風薫るターフをサラブレッドたちが駆け抜けていく――。ここはJRA京都競馬場。新しい令和の時代を迎え、心なしか競馬ファンの歓声も清々しく響き渡っている。
上の写真はプロのスポーツフォトグラファーが大口径の超望遠レンズを駆使して捉え切ったもの……ではない。アマチュアの写真ファンが、コンパクトなミラーレスカメラとズームレンズで撮ったものだ。舞い上がる砂のなか騎手と競走馬が魅せる一瞬の駆け引き、あるいは鮮やかなツツジを背景に駆ける引き締まった競走馬の脚と舞い上がる芝のなんとダイナミックなことか。
競走馬は動きも速く、捉えるだけでも一苦労。当然ながら柵などもあり、撮影には工夫が必要だ。そんな難しい条件のなか、こうしたパッと見て“カッコいい!” “すごい!”と感じる写真を撮影できたのには大きく2つの「理由」があった。そこに良い写真を撮るためのヒントがありそうだ。
すごい写真が撮れた理由その1:プロ写真家の対面指導
1つ目の理由は、プロ写真家の対面指導で、適切な撮影ポジション取りやカメラ設定のコツ、撮影のノウハウがつかめたから。
冒頭の写真は「京都競馬場で競走馬を撮ろう!」というアカデミーXの写真講座で参加者(奥村 歩さん)が写したものだ。アカデミーXとは昨春よりスタートした富士フイルム主催の写真セミナーで、同社のミラーレス一眼「Xシリーズ」の使い方講座をはじめ、プロ写真家の指導が受けられる撮影会など、さまざまなプログラムが用意されている。
<もっと詳しく! アカデミーXって何?>
「アカデミーX」は富士フイルムが運営するセミナー方式のカメラスクール。特に、プロ写真家による指導の講座は人気が高い。「わたらせ渓谷鐵道・トロッコ列車と銅山へ続く廃線跡撮影」などの鉄道、「初めてでも撮れる! Xシリーズで飛行機撮影講座 in 羽田空港」といったヒコーキ撮影、さらにユニークな講座としては「写真集から読み解くスナップ術」などバラエティ豊かなセミナーが目白押し。
毎月40講座程度が企画・実施されているが、人気の講座はすぐに定員になってしまうので、ウェブサイトをまめにチェックしよう。また、アカデミーXのFacebookでは講座の様子等を紹介している。こちらはほぼ毎日更新されているので要チェック。「山小屋に泊まって尾瀬を撮り歩く撮影会も企画中ですし、Xシリーズだけでなく、ラージフォーマットセンサー搭載のGFXシリーズの貸し出しセミナーも検討しています。これからも皆さんの撮影の機会を広げる場を提供してまいります」(富士フイルム 光学・電子映像事業部の加藤玲子さん)。
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女性限定スペシャル企画の本講座では、地元・京都や大阪、神戸などから富士フイルムXユーザーの皆さんが愛機を携えて同競馬場に集まった。年齢も好きな被写体もさまざま。むしろ、これまで馬を撮った経験のある参加者のほうが少数派で、なかには「競馬場を訪れたこと自体が初めて」と、ちょっぴり緊張気味の方も。
セミナーは京都競馬場グランドスワン内のイベントスペースにて、講師を務めるプロ写真家・沖野 豊さんのミニオリエンテーションからはじまった。「機会は1度きりじゃないので、少しずつ慣れていきましょう。今日は晴天なので感度はISOオートがおすすめ。動きをカチッと止めるには高速シャッターにセットして高速連続撮影を基本にしてください。フィルムシミュレーションはお好みで。芝のグリーンは『べルビア』だとさらに鮮やかに写せます」(沖野さん)
<講師Profile>
沖野 豊(Yutaka OKINO)
大阪芸大・写真学科卒業後、写真通信社スタッフを経て1988年からフリーランスの写真家として活動。 京都の神社仏閣で光と影を活かした作品を撮るほか、ポートレートや競走馬なども撮影。TS(サードステージ)事務所代表。作品づくりのほか、写真教室の運営・管理や講演などもこなす。2004年よりタイ・バンコクで写真教室「レンマイ」を運営しながら撮影も行っている。日本写真家協会会員。タイ王国バンコクレンマイ写真教室主宰。NHK講師、富士フイルム「アカデミーX」講師など。
座学のあとはいよいよ撮影体験に突入!
