今年も1月8日から11日まで、アメリカ・ラスベガスで世界最大のコンシューマーエレクトロニクスショー「CES」が開催されました。CESで出展された製品を振り返りながら2019年のヘッドホン・イヤホンの動向を予想してみたいと思います。
完全ワイヤレスイヤホンはさらに多様化
2018年はオーディオテクニカやゼンハイザーなど人気のブランドも初参戦して盛り上がった完全ワイヤレスイヤホン。有名なアスリートが国際大会で身に着けていたことから、アップルのAirPodsも爆発的にヒットして認知も一気に高まりました。
2019年はいよいよ完全ワイヤレスイヤホンをまだ出していなかったブランドも参入してきそうな予感もするなかで、先行してきたブランドも負けじと第2弾・第3弾以降の凝った新製品を投入してくるでしょう。色んな機能、機構を採り入れた多彩な新製品が年初から出そろってくるのではないでしょうか。
CESで見つけた新製品を例に挙げるなら、AVIOTの「TE-BD21f」です。本体に2基のBA型ドライバーと1基のダイナミック型ドライバーを乗せた完全ワイヤレスイヤホンです。
贅沢なハイブリッド構成としながらボディのサイズ感は控えめ。女性も身につけやすいのでは。ブラックとダークシルバーの高級感のあるカラバリを用意します。グローバルの販売価格は400ドル(約4.3万円)を予定。aptXのコーデックに対応したほか、クアルコムのオーディオ用SoC「QCC3020」を搭載して、音楽再生時の音切れやノイズの混入を徹底して抑えています。最長音楽再生時間は約7時間。
クリプシュはきれいなメタルケースの完全ワイヤレスイヤホン「T5 True Wireless Headphones」を発表しました。5月に199ドル(約2.1万円)で発売を予定しています。クリプシュ独自の楕円形のイヤーチップにより安定したフィット感を実現。aptX HDにも対応しているそうですが、接続性を確認してみたいところ。クアルコムのどのチップセットを使っているのか情報が明らかにされていないので気になりますが、日本で発売されたらぜひ音も聴いてみたいです。
SOL REPUBLICからはアクティブノイズキャンセリング機能を搭載する完全ワイヤレスイヤホン「AMPS AIR+」が出展されていました。本体はIPX5相当の防滴対応。クイックチャージ機能を採用しています。
1万円台のハイクオリティな入門機にも要注目です。戦略的な製品を投入してくるブランドはJBLです。
JBLは2019年前半までにふたつの新製品を用意しています。ひとつは「JBL Reflect Flow」。人気のスポーツイヤホン“Reflect”シリーズの完全ワイヤレス版です。特徴はIPX7相当の防水仕様と外耳にフィットするスタビライザー。内蔵マイクで環境音をモニタリングできるアンビエントサウンド機能も搭載して、149ドル(約1.6万円)というコスパの高さが魅力です。
さらにコスパで攻めている製品が「JBL Tune 120 TWS」です。価格はなんと99ドル(約1万円)。Reflect Flowのように防水性能は持っていませんが、小さいボディながら低音を強化。1万円以下の完全ワイヤレスイヤホンは現在もそこそこ数はありますが、音質や機能に満足できる製品は数えるほど。完全ワイヤレスイヤホンの新定番・入門機になれるのか。アメリカで3月に発売を予定する本機の日本上陸が今から楽しみです。
House of Marleyの「LIBERATE AIR」はハウジングの外装にバンブー(竹)をあしらった完全ワイヤレスイヤホン。本体はIPX4相当の防滴仕様。イヤホン単体で音楽を連続7時間再生できるバッテリー性能を実現しています。発売時期は7月以降。価格は149ドル(約1.6万円)を予定しています。
ヘッドホンもワイヤレス+ノイキャンが当たり前に
