吉森信哉のレンズ語り~~語り継ぎたい名作レンズたち~~ 第10回「ペンタックス Limitedレンズ」
各社の交換レンズ群のなかには、描写性能の優秀さや個性的な特徴ゆえに「このレンズは、ひと味違う!」とファンやユーザーを心酔させるレンズシリーズが存在する。今回紹介するKマウントレンズの広角単焦点レンズ「smc PENTAX-FA 31mmF1.8 AL Limited」も、そんなレンズのひとつである。開放F値の明るい高性能な広角単焦点レンズは、ほかにも(他社含め)数多くあるが、smc PENTAX-FA 31mm F1.8 AL Limitedの魅力はどこにあるのか? 今回は、その魅力の一端を“冬の気ままな撮影旅”で探ってみたい。
【今回紹介する製品はコチラ!】
リコーイメージング
smc PENTAX-FA 31mmF1.8 AL Limited
実売価格11万1880円
Limitedシリーズ共通の、高級感・精密感があるアルミ削り出しの、開放値F1.8の大口径広角単焦点レンズ。ガラスモールド非球面レンズや高屈折率低分散レンズを贅沢に採用し、高コントラストで切れ味のよい結像性能を実現。また、フローティングシステムの採用により、全撮影距離域での安定した描写性能を誇る。ボディと一体型の花型フードを採用しているが、円偏光フィルターの操作も可能である。2001年5月発売。
●焦点距離:31mm ●レンズ構成:7群9枚 ●最短撮影距離:0.3m ●最大撮影倍率:0.16倍 ●絞り羽根:9枚 ●最小絞り:F22 ●フィルター径:58mm ●最大径×全長:65mm×68.5mm ●質量:約345g ●カラー:ブラック、シルバー
2001年発売ながら、古さを感じさせない魅力がある
smc PENTAX-FA 31mmF1.8 AL Limitedは、2000年代初めに発売された、年季が入った製品である。この“年季が入った”という表現は、必ずしも好意的ではない。事実、こういった十数年以上前に発売された交換レンズになると、光学設計や機構などをリニューアルした後継モデルの登場を望む声が多くなる。だが、ペンタックスのLimitedシリーズは、ほかにはあまり類を見ない上質な外観や“独特な味付けの描写”の魅力が大きいせいか、今もあまり古さを感じさせないのである(筆者の感想として)。
そんなペンタックスの名物レンズの1本であるsmc PENTAX-FA 31mmF1.8 AL Limitedの魅力は、杓子定規なチェック撮影をするより、楽しみながら撮影したほうが伝わるのでは? と、勝手に決めつけて、冬の旅に持って行くことにした。
草津温泉で、朝の温泉街風情をスナップ
夜が明ける前、同行する友人のクルマで都内の自宅を出発。そして、朝の8時頃には群馬県の「草津温泉」に到着した。といっても、目的は入湯ではない。天気も良いので、朝の清々しい“温泉街の風情”をスナップしたいと思ったのである。
草津温泉といえば、日本三名泉のひとつに数えられる、あまりにも有名な温泉である。その温泉街の中心に位置する「湯畑」は、草津温泉のシンボル的な場所(施設)。そこから立ち上る湯煙と硫黄の匂いが、温泉街の風情を強く感じさせる。
湯畑から立ち上る湯煙が、抜けるような青空とまぶしい太陽の下で映える。とてもフォトジェニックなシーンだが、レンズの逆光性能が問われるケースでもある。だが、画面内に太陽を入れて撮影しても、全体的にクリアな描写が得られて、ゴーストの発生もあまり気にならなかった(まあ、わずかに発生するが)。
ただし、強い光源が画面内にはなくても、その付近にあると少し目障りなゴーストが発生することもある。そういう場合には、手のひらや紙などで“ハレ切り”をしたり、少しレンズのアングルを変えてみる、といった工夫をすると良いだろう。
湯畑で撮影した次は、温泉街の路地をぶらついてスナップしたり、西の河原公園まで足を延ばしたりしてみた。