最初のレースは距離1600m、サラブレッド系3歳馬の17頭立て。全員がゴール近くに陣取り、スタート(発走)を待つ。沖野先生はすかさず、「ここではローポジションに構え、たとえば馬の蹴りで芝が舞うシーンを狙ってみるのも面白いでしょう。ピント合わせはマニュアルに切り替えて、事前に馬が走るあたりの芝に見当をつけておいてください」といわゆる“置きピン”撮影をアドバイス。
巨大なターフビジョンに映し出されたライブ映像も気にしつつ心の準備に取り掛かる。発走してしまうと第4コーナーまであっという間。もともとXシリーズは上品なシャッター音だけに周囲の競馬ファンの歓声や競走馬の疾走音で連写の音はほとんど聞こえてこない。サラブレッドたちは一瞬にして目の前を通り過ぎていった。「わ、速いっ」と誰ともなく声が上がり、「タイミングがずれたー」とのため息ももれてきた。
合いの手のように「失敗しても気にする必要ありません」と先生の声がかかる。続けて「馬のスピード感は多少なりともつかめたと思うので、軌道修正して次のレースに臨みましょう! 今度は第4コーナー近くに移り、馬がカーブしてくるところを狙います。ちなみに競走馬のトップスピードはおよそ75km/h。今度はカメラのAFモードを『AF-C+ゾーン』にセットしてみてください」との指示が。さすが沖野先生、写真教室の講師経験も豊富で、若いころから競走馬を撮影していたというだけあって、アドバイスも簡潔明瞭そのものだ。
すごい写真が撮れた理由その2:ミラーレスカメラ「Xシリーズ」
冒頭の写真が撮れたもう1つの理由は、今回参加者が使用した富士フイルムのミラーレスカメラ「Xシリーズ」にある。俊敏なAFと定評ある写真画質に加え、コンパクトなので取り回しがよかったからというのも大きいだろう。
今回、皆さんが自身のXシリーズカメラを携行してきたものの、希望者には最新ミラーレス機「X-T30」や望遠ズームレンズ「XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WR」などの貸し出しも行われた。
X-T30は、沖野先生も愛用する上位機種「X-T3」とセンサー・画像処理エンジンが一緒で画質も同等。先代のX-T20と比べてAFや連写性能が大きく進化し、動きモノ撮影に強くなっている。ふだんX-T10を使っているという参加者は、「X-T30になってAFがとても俊敏になっていてビックリ。連写できる枚数も増えているようで、撮影もホント快適です♪」と白い歯を見せた。
<もっと詳しく! X-T30ってどんなカメラ?>
2019年3月に発売されたばかりのX-Tシリーズ最新モデル「X-T30」。小型軽量ボディながら上位モデル「X-T3」と同じ第4世代のセンサーと画像処理エンジンを搭載し、同等の画質性能を備えている。スピード面でも進化が著しく、像面位相差AFの範囲が画面100%に拡大されたほか、最速30コマ/秒の高速連写にも対応した(電子シャッターかつ1.25倍クロップモード時)。
■X-T30の詳細はこちら
沖野先生も「X-TシリーズのセンサーはフルサイズではなくAPS-C判と呼ばれる一回り小さなものですが、富士フイルム独自のX-Trans CMOS センサーの最新バージョンで画質は文句なし。しかも同じ焦点距離のレンズなら、APS-Cセンサー搭載機のほうがより望遠で写せるから、競馬をはじめとするスポーツ撮影にも適してますよ」とXシリーズの魅力を熱く語る。
ところで、参加者が一様に驚いていたのは、競馬場が広くて開放的なことはもちろん、予想以上に清潔でオシャレな雰囲気だったこと。子ども連れの家族も多く、女性の姿もごく普通に見受けられた。近年は、「UMAJO(馬女/ウマジョ)」と呼ばれるケイバ好きの女性ファンも格段に増えているそう。そうした流れを受けて、今回の女性限定の競走馬撮影会が実現したようだ。
何を求めて参加し、何を得たのか――参加者のリアルな声
思い思いに撮影を楽しみ、計7つのレースにレンズを向けた一行は15時発走のレースを最後にイベントルームに戻って先生によるワンポイント講評へと入った。「馬の毛並みもキレイだし、良いタイミングじゃないですか! 馬の脚の形でだいぶ写真の印象や良し悪しが変わるので、連写した中からベストカットを選ぶ“目”も大切。今日が初めてという方も、フレーミングなどの狙いどころはちゃんとしてますね」と沖野先生。参加者の皆さんの顔が紅潮し、目がきらきらと輝いていたのは、五月の光が強かったからだけではないようだ。
では、この日撮影された参加者の写真を少し見てみよう。冒頭で紹介した以外にも、躍動感が伝わってくる写真が並ぶ。