Bluetoothによるワイヤレスリスニングと、アクティブノイズキャンセル機能を一体化したヘッドホンは、ソニーのWH-1000XM3やボーズのQuietComfort 35-IIなどの高級機が相変わらずの人気ですね。開発に高い技術力を必要とすることから、いまから数年前には限られたブランドのプレミアムモデルがあるだけでしたが、2018年にはスカルキャンディから2万円台の「Venue」も登場。ソニーの「WH-CH700N」など2万円前後のゾーンが賑わっています。今年はさらに裾野が広がりそうです。
ここでもやはり注目したいブランドはJBLです。「JBL Live 650BTNC」はワイヤレス再生とノイズキャンセリング機能を搭載しながら、GoogleアシスタントとアマゾンAlexaのAIアシスタントも統合してしまった迫力のフルスペック機。それでいて価格は199ドル(約2.1万円)と値頃感は抜群。3色のカラバリを揃えてアメリカで3月に登場します。
さらにスゴいモデルは「JBL Tune 600BTNC」。名前を見て何となくわかる通りBluetooth(BT)+ノイズキャンセリング(NC)機能を搭載したヘッドホンですが、価格は驚きの99ドル(約1万円)。ライトウェイトなので、女性がバッグに入れて持ち歩くのにも最適です。アメリカでは既に発売されて好調と聞きました。日本上陸はいつになるのでしょうか。若い音楽ファンに本機でぜひ、BT+NCヘッドホンの良いところを実感して欲しいと思います。
Jabraの「Jabra Elite 85h」はブランド初のノイズキャンセリング機能を搭載するヘッドホンでもす。大きな特徴は数々のスマート機能を内蔵したところ。そのひとつの「SmartSound」はヘッドホンに内蔵するマイクが常時周囲の環境音をモニタリングして、ノイズキャンセリングの効果を自動的に強すぎず弱すぎない、最適なレベルにキープしてくれます。ノイズキャンセリングをオンにし続けた場合でも、1回のフル充電で最大32時間のバッテリーが持続します。
さらにマイクを常時オンにしながら電力消費を可能な限り低く抑えるテクノロジーによって、本体のボタン操作などをせずに、スマートスピーカーのように音声操作だけでAIアシスタントを起動できる「ハンズフリー・ボイスアシスタントコントロール」の機能も便利そうです。SmartSoundとハンズフリー・ボイスアシスタントコントロールの機能はそれぞれ屋外で使う場合を考えて、モバイルアプリ「Jabra Sound+」からボタンを使ったマニュアル操作に切り替えることもできて安心。音楽プレーヤーとの間はSBCを改良したオーディオコーデックのmSBCに対応します。
パナソニックのHi-FiオーディオブランドであるテクニクスもBluetoothワイヤレス+ノイズキャンセリング機能を搭載するヘッドホン「EAH-F70N」を発表しました。アメリカでの販売価格は450ドル前後(約4.8万円)とやや高め。プレミアムクラスのヘッドホンに位置付けられます。発売予定時期は夏ごろ。新開発の「Composite Performance Film」を振動板に採用した40mm口径のドライバーがどんな音を聴かせるのか、試せる日が待ち遠しいです。昨年パナソニックが発売したヘッドホン「RP-HD600N」と同様に、Bluetoothオーディオのコーデックはハイレゾ相当のワイヤレス再生が楽しめるLDACとaptX HDを両方サポートしました。
ゲーミングに最適なヘッドホン・イヤホンも続々
昨年はゲームによる対戦スポーツ競技「eスポーツ」が流行語にもなりました。今年も世界中でその勢いが止まらないであろう、熱気をCESの会場でも感じました。
オーディオとゲーミングアクセサリーのブランドによるコラボレーションも熱を帯びています。今年もCESに出展したゼンハイザーは、ゲーミングARヘッドセット「Magic Leap One Creator Edition(以下:Magic Leap)」のために開発したイヤホン「AMBEO AR One」をブースのセンターに配置しました。