ところで、今回持参したsmc PENTAX-FA 31mmF1.8 AL Limitedで気になるのが、「31mm」という、あまり見かけない焦点距離だ(APS-Cサイズ用で30mmの単焦点レンズはあるが)。この31mm、広角レンズの定番である28mmと35mmのほぼ中間の焦点距離だが、ファインダーを覗いた感覚では、個人的にはどちらかといえば「28mmに近いかも」という印象を受けた。とにかく、画角も遠近描写も違和感を感じにくい“使いやすい広角レンズ”といえるだろう。
smc PENTAX-FA 31mm F1.8 AL Limitedは、超音波モーターを内蔵する製品ではなく、AFモードのままで常時MFでのピント合わせが可能な“クイック・シフト・フォーカス・システム”が搭載されているワケでもない。だから、AF駆動の際には作動音が少し気になるし、フォーカスリングの動きにも注意したい(リングの動きを阻害しないように)。ただ、操作面で気になったのは、その2点くらいである。
レンズの写り具合や被写界深度は絞りの設定値によって変わるが、広角レンズでは“絞りを開けて背景をぼかす”という撮り方は、あまり意識しないかもしれない。しかし、今回の場合は、ボディがボケに有利な35mm判フルサイズで、レンズの開放値が「F1.8」と明るい(一般に、センサーサイズが大きいほど、あるいはF値が小さいほどボケ量は大きくなる)。だから、近くの被写体に接近して開放付近で撮る……というアプローチで、ボケ効果を生かした広角スナップも積極的に行いたい。
絞り開放付近での、クセの少ない美しいボケ描写。絞り込んだ際の、キレが良くて緻密な描写。smc PENTAX-FA 31mm F1.8 AL Limitedの写りの特徴を端的に述べるとしたら、こういった表現になるだろうか。そんな特徴を念頭に置きながら、周囲の明るさや被写体との距離に応じて絞り値を選択し、自分のイメージに合った“描写や表現”を実現したい。
草津温泉を訪れたあとは、嬬恋村まで南下して、道中の自然風景を撮影しながら、長野街道(国道144号)や県道94号線を経由し、長野県東部の城下町「小諸」へ向かった。
小諸市内の見所で、真っ先に名前が挙がるのが「小諸城址 懐古園」である。敷地内を散策すると、コケ痕が歴史を感じさせる城の石垣や、足元に散らばる秋の名残り(枯葉)といった趣のある被写体が撮影欲をくすぐる。こういった出会いもまた、撮影旅の醍醐味だろう。
旅を通じて、単焦点やLimitedシリーズの魅力を再確認
実際には、旅の撮影に“単焦点レンズ1本で出かける”というケースはそう多くないだろう。しかし、今回ペンタックスのLimitedシリーズのなかから1本を取り上げようと思ったことで、図らずも「自分が自然に使える焦点距離は何mmだろう?」ということを再考する機会が生じた。
長年、一眼レフでは35mmを標準代わりに使ってきたし、28mmレンズを搭載するリコーGRシリーズ(フィルムカメラの)も愛用してきた。そんな自分にとっては、このあと紹介する43mmでも77mmでもなく「31mm」の画角や遠近描写がしっくりきたのである。
もちろん、焦点距離や開放F値などの仕様だけではない。Limitedシリーズならではの材質感や重厚感、デザインやサイズ、そういった要素が醸し出す“上質な単焦点レンズの風格”が、このsmc PENTAX-FA 31mmF1.8 AL Limitedを選んで使う、最大の喜びや醍醐味だろう。冬のきままな旅で、そのことを再確認したのである。
ほかのフルサイズ対応Limitedレンズも魅力的
執筆時点(2019年2月)では、高級感と精密感のあるアルミ削り出し外観の「Limitedシリーズ」レンズは全部で9本。そのうち3本が、35mm判フルサイズに対応する「FAレンズ」である。いずれも単焦点レンズで(APS-Cサイズ用はズームレンズがある)、今回紹介する広角の31mm以外だと、標準43mmと中望遠77mmがラインナップされている。
どちらのレンズも小振りでシブい外観で、開放値がF2よりも明るい大口径タイプである。今回撮影旅で使用した31mmを含め、自分が自然に使える焦点距離を選ぶといいだろう。