<沖野先生のコメント>
どれも迫力ある一瞬を切り取ることができていますね。これもXシリーズの高速連写があってこそです。写真って、その場に立つ・立たない、フレームに取り込む・取り込まない、シャッターを切る・切らないといったように二者択一の連続だと思うんです。失敗を恐れず、とにかく撮ることが先決。あとは、お気に入りのカメラで撮るのも大事。皆さん、描写力に魅了されてXシリーズを選ばれたようですが、そういう気持ちって、写真にも表れるものなんです。
ここからは、撮影会を終えた参加者に話を聞いていこう。
まずは、馬に限らず動物が好きで、動物園でもよく撮影するという宮本さん。愛機はコンパクトさと描写性の良さで買い求めたX-T10。この日は、最新ミラーレスX-T30と超望遠ズームXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRも体験した。
「100-400mmレンズを装着しても思ったより構えやすかったです。ここまで大きく写せると遠くから被写体を狙えるので、シャッターチャンスも広がりますね。お借りしたX-T30のAF性能はもちろん、連写も進化しているようで、途中で連写のスピードが落ちたりすることも感じなかったです」(宮本さん)
続いてお話をうかがった山崎さんはX-T20ユーザー。富士フイルムのXシリーズは色がきれいなので購入したという。競馬場での撮影は2回目。今回の撮影セミナーに参加したのは、望遠ズームを試したかったことに加え、動きモノ撮影に挑戦したかったからだそうだ。
「目の前を走る馬のスピードって速いんですよね。最初タイミングをつかむのにコツがいりましたけど、終盤は感覚がつかめてきました。先生のご指導はわかりやすく、講評でちょっと褒めていただいたりもしてうれしかったです。貴重な体験ができました。ありがとうございました」(山崎さん)
そのほかの参加者からも、「いつもは主に自然風景を写しています。一度、競走馬を撮ってみたいと思って参加させていただきました。今日はやや広めの画角で狙ってみましたけど、動きものの撮影はやはりコツがいりますね。良い経験になりました」「今回はフジノンレンズ XF55-200mmF3.5-4.8 R LM OISを借りました。競走馬の撮影は自分が飼っているワンちゃんを撮るのと全然違って難しかったですけど、楽しかったです」といった感想が聞けた。皆さん、参加の理由は違えど楽しんでいた様子。今回は全員が一人での申込みだったが、撮影の合間に自然と談笑する姿も印象的だった。
初級者でも参加しやすい雰囲気がうれしい
アカデミーXは比較的少人数のため密度の濃い撮影が期待できるのも魅力の1つ。初級者でも講師の方に直接質問しやすい環境なので、まずは気軽に参加してみて、その雰囲気を味わってみるのもいいだろう。今後はますます講座のバリエーションや機材貸し出しなどが充実していくとのことなので、興味を引く講座がきっと見つかるはずだ。
ちなみに、富士フイルムのミラーレスカメラ「Xシリーズ」は東京・丸の内にある富士フイルム イメージングプラザや、東京、大阪、福岡の各サービスステーションでレンタルすることもできる(一部機種を除き、基本的に当日返却は無料!)。今回の撮影会でも好評だったXシリーズの描写力や色再現性、高速性能などは実際に使ってこそ真価がわかるものなので、気になる方はぜひ一度試してもらいたい。
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<撮影協力/JRA京都競馬場>
日本中央競馬会JRAが施行・管理する全国10か所の競馬場の1つ。芝、ダート、障害のコースを備え、芝の第3コーナーには高低差約4.3mの“淀の坂”がある。GⅠだと「天皇賞(春)」「菊花賞」「エリザベス女王杯」などが開催される。特徴的な円形パドックの向かいには、女性限定のリラックススペース「UMAJOスポット」が用意されている。
「最近、カメラをお持ちの女性のお客さまも増えている印象ですね。注意点としては、撮影に当たっては三脚や踏み台の使用はご遠慮いただいておりますので、ご協力をお願いいたします。UMAJOスポットには女性のコンシェルジュがいますので、初心者の方もご安心ください。ワンドリンク無料サービスもぜひご利用を。オリジナルスイーツもおすすめです」(京都競馬場お客様課サービス担当・樋口茉央さん)
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文/金子嘉伸 状況撮影/我妻慶一