Magic Leapは透過型のディスプレイを採用。実世界の風景にコンピュータ・グラフィックを重ね合わせたゲームやエンターテインメントコンテンツを楽しめるARヘッドセットです。その本体には3.5mmのイヤホンジャックが搭載されていて、ゼンハイザーのAMBEO AR Oneを接続するとMagic LeapによるARのビジュアル体験に没入感を盛ってくれるサウンドが追加されます。
イヤホンの本体左右にはマイクが内蔵されていて、ヒアスルー機能をオンにすると外の音をピックアップ。反対に機能をオフにして、パッケージに付属するComply製のイヤーチップを装着すれば外部のノイズをシャットアウト。ARの世界により深く入り込めます。耳掛けタイプのイヤホンなので、ARヘッドセットを装着したままでも軽快で安定したフィット感が得られました。残念ながらゼンハイザーのヘッドセットの販売はしばらくのあいだはMagic Leapのオンラインストア、または製品を取り扱う米国の店舗のみで行われるそうです。
HyperXが発表した「Cloud Orbit S」はアメリカのヘッドホンブランドAudeze(オーデジー)が開発した「Mobius」をベースにするゲーミングヘッドセットです。Bluetooth接続の機能はなく、USBでPCにつなぐか、3.5mmアナログステレオミニ接続を基本としています。本機にはジャイロセンサーを内蔵。最初に頭の位置をキャリブレーション設定で定めると、ユーザーが顔の向きを360度変えても音が元の位置に定位する「Wave NX Technology」の3Dヘッドトラッキング機能を搭載しています。アクション、シューティング系のゲームに臨場感が加わって、ますますのめり込めそう。USB接続時にはヘッドホンに内蔵されているDACとアンプを使ってハイレゾ再生も楽しめます。価格は329.99ドル(約3.5万円)。
ポータブルオーディオファンにお馴染みのオンキヨーも、新たに「SHIDO=士道(シドウ)」というゲーミング専用オーディオアクセサリーのブランドを立ち上げます。
CESの会場にはゲーミングヘッドセットとUSBコントロールアンプの試作機が参考展示されていました。残念ながらまだ音を聴くことはできなかったものの、ヘッドホンの本体がものすごく軽くて装着感も抜群でした。メガネをかけたまま身に着けられるし、長時間ゲームをプレイしていても苦にならないと思います。オーディオメーカーならではのゲーミングヘッドホンとして注目されること間違いありません。国産のゲーミングオーディオブランドにぜひ高く羽ばたいて欲しいですね。
ソニーがスマホで手軽に360度サウンドが楽しめる新しい音楽体験を発表
最後に、ソニーが新しいコンテンツサービスを立ち上げたことを報告しておきましょう。「360 Reality Audio」と名付けられた、最大24個の音源をユーザーを中心に全天球360度に配置して没入感あふれるサウンド体験を提供する立体音響技術です。
最初は360 Reality Audioの制作ツールでつくられた専用の音源を、DeezerやTIDALなど4社が提供するスマホ向けの音楽配信サービスが配信します。スマホにアプリをインストールして音源をストリーミングして聴くスタイルです。組み合わせるヘッドホン・イヤホンは特別なものでなくても大丈夫。一般的なオーディオ用の製品でOKです。スマホによるアウトドアリスニングでも、まるでマルチスピーカーを周囲に配置した環境で、音が360度ぐるりと囲まれ、飛び交うような臨場感豊かなサウンドがいつでも・どこでも楽しめます。
ソニーはCESで360 Reality Audioの技術発表まで行いました。まだいつ頃、世界のどこで、どうやってサービスが始まるのか具体は明らかにされていませんが、ソニーの担当者は「近いうちに詳細を発表したい」と話していました。ハイレゾとはまたひと味違った、新しい音楽の臨場感を届けてくれそうなソニーのサービスにぜひ注目しましょう。