きくて重い標準レンズだと、快適に使えないのでは?」と。

 

しかし、前述のとおり、使用ボディがボリューム感のあるK-1 Mark Ⅱということもあり、不思議と大きさや重さは気にならなかった。また、使用感の良さも気に入ったし、何よりも“描写の素晴らしさ”に感心した。絞り開放から画面全体がシャープでクリア、二線ボケを抑制し玉ボケも美しい、無限遠から最短40cmまで安定した光学性能……。使い込むほど、その描写の良さに魅了された。

 

大きさと重さ以外に“価格が高め”というハードルも待ち受けている。しかし、この「HD PENTAX-D FA★ 50mm F1.4 SDM AW」は、その価格に見合う実力を備えた“珠玉の1本”と呼べるレンズだと、自分は思